あなたに会いたい、私の休日。

佐倉そう

あなたに会いたい、私の休日。

「んっ」


 窓から差し込む日差しが眩しくて私は目を覚ました。


 朝ごはんを食べ、リビングの日当たりのいいところで寝ていたので、お昼時の日ざしが眩しくて仕方がなかった。


「ふふっ、良く寝てるわね」


 私はいつの間にか隣で一緒に寝ていた五歳の娘の頬をいじりながら軽く微笑む。

 娘は頬をいじられて少し顔をゆがめるが、起きる気配はない。


「さて、やりますか」


 上司から「今は暇な時期だし、まとめて有給消化しちゃって」と言われたので、今まで放置してきた夫の部屋の掃除をしようと思う。


 やろうやろうとは思っていたけれど、仕事に子育てと色々と忙しくて、なかなか時間がとれなかった。


「やっぱりかなり汚いなぁ」


 夫が居なくなってからそんなに時間がたっていないけれど、持ち主のいない部屋は不思議と寂しそうな雰囲気を漂わせていた。


 部屋には、彼が読んでいたであろう雑誌が乱雑に置かれており、服も畳まれずに散らかっている。


 彼は掃除が苦手で、脱いだものをそのままにしていたり、使った物をそのまま出しっぱなしにしていたり、とだらしない部分があった。けれど、彼にはいいとこもあって、私の事を一番大切にしてくれたし、私の喜ぶことをたくさんしてくれた。


 そんな彼の事が私は今も大好きだ。 


 私はとりあえず、最初に服や雑誌を片付けることにする。


「よし」

「ママ、なにしてるの?」


 服や雑誌を一通りしまい終えると、娘がリビングに続く扉から顔を覗かせる。


「ごめんね、起こしちゃった?パパのお部屋のお片付けをしていたの」

「おかたづけ?てつだうの!」


 コテンと一度首を傾けてから、顔を輝かせて娘はそういう。

 娘は夫に似ずに綺麗好きに育って欲しいと思いながら子育てした成果が出てきたのだろう、私は少しうれしくなる。


「わぁ、ママうれしいわ。じゃぁ、まず、押入れいらないものを整理しよっか」


 私は大げさに喜んで見せて押入れから夫の物を出していく。


「ママ、これなぁに?」


 娘と、いる物といらない物を分けていると、娘が写真の貼ってある冊子を手に持って訊いてくる。


「わぁ、懐かしい。これはね、アルバムっていうのよ」

「あるばむ?」


「そう、色んなことをね、これに貼って忘れないようにするのよ」

「へぇー。わぁ!これママ?」


 娘は冊子を開きながら私の昔の写真を見つける。


「そうよ。今と変わらず美人さんでしょ?」


 私はちょこっと見栄を張ってみる。


「そだねー。これがパパ?」

「うん、そうだよ。ねぇ、ママ美人さんでしょ?」


 予想以上に聞き流されてしまって悔しかったので、再度きいてみる。


「うんうん、ママはびじんさんだね。わぁ、うみだ。いってみたいの!」


 五歳児にあしらわれてしまい少し悲しい。

 娘は海を背景にした写真を見つけたようだ。


 最近、海や山とか行ってないなぁ。

 お出掛けするとしてもデパートかショッピングモールにしか行っていない気がする。


 もう少し落ち着いたら、海や山とかのアウトドアにお出かけするのもいいかもしれない。


 私と彼との思い出の場所に娘を連れて行くのも楽しいかもと私は少しワクワクしながら片づけを進めていく。


 はぁ、会いたいな。


 アルバムを見たせいか、それとも彼の私物に触れたせいか、異様に大好きな彼に会いたくなってしまう。


 そして、さっきまで一緒にいたようで、だけど長い間離れているような、そんな悲しみが私を襲った。



 すっかり日が暮れとっくに片付けも終え、夕飯の支度をしていると、玄関がガチャと開く。


「ただいまぁ」

「おかえり!」


 私はその声を聞くとすぐに玄関へ向かい、彼に抱きつく。


 いつもは娘が先にするのだが、今日は今日だけは私が先にしたかった。


「ママずるい!」


 後から来た娘がそんな私に抗議した。


 大人げないかもしれないけれど、私の大好きな人は、娘であろうと譲りたくないのです。

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あなたに会いたい、私の休日。 佐倉そう @fujigon

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