第4話 昔の話

 小学生の頃はよくからかわれたものだ。


 登校と下校の時には毎日のように七緒と手を繋いでいた。その頃には七緒は随分と活発になっていて、俺は彼女に手を引かれるようにして歩いていた。同級生からは揶揄の言葉を浴びせられ、他学年の児童たちには好奇の視線を向けられた。それでも俺と七緒は気にしなかった。七緒はそもそも何故からかわれているのかすら解っていなかったし、俺はどこか達観していて、子供のすることだと歯牙にもかけなかった。


 いつしか周囲からの野次もなくなり、俺達の関係は当たり前のものとして捉えられるようになった。高学年になり思春期になっても特に囃したてられることもなく、男友達からは逆に羨ましがられたぐらいだ。この時すでに七緒は誰もが認める美貌に成長していた。


 大変だったのは中学に入ってからだ。少子化の影響か、俺の行った中学校には複数の小学校から生徒が集まってきた。当然のごとく噂になり、好奇の眼差しは激増し、そのおかげで友人も増えた。流石に子供じみたからかいをする人間はいなかったが、ある意味もっとタチの悪い質問を投げかけられることになった。中学生といえば、人生で最も性に関心のある時期だ。やれどこまでやっただの、やれどうだっただの、毎日のように降っては湧く思春期のとてつもないエネルギーにうんざりしていた。


 実際のところ、俺と七緒は何もないのだ。付き合っているわけでもなく、ましてやその方面の関係など持ったこともない。それでも、端から見れば自分達がどう映るかは理解しているつもりなので、誤解されること自体はしかたないと思っていた。


 結局、俺達は小中学生の間、ずっと恋人同士だと思われていたようだ。否定しなかったからなのだろうが、ムキになって否定したとても結果は同じだっただろう。


 高校に入学して一年余り、俺と七緒の関係は何も変わっていない。

 幼稚園の帰り。初めて手を繋いだ、あの頃のままだ。

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