第33話 昇進

    4月中旬、晃司は旗艦大和艦橋へ戻った。


岡本晃司「山本長官、岡本晃司中尉ただいまもどりました」


山本五十六「おおー、晃司戻ったか、戦果は暗号電文にて聞いているぞ。

      これも一方的な完全勝利だったそうだな。

      最も、この暗号は解読されているんだったな」


晃司「長官、僕は作戦会議にも加わって、史実どおり南雲中将他に指示を

   出しただけです。

   で、その暗号解読等についてですが、長官も大体知っておられると

   思いますが、来月上旬豪州の珊瑚海において、史上初の空母同志の

   海戦が行われます。

   ここで史実ならこの海戦は、簡単に言えば、まあ引き分けって言う

   具合で終わるのですが、今までのジャワ島の海戦、インド洋方面の

   海戦において、一方的に完全勝利を日本側がしたため、連合国でも

   我々が暗号解読されているのが、分かっているのではないか、

   更には連合国の暗号が日本側に解読されているのではないか、

   との疑いを持つ可能性もあるかと思われます。

   このため、次の珊瑚海の海戦では勝利してはならず、もしそうすれば、

   長官はすでに軍令部に提案されていると思いますが、更に次の

   MI作戦(ミッドウェー作戦)に響いてきます。

   こうなれば後に詳しく長官にもお話し致しますが、

   大変困ったことになるんです。

   だから今回の珊瑚海海戦は史実のまま行い、連合軍特に米国に、

   やはりそんな心配はなかった、杞憂(きゆう)だったと思わせる

   必要があります。

   どうか今回は僕の派遣は見送って下さるようお願いします」


    豪州:オーストラリア

    MI作戦:具体的には、ミッドウェー島攻略と

        米機動部隊(空母部隊)撃滅


山本「そういうことか。今回の豪州での、その珊瑚海での海戦は、

   まず引き分けに終わるんだな。

   分かった、今回はお前を派遣しないでおこう。

   してその両者の被害を教えてくれ」

 

晃司「申し訳ありません、今は詳細については、申し上げる訳には

   いかないのです」


山本「そうなのか、お前のことだ何か考えがあるんだろう。

   わかった聞かないでおこう」


晃司「ありがとうございます。今回のインド洋方面の海戦で一方的な

   日本側の勝利によって、英国のチャーチルの進退がどうなるか、

   失墜も考えられます。

   もしそうなれば、この大戦に関して英国は最悪参戦を取り

   やめるかもしれず、そうなれば米国の参加の意義も曖昧になり

   士気もさがります。

   ひょっとするとこの時点で米国と和平にこぎつける可能性まで

   見えてきます。

   長官の作戦の提案は進めながら、英国のチャーチルの進退を

   見極めましょう」


山本「おおそうだな。そうなれば、我々海軍の早期和平の念願も

   ここで可能性がでてくる。

   お前のおかげだ晃司。どうなるかはまだわからんが、可能性の

   段階でもここまでよくやった、何か褒美をせんとだめだな」


晃司「ありがとうございます。では長官お言葉に甘えて、

   一つお願いがあります」


山本「何だ言ってみろ」


晃司「それでは、今も触れましたが、長官はMI作戦の提案をされて、

   軍令部にミッドウェー機動部隊撃滅の提案まで、なされていますね」


山本「そうだ、やっぱり知っているか。史実でもそうなっているんだな」


晃司「はい、やはり史実通りです。これが軍令部と意見が対立している

   のも知っています。

   まだの様ですが、近々米国ドーリットル隊により日本本土は空襲を

   受けます。

   これにより長官は、ミッドウェー作戦の必要性を、より感じます。

   陸軍もAL作戦(アリューシャン作戦)の必要性を、またより感じます。

   しかし長官もまだ提案しているだけですよね。

   僕がミッドウェー作戦について、そこそこ修正案を持っています。

   それまでどうか完全には、この作戦を決定されないようお願い

   致します。何しろ長官は一度決めたことは、絶対変えないと

   未来でも有名ですし」


山本「そんな史実があるのか。それにしてもお前は、俺の立てた作戦に

   修正をかけるつもりか。

   まあよかろう、まだ作戦を決定せずに、お前の意見を聞こうか」

 

晃司「ありがとうございます。ただもう少し僕の提案は後のほうが

   いいかと思います。

   長官のお立場もありますし、また今回の珊瑚海の海戦の帰趨も

   見届けてからでないと、僕も作戦が違ってくるかもしれませんので」


山本「そうか、わかった。だけど早めにしてくれよ」


晃司「分かりました。ありがとうございます。あそれと南雲中将より

   永野総長と山本長官への、特に僕に関する今回のインド洋方面の

   海戦について詳細な報告書を文面で預かっています。

   お受け取り下さい」


山本「そうか分かった。受け取っておこう。永野総長にもなんだな、

   今回の豪州の作戦にも参加せんのだから丁度いい、軍令部へ

   行って直接総長に手渡してこい。

   あとは言わんでも分かるな」


晃司「ご配慮ありがとうございます。後日出立したいと思います。

   それと今回インド洋の海戦において、草鹿龍之介参謀長がどうしても

   と言うことで、源田実中佐に僕の素性等、フーヴァーの件以外は

   話しましたのでご了承下さい」


山本「源田に話したのか、大丈夫か?」


晃司「南雲中将や草鹿参謀長が他言しないよう、念を押されていたので

   大丈夫と思います」


山本「そうか、それならいいな。それはそうと、今回は別にそんなに

   急がんだろ、ちょっと指して行け。

   俺も渡辺もまだ将棋お前に負け越しているからな。

   それともすぐ行きたいか?」


晃司「長官今回は少しくらいは大丈夫ですよ。

   お相手させて頂きますよ」


    晃司は山本と渡辺と藤井との対局を2、3日真剣勝負して

    から出立の日を迎えた。


山本「晃司、やっぱりお前に勝ち越せるのは藤井だけか。

   俺もそうだが渡辺も悔しがっていたぞ。

   帰ってきてからまた皆で勝負だ」


晃司「はい、楽しみにしておきます」


山本「それにしても、本当にお前の言ったっとおり本土空襲があったな。

   やっぱりお前の意見には耳を傾けないとな。

   しかし、分かっているな、遅くなったら修正の余地を残しておく

   だけだからな。

   とはいえお前の意見は極力取り入れる、落ち着いて行ってこい」


晃司「はい長官お言葉に甘えて、AL作戦(アリューシャン作戦)のことも

   総長を交えて、園田少尉と、じっくり話をしてきます」


山本「話だけか?」


晃司「おからかいにならないで下さいよ」


山本「お前そっちのほうは奥手のようだな。

   まあいい5月中旬までには帰って来いよ。

   ミッドウェー作戦の件があるしな」

 

晃司「わかりました。では長官、行って参ります」


    晃司は旗艦大和を後にし軍令部へ向かった。

    そして軍令部につき一人の下士官に話しかけた。

  

晃司「私は連合艦隊旗艦大和乗組員岡本晃司中尉です。

   山本長官の命で、南雲中将からの書面をお渡しに、

   永野総長に用がありますので、お取次ぎ願えますか?」


下士官「はっ、少々お待ちください、ただいま取り次ぎます」


    軍令部下士官が戻ってきた。


下士官「お待たせ致しました、永野総長がお待ちです。

    こちらへどうぞ。では私はここで」


晃司「ありがとうございます」

   

    晃司は永野の執務室に入った。部屋には一花の姿もあり、

    晃司と一花はお互い目を合わせ、少し笑顔でうなずいてから、


晃司「永野総長、今回も無事作戦終了して参りました」


永野修身「うむ。今回も一方的な完全勝利だったらしいな、流石だな」


晃司「まあ、実戦指揮はほぼ南雲中将以下、各司令官がとられましたので、

   最初以外は私は見ているだけでしたが」


永野「しかしそれでも、更に実戦の経験にはなっただろう。

   気持ちのほうは問題なかったか?」


晃司「はっきり言って、やはり罪の意識からは逃れられませんが、

   以前ほどの迷いは無くなりました」


永野「そうか。でここに来るからには形式上でも何か私に要件が

   あるんではないのかね」


晃司「はい。南雲中将から永野総長宛てに、インド洋方面の戦果等について、

   詳細の報告書面を持参しました。これをお渡ししておきます」


永野「うむ、早速読ませてもらおう」


    永野は南雲からの報告文を読んだ。

 

永野「うむ、そうか君はこういう策を採ったか。

   君の事が主に書いてある岡本君。

   ジャワ島、インド洋、これだけの功績があったら、

   昇進させなくてはならん。承知してくれるね」


晃司「わかりました。謹んでお受け致します、永野総長」


永野「後日辞令を渡す。今日はもう遅い、君ら今日は挨拶くらいにして

   明日ゆっくり話したらいい。

   君のことはうまいこと次長には言っておくから、

   辞令を渡すまで待っておきなさい。

   では早速私は次長の所に行くから、ここで互いに挨拶だけでも

   しておきなさい」


晃司「ありがとうございます、総長」


    永野は部屋を出ていき伊藤次長の所へ行った。


園田一花「おかえりなさい晃司さん。やっぱり、ほっとしますよ」


晃司「ただいま一花、ありがと」


一花「昇進ですね、おめでとうございます」


晃司「まあ、嬉しくないこともないけど、それだけ人を殺傷したって

   ことやからね、素直にまだ喜べないところもあるかな」


一花「そんなあ。時代が時代ですし、この世界の日本のためですよ、

   仕方がないですよ」


晃司「まあそうやね。人としての心だけは見失わんように心がけるよ。

   今回は素直に受け取っておくけどね。

   そういえば、髪ショートにしたんやね、

   ショートにしてもかわいいよ」


一花「お恥ずかしい。でも晃司さんにそう言われるとどきどきしますよ」


晃司「そう言われるとこっちこそ照れるよ、まあそういえば次に起こる

   珊瑚海海戦なんやけど、俺は派遣してもらわないように

   山本長官に頼んできたよ」


一花「そうなんですか?あの海戦に参加した、

   空母翔鶴(しょうかく)と空母瑞鶴(ずいかく)をミッドウェーに

   参加させれる様に出来れば、次が楽なんですが」


晃司「そうなんやけどね、今までが勝ちすぎたし、暗号解読について

   こちらが認識しているとか思われたり、

   それどころか、アメリカの暗号まで解読しているんじゃないか

   とか思われたりしたら大変やからね」


一花「そういうことですかあ。通常の定説でも珊瑚海海戦から海軍暗号は

   解読されていたとされていますから、それがおかしな認識を

   与えると、全く史実とはかけ離れた状況になりますもんね」


晃司「まあミッドウェー作戦とAL作戦までは史実通りに向こうに

   動いてもらわないとね」


一花「ですね」


晃司「今回のインド洋方面の海戦でチャーチルが失脚してくれたりなんか

   したら、この大戦は終わる可能性があるんやけどね」


一花「ほんとですね。チャーチルの進退とイギリスの状況について

   注目しておきましょう」


    晃司と一花が話していると、そこへ永野が部屋へ戻ってきた。


一花「おかえりなさいませ、総長」


永野「うむ。岡本君、君の大尉への昇進が正式にきまりそうだよ。

   明日か明後日にも書面で辞令を渡す」


晃司「ありがとうございます」


永野「今日は二人とももう休みなさい。明日一旦こちらへきてから、

   外へ行ってきなさい」


晃司「では失礼します、総長」


一花「お先させて頂きます、総長」

     

    晃司と一花は仕事を終えて、少し話をしてからそれぞれの

    寝室へ行き、翌朝を迎えた。

  

晃司「おはようございます、総長」


一花「おはようございます」


永野「おはよう二人とも、岡本君、君の大尉への昇進が早速きまったよ。

   時期書面での辞令が届く」

 

晃司「はい、総長」


    しばらくして、永野の元に晃司の辞令の書面が届いた。


永野「うむ。間違いない、これが辞令だ受け取っておきなさい」


晃司「ありがとうございます。謹んでお受け取り致します」


永野「では二人で外へ行ってきなさい」


晃司「ありがとうございます」


一花「それではしばらく席を外させて頂きます、総長」


    晃司と一花は軍令部の外へ出て行ったのであった。

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