『バス』

やましん(テンパー)

『バス』


 ぼくは、よく、大型バスを運転する夢をみる。


 しかも、一番後ろの座席からだ。


 夢の中でも、いささか、不思議には思うが、これが、劣等感の現れなのか、憧れなのかは、わからないが、おそらくどちらでもない。


 たいていは、当たり前だが、事故を起こして、罪悪感を抱きながらも、あとは自転車くらいになる。


 しかし、もっと、面白いのは、椅子に座ったまま、高速で走る夢だ。


 ちっとも、不思議に感じていない。


 しかも、みな、当たり前に感じているらしい。


 ぼくは、現代的ゲームの世界には、ほとんど近寄ったことがなかった。


 だから、ゲームの影響ではありえない。


 ごく最近、MSXの中古を買ったが、まだテレビの前に飾ったままである。


 ある日、ぼくは、自宅の前のバス停から、赤バスに乗って旅に出た。


 降りない限り、何処にでも行けるという、なかなか、優れたバスである。


 『どちらに、逝きたいですか?』


 運転手さんが聞いてきた。


 『ぼくの、生まれた家に。』


 『ああ、わかりました。』


 なんと、理解が早い。


 ちなみに、ぼくの、生まれた家は、すでに無くなって、父の後輩が建てた家が建っている。


 もっとも、ほんとに、生まれたのは病院である。


 ここも、名前は残っているが、経営者は変わっている。


 バスは、他にお客様もなく、延々と海岸沿いを走り、やがて、海のなかを船のように走り、電車のように長くなったりもする。

 

 なんと、内部には、温泉がある。


 温泉の中には、線路があり、蒸気機関車がひく、ブルトレが、湯船のすぐ脇を通過して行く。


 バスは空なのに、お風呂には、ほかのお客様がいる。


 『あなた、どちらに?』


 『家に帰るんです。』


 『それは、結構なことで。わたしは、今年も、呼んでくれなくてね。あてのないたびです。』


 『そうなんですか。』


 そのひとは、体を洗っていて、やってきた蒸気機関車にひかれて、首が笑いながら飛んでいった。


 『よい、旅を。』


 当たり前のように言いながら、ぼくは、温泉から出た。


 線路は、二つの方向に別れており、左右から、縦横無尽に汽車や電車が来るので、渡るのは大変だった。


 浴衣のまま、帰りかけると、大きな川があった。

 

 向こうには、やたら、高いビルが建っている。


 来たときは、こんな川、無かったよなあ。


 と、思いながら、橋を渡るが、これが、中央を中心に、巨大なアーチになっていて、とても普通に歩いては渡れない。

 

 まるで、山登りのように、鎖を頼りに、なんとか、渡りきった。


 巨大なビルは、デパートだった。


 ならば、レコード屋さんがあるだろう。 


 せっかくのバスの旅だから、記念に寄って行こう。


 でっかい自動ドアを入ると、営業時間はあと30分だとか。


 レコード屋さんは、最上階らしい。


 大慌てで、エレベーターであがり、お店に入ると、魅力的な昔のレコードがたくさんある。


 しかも、新品と来た。


 時間がない。


 ありったけ、カード買いして、バスの席に戻る。


 これは、すんなりと行った。


        🚍



 やがて、バスは、生まれた街に到着した。

 

 450円ときました。


 しかし、やはり、ぼくの家は見当たらない。


 まあ、仕方がないか。


 おまけに、街中には、だれもいないときた。


 ところが、いつのまにか、ふと、曲がって昔の町並みに入ると、ちょっとだけ違うみたいだが、ぼくの家があり、亡くなった母がいた。


 『ただいま。』


 ものすごく、当たり前の生活だ。

  

 間もなく、父親も帰ってきた。


 奥さんのびーちゃんが、なぜか、晩御飯を用意している。


 やれやれ。


 そうだな。


 これが、目的地なんだ。


 ぼくは、そう、思ったのである。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・


 

 

 


  

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『バス』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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