ひとり遊びの覗き見に

真花

第1話 代弁エレベーター

 大企業に就職してはや十年、異動した先は政治対策部だった。

 情報収集、ロビー活動、パーティーの段取りと言った表の仕事から、賄賂を巧妙に渡したり、もちろん痕が残るような接待なんかやらない、裏の仕事まで、とにかく忙しい。今日も深夜、ビルにはもう誰一人いない。

 だからエレベーターも一人。八階から乗る。

 必要な階のボタンと、閉めるボタンを押す。

『ドアガシマリマス』

 ドアが閉まる寸前に俺はやおら喋り出す。

「今日も一日、舌先三寸でよく働いた。どうだい、俺の舌は?」

『シタニマイリマス』

「絶賛だね。部長は俺のことを今日何回くらい褒めてたかな?」

『ナナカイデス』

「なかなかだね」

 六階を通過する。

「でも俺だって、自分の能力が足りないんじゃないかって思うこともある」

『ゴカイデス』

「そっか。自信持っていいか」

 四、三階を通過。

「次にアタックをかける政治家は誰がいいかな?」

『ニカイデス』

「やっぱりそうか。じゃあどんな活動で行けばいいだろう?」

『ロビーデス』

「今日もありがとう」

 大体毎日これやってから帰る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る