静寂と始まり

一色 サラ

第1話 公園

眠れず、陽が昇り切っていない朝、重い身体を起こして、着替える。外は肌寒くて、足取りが重くて、なかなか、上手く前に進むことが出来なかった。

公園のベンチに腰を掛けて、深いため息をつく。誰もいない閑静な住宅地の中、公園は静まり返っているので、ため息が響き渡っていく。

 そこに、ブランコに誰かが乗っている音がする。そこに、ブランコを漕ぐ女性の姿が見えた。黒のロングコートを着て、ブーツを履いている。その姿がユラユラと揺れている。上下に揺れる成人した女性は、無邪気にブランコを漕いでいる。どこか清々しそうにみえて、瑠璃は薄気味悪さを感じた。

 仕事をクビになった。もう嫌だ。誰も必要とはしていない。まともに生きる力さえ、備わっていないのだ。絶望の中にいる自分に生きる価値などあるのだろうか。

「なんか、嫌なことでもあったんですか?」

瑠璃の隣に、先ほどのブランコに乗っていた人が座った、女性が空を見上げている。瑠璃も見上げると、空は雲に覆われている。

「で、何か嫌なことでもありました?」

 もう一度、聞かれたことに不愉快さが、にじみ出てくる。

「いいえ、別に何もないですよ」

「でも、顔が暗いですよ」

「失礼ですね」

 女性は笑う。それに謝っても来なかった。初対面の人に、顔が暗いと言っておきながら、何食わぬ顔で、公園の外を眺めている。

「そこのパン屋さんで買い物したことありますか?」

女性が指を差している先の「ベーカリー そよ風」と書かれた看板が見えた。

「ないですよ」

瑠璃は不愉快さを隠すように、答える。

「じゃあ、一緒に買いに行きませんか?朝ごはんまだですよね?」

「1人で、買いに行けばいいんじゃないですか?」

「そうですか。じゃあ、買ってきます。待っててください」

唖然と目で女性を見たが、女性は立ち上がり、その店に向かって歩いて行った。瑠璃は取り残されて、待つべきかを心に問う。待つ気はないが、ここから移動したい気持ちもなかった。それに財布を持って来ていなかったので、どっちみち、買いには行けなかった。


「待っててくれたんですか?」

女性は戻って来た。そして、隣の座った。

「いえ、別に待っていたわけじゃありませんが。」

「これ、食べます」

女性は、瑠璃にメロンパンとミルクのパックを渡してきた。

「結構です」

それを女性に押し付けて、瑠璃は、公園を出てった。

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