第25話 再開と辞令

    一方、更にそのころ、戦艦大和作戦室では話が続けられていた。


山本五十六「他にみんな何か話すことはないか?」


岡本晃司「山本長官、史実ではジャワ島付近で空戦が行われたはずですが、

   皆さんの分かる詳細を、伺っても宜しいでしょうか」


山本「ん、そんな大本営発表は無いが、史実ではそうなのか?」


晃司「はい僕が行動している時期と同じころに、そういう史実があります。

   日本軍はフィリピンを占領すると、つづいて資源地帯であるオランダ領

   インドネシア占領を目標として、三つの進撃路を準備します。

   アジア大陸沿いにシンガポールを目指す陸路と、ボルネオ島を経由して

   南進し、スマトラ島へ至る海路、さらにフィリピンダバオからスラウェシ

   島両岸のマカッサル海峡、モルッカ海峡を経て、最終的にジャワ島を占領

   する海路です。

   昭和17年[1942年]2月になれば、日本軍はジャワ島占領を目的として

   行動を開始します。

   これらはスラバヤ西方のクラガン海岸を上陸目標としてマカッサル海峡を

   南下、ジャワ海を航行します。

   それが行われていないとすると、僕の提案でサンタ・バーバラ空襲の時期が

   変わったからちょっと歴史が変わったのかもしれません。

   バリ島攻略作戦やチモール攻略作戦に従事していた隊、東方支援隊、

   第二護衛隊、等も漸次輸送船団護衛に加わります。

   詳細は園田少尉に確認済みなので間違いないと思います。

   次の策を考えながら悩んでいたところなのですが、もしジャワ島付近での

   戦闘が行われていないとすると、むしろこれをを利用する手があります。

   どちらにせよしばらくしてから、ジャワ島付近で艦隊戦が行われます。

   味方の犠牲を極力防ぐためにも、僕を第三艦隊司令長官高橋伊望中将の元に

   派遣してください」


山本「そんな史実があるのか。確かに、あの方面には高橋をやっていたな。

   勝算はありそうだな、よし分かった、そうしよう。

   で、お前の素性を高橋に明かすのか?」


晃司「そうせざるを得ないですね。山本長官のじきじきの命令文で、必要最小限の

   ことをある程度、僕の素性も添えてお願い出来ますか?」


山本「よかろう、そう急がんでもいいだろう、明日書く」


晃司「ええ時期的にも今日からでは、そう急ぐ様なものでは無いと思います。

   こっちで、もう少し皆さんと親交を深めて行こうと思います」


山本「わかった。また何かあったら3人を招集する。今日はこのくらいで

   よかろう。まだ任務もあるだろうし、では解散しよう」

   

    4人は解散し持ち場へ戻った。

    そして次の日。


山本「晃司、今軍令部より通達があって、H作戦の功績により、お前に正式に

   辞令を渡すために軍令部より、園田一花少尉がこちらへ来るらしい。

   H作戦とはフーヴァーの件しかないだろう。

   お前が迎えに行ってきなさい」


晃司「園田さんが来るんですね。山本長官にも挨拶するよう言われたん

   でしょうね、行って連れてきます。

   少尉と言いましたね。ということは長官の嘆願が通ったということ

   ですね」


山本「そうだな、辞令ということはやっぱりお前も正式に中尉になるだろう。

   これでなんとか参謀の列に加える口実が出来る」


晃司「ありがとうございます。それでいつ到着予定ということですか?」


山本「今夜とのことだ。ところでお前将棋は出来るか?」


晃司「将棋は少々、へぼですが。そういえば長官、博打と並び将棋が

   ご趣味でしたよね」


山本「ああ、今日は俺も割合時間がとれる。ちょっと指してみるか?」


晃司「はい。噂の山本五十六大将の棋力、体感させてもらいます」

 

      山本と晃司は将棋の対局をし始めた。


山本「やるじゃないか、今で一勝一敗か、いい勝負だな」


晃司「僕らの時代ではもう名人でも計算機(コンピュータ)には

   歯が立ちませんよ」


山本「本当か?計算機が将棋を指す時代が来るのか?しかも名人より

   強いのか?」


晃司「ええ、横文字使いますが、チェスはもとより将棋、囲碁も人間最強の

   時代は終わりました」


山本「へえ。今から75年後か。それら専門家の権威はどうなったんだ」


晃司「棋力は人間はかないませんが、やはり人間同志がやるのが人気があり、

   どれも専門家、素人とも、人気は失墜(しっつい)しませんよ。

   ただ素人どころか、専門家でも計算機を使って検討を行い、更にはもう

   計算機が定跡を作ったりもしていますよ」


山本「すごいなそりゃ、計算機が定跡を作るのか、想像できんな。

   とはいえ計算機と指して面白いのか?」


晃司「僕は人間と指してる方が面白いですね。また横文字使いますが、コンピュータ

   つまり計算機は色んな業務に使われ、私生活も含めてインターネットと言う

   のがあって、遠方において情報交換が画面上で行え、それを使って遠方でも、

知らない人間同士が顔を見ずに自由に、将棋や囲碁、麻雀等もできます」


山本「まったく半世紀ちょっとの間で考えられん世界がくるのだな。

   これで二勝二敗の五部か。

   よし最後決着をつけるぞ手を抜くなよ」


晃司「ええ、そんな失礼なことはしませんよ。・・流石にお強い」


山本「お前こそ。・・んーくそぅ、負けたか。今日のところはこのくらいに

   しておこう。

   借りは必ず返すからな。まあそれにしても、そろそろつく頃だな」


晃司「ですね。そういえば南雲中将に僕の正体を言うならば、

   草鹿龍之介参謀長にも明かしたほうがいいですね」


山本「そうかもしれんなその辺りはお前に判断を任せるぞ」


晃司「はい」


    しばらくして軍令部からの使者が到着したという報が

    山本と晃司の元に入った。


晃司「園田少尉が到着の様ですね、では行ってきます」


    晃司は旗艦をでて、明かりのあるところで待っていると、

    軍服を着た一人の女性を見つけた。


園田一花「先輩!」


    一花は晃司を見つけると喜びのあまり涙を流しながら、

    抱き着いてしまったのである。


晃司「園田さん?おいおいどうしたんや」


一花「あ、すみません。安心したのか、どうしたんでしょう私。

   でもよかったです。

   先輩のおかげで少尉なんて階級まで頂いてしまって。

   でもしっかりしないといけないですよね」


晃司「軍令部の居心地はどうかな?やっぱりこの時代、女性士官っていうのは

   受け入れてもらいにくいかな?」


一花「永野総長のはからいでほとんど軍令部のほうにはいかず、総長の側近

   としてお仕えさせてもらっています。多分私が女だからだと思います」


晃司「そうやね。俺も女の子にこんなこと言うのも気が引けるけど、

   せめて髪をショートくらいにしたほうがええかもね」


一花「先輩はショートのほうがお好きですか?」


晃司「おいおい、そういう問題じゃないやんか。やっぱり軍服で長い髪って

   いうのは、この時代ちょっと」


一花「そうですね、先輩がそうおっしゃるんならそうします。

   軍令部から岡本先輩の中尉昇格の辞令を書面で預かってきました。

   今回、先輩に会えるように総長がはからってくれたものだと思います」


晃司「ありがと。そうやね、多分総長が気を使ってくれたんやろね。そういえば

   園田さん、俺次の出兵が決まったよ。自分から具申したんやけどね」


一花「スラバヤとバタビアの海戦に行かれるんですね。

   また心配事が増えちゃいました」


晃司「俺そんなに信用ないかな」


一花「いえ、私先輩の事信じてます。でも心配になるものなんですね、

   戦争って。

   それにしても何でこんなに心配になるのか、自分でもよくわかりません」


晃司「心配してくれてありがと。でも俺はそう簡単には死なんよ、この国を救う

   までは」


一花「それを聞いて安心しました。でも先輩のひいお婆さんの様に、

   軍人を旦那さんにもった人って、心配で心配でたまらないんだなって、

   思いますよ」


晃司「え」


一花「あ、ああそういう意味では・・あ、あの、あそうだ、辞令を

   お渡ししておきますね」


晃司「わざわざありがと、謹んでお受けいたしますぅ」


一花「どういたしまして。あそうだそういえば、まだジャワ沖の海戦が

   起きてないの知ってますか?」


晃司「そうなんよね、俺らが来て干渉したせいで、若干事情が変わったの

   かもしれんね。それならなんとか調整せんとあかんね」


一花「私たちの知識使えるんでしょうか」


晃司「ほとんどの事が、今のところ史実通りやから、そこまで

   食い違わんと思うよ。

   大体は史実上、最初連合軍のほうは受け身やし、そんなに

   心配はいらんと思う」


一花「それならいいんですが。それとAL作戦の件、総長にOKもらいました。

   あとは我々次第の所が大きいですね」


晃司「そっか、あとは山本長官を説得するだけやね。あそそ園田さん、

   山本五十六長官に会っていったらいいよ」


一花「そうでしたね」


晃司「行こう」


一花「はい」


    晃司は一花を連れて旗艦大和の艦橋に戻ったのである。

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