Schatz

hibari19

第1話 別れ

「別れて欲しい」


玲香に、そう言われた時

私は何を考えていただろう


おそらく、次のコンクールに出す作品のことでも考えていたんじゃないか


瞬時に「別れる」の意味が分からなかったから


数十秒の沈黙の後

私が発した言葉は

「へ?」


間が抜けている


なんで?

嫌いになったの?

他に好きな人出来たの?


聞こうとして、玲香の顔を見たら

聞けなくなった


なんで、泣いてるの?



〜〜〜



玲香と付き合い出し、一緒に暮らすようになって、もう4年になる

穏やかだった


小さな言い争いはあっても

喧嘩らしい喧嘩もせず

平穏に日々が過ぎていく

これからもずっと続いていく

そう思っていた


そう思っていたのは私だけだったの?


何か不満があったの?

何が嫌だったの?

なんで出ていくの?



私と玲香は幼馴染みで

玲香は、私よりも一つ年下


子供の頃は、いつも一緒に遊んでた

本当の姉妹のように


小中学校は同じで、仲の良い先輩後輩


高校以降の進路は別々だったけれど

家も近いし、一緒に出かけたり一緒にご飯を食べたり


だから

社会人になって

一緒に暮らすようになったのは

自然のことだった


少なくとも、私にとっては。


ごく自然に好きになり

思いを告げて

玲香は、それに応えてくれた



女同士

私たちにとっては自然なことでも

世間では、そうではなく


だから、誰にも何も言わせないように

頑張った


私が選んだ

カメラマンという職業は不安定だから

なんでもやった

ポスターやらチラシやら

小さな仕事からコツコツと


周りの人に恵まれたことと

とあるコンクールで入賞したこともあって

少しずつ依頼も増えていった


今では、写真集も出すことが出来

不定期だけど個展を開くことも出来ている


玲香は高校を卒業し就職したけれど

いろいろあったようで退職し

今はカフェでバイトをしている


家事はほとんど玲香がやっていて

私を支えてくれている



〜〜〜



泣き止んで、落ち着くのを待って

ようやく聞くことが出来た


「どうして?」


「ごめんなさい」


「理由を聞いてるんだよ、他に好きな人出来た?」


首を横に振る


「じゃあ何?嫌になった?言ってくれれば直すから」



もう一度、首を大きく横に振り

「嫌なところなんてない。祐(ゆう)は、そのままでいて」


「なんで…」


「やりたいことがあるの」

小さな声だけど、真っ直ぐ私を見つめながら言う


「それは、ここにいたら出来ないの?」


「1人で…やってみたい」


長い付き合いだから、わかってる

普段は優柔不断なことが多いけど

一度決めたら迷いがない



「玲香…」

「ごめんなさい」

「謝らないで……私が…縛ってたのかな?」

「そんなことない…私の我が儘だから」

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