リスロマンティックなアラサー女子がファンタジーBLゲームのモブキャラにに転生したら
木綿麻絹化
プロローグ
神様、仏様、天使様!
願わくば、生まれ変われるなら、推しゲームのモブキャラになって推しの恋愛を見守ったり相談に乗ったり時には背中を押したりさせて下さい……どうか……どうか……。
……なんて。
つぶやく独りの夜もありましたよ。たしかにあったけども。ていうか全ヲタクの総意と言っても過言ではないんじゃないかしら。あるか。
しかし。
まさか本当に。
愛してやまないBLゲームの世界に転生することになるなんて。
私は一体、前世でどんな徳を積んだと言うのだろうか。
全く身に覚え無いんですけど。
リスアラ~リスロマンティックなアラサー女子がファンタジーBLゲームのモブキャラに転生したら~
※リスロマンティックとは?
恋愛嗜好において、両想いを望まない人のこと。片想いはするが、両想いになりそうになると冷めてしまったり、そもそも両想いになり得ない相手(アイドル、二次元のキャラクター、ぬいぐるみ等)に恋をしたりする人のこと。程度は人それぞれのため、上記の全てが当てはまるとは限らない。念の為。
※BLゲーム「ショーンクラウドに鳴る鐘は」とは?
主人公は精霊界から人間の世界、ショーンクラウド王国に派遣された一人の天使。彼の目的は100日間内に愛を成就させること。攻略対象キャラ同士の恋愛をアシストする「キューピッドルート」と、主人公と攻略対象キャラが恋愛する「当事者ルート」があり、各ルートによってシナリオのボリュームが異なることから賛否両論あった作品。初期のPC版ではR指定作品で直接的な性描写があったが、携帯ゲーム機に移植される際にだいぶマイルドな表現になった。PC版は幻の作品となっている。通称「ショークラ」。
転生前後の記憶は曖昧で、理由や原因は全くもって思い出せないのだけど、間違いなく、前世で私は死亡した。何故かそこだけは、確信が持てる。
そして、今私の眼前に広がる世界は、死後に見る夢なのか、転生後の来世なのか、そこもまたはっきりとはしないのだけど、前世の私が仕事以外の時間を全て費やしてやりこんだと言っても過言ではないBLゲーム、「ショーンクラウドに鳴る鐘は」(以下ショークラ)の世界、そのものなのである。
そのショークラに登場するモブキャラで、「カフェ店員の少年」と表記されているキャラが存在する。舞台となるショーンクラウド王国の中央広場付近にある「四葉珈琲店」に来訪した際に登場し、キャラ立ち絵などもちろん存在せず、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」しかセリフもない。
どうも、私はその「カフェ店員の少年」に転生してしまったようだった。
前世でも、私はいつだって誰かの人生の「モブキャラ」だった。決して不幸ではなく、大っぴらに幸福でもなく、ただ淡々と粛々と、毎日を過ごしてきた。イベント発生のないルーチン作業。いてもいなくても大差ない、その他大勢の背景。私はそれでよかった。それが、よかった。
でも、決して忘れてはならないのは、そんな「モブキャラ」にも目を凝らして見れば個性があり、その人だけの人生があり、ある日突然ピンポイントで光が当たって、舞台のど真ん中に引きずられていくことだってあるということだ。……知らんけど。
転生したって私は「モブキャラ」だ。
だけど、そのモブにはきちんと名前があって、歴史があって、しっかりと生きていた。
ニコ・キッドソン。
転生後の私の名前だ。もちろん、ゲームの公式で彼の名が設定されていたのかは確かめようがない。恐らく作中に存在していなかったであろう名前。
「少年」と表記されていたはずだが年齢は18歳。青年である。
これはいわゆる見た目は幼いけど18歳だと言い張る「大人の事情」って奴か?と真っ先に思ったわけだが(ショークラPC版はR指定作品である)、どちらかというと私にとっては都合の良すぎる奇跡の産物だったのだ。
この世界では、推しキャラの幼なじみという後付けご都合主義も真っ青なチートキャラとして転生を遂げたのである。
ゲーム本編に「カフェ店員の少年」と我が推しが幼なじみなどというエピソードは存在せず(そもそも少年の出番もセリフもない)、公式設定資料集にもそのような情報は一切なかった。
完全に、神様のいたずら、いや、奇跡の采配。前世の私の私利私欲がいかんなく発揮された設定で転生してしまったのだった。
同人誌かよ!モブ×推しの同人誌かよ!
しかしそこは残念ながら私は「リスロマンティック」志向のため、その設定も宝の持ち腐れと言えばまさにそれである。「両想いになりたがらない」恋愛志向のため、我×推しなどありえない。言うまでもなくリバもない。あくまでもモブキャラとして推しのキャッキャウフフを間近で眺められたら本望なのだ。
とにかく、ただでさえ前世の記憶、つまり今作を攻略し尽くした知識がある上に、豪華特典満載で始まった転生生活だが、至れり尽くせりを生かしきれてはないものの、まったりと楽しむには十二分すぎるクオリティだった。
願わくば、このままゆるゆると、余生を過ごすかのように推しを愛でて暮らしてゆきたい。転生時に多くの運、余分な運を使ってしまった感は重々承知だが、これ以上多くは望まない。こんな平穏な毎日が続いていきますように。
私はただ、それだけを願っていた。
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