第19話 交渉 その1
3人は険しい水路と陸路をきて少々疲れもないではなかったが、
それをおして加古川が晃司に言う。
長田仁志「もう少しです、岡本さん」
岡本晃司「僕は全然平気ですが、お二方は大丈夫ですか?」
加古川小成「大丈夫ですよ、ご心配なさらずに」
長田「着いたようですね」
確認後長田が言ったがこのアジア人の3人を見たフーヴァー研究所
所員が不信そうに声をかけて引き留めてきた。
所員「Wait(まて)、お前達、何者だ」
晃司は、よしちょうどいい、思惑通りやと思った。
そして身分証明書の提示を求められて、各々それを見せた。
所員「ふむ、3人とも実習生か。何の実習だ?」
晃司にかわって流暢な英語を話せる長田が言うのである。
長田「直接研究会議の内容の実習をしにきました。フーヴァー所長に
直接会えるよう、手続きももらています。
直接お話ししたい件もございますので、お連れ願いますか?」
所員「何の話だ?」
加古川「細かいことはここでは言えませんが、戦争が終われば国家主義傾向に
対する警告等、フーヴァー所長のお考えを、日本の各大学、高校等に
持ち帰り普及したい、と言っていただければ結構です。
恐れ入りますが、フーヴァー所長に直接会えるよう取り計らって
もらえますか?
お話ししたいことがあると」
もう一人流暢な英語を話せる加古川が言ったのである。
また国家主義とは、国家≒政府を第一義的に考え、
その権威や意志を第一だと考える立場のことである。
所員「所長は今休憩中のはずだ。今取りはからってやるからここで
待っていろ」
話を聞いた所員は警備を警備員だけにさせ、この所員は
フーヴァーのもとへ通達しに行った。そして戻ってきた。
所員「宜しい、フーヴァー所長が興味のある日本人留学生だ、連れてこい
とのことだ。ついてきなさい」
フーヴァーの居る休憩室まで所員は3人を連れていった。
所員「ここだくれぐれも阻喪(そそう)のないようにな」
加古川「ありがとうございます」
そして所長室に先ほどの所員同行のもと3人は所長室に
通されてから、長田が挨拶を先に話を切り出したのである。
長田「お初にお目にかかりますフーヴァー所長、お会い出来て光栄です」
ハーバード・フーヴァー「君らか、私の国家主義傾向に対しての警告に興味を抱き、
日本の大学等で、私の思想とその記録を普及したいという
学生は」
長田「はい所長、所長の深いお考えに、質疑応答という形でお話しできればと
思います」
フーヴァー「私は今休憩中であまり時間はとれんぞ。だがもし面白い話になったら、
会議のあとも引き続き、会話を楽しもう」
長田「ありがとうございます。では所長、申し訳ありませんが所長以外、
我々3人と、4人でお話しがしたく存じます。
非常に申し上げにくいのですが、お人払いをお願いします」
所員「貴様ら何を企んでいる。所長をどうしようというのだ」
長田の発言を聞いた所員がいっそう不信そうに言ったのである。
そして晃司が日本語で長田に言ったのである。
晃司「長田さん、特にアメリカにおける自由主義に敵対するファシズム、
共産主義、社会主義についてと、アメリカのヨーロッパへの軍事介入
した場合の合衆国の全体主義化並びにヨーロッパの全体主義等に
ついても言及したいと、フーヴァー所長に言ってください」
自由主義とは、国家や集団や権威などによる統制に対し、
個人などが自由に判断し決定する事が可能であり自己決定権を
持つとする思想・体制・傾向などであり、民主主義がこの一つ
であると考えられる。
更に全体主義とは、全体の利益を第一とし、個人の価値は全体に
奉仕する点でだけ認める政治上の主義であり、共産主義が
この一つに該当すると考えられる。
所員「貴様、日本語で何をこそこそと話している」
長田「フーヴァー所長彼はアメリカにおける自由主義に敵対するファシズム、
共産主義、社会主義についてと、アメリカのヨーロッパへの軍事介入した
場合の合衆国の全体主義化並びにヨーロッパの全体主義等についても言及
したいと、言っています。
それに、ここへ来る間ボディーチェックもきっちり済んだはず。
我々はなにも携帯して居ません」
フーヴァー「彼は英語でしゃべれないのか、どうしてなんだ?」
差し当たりフーヴァーの質問を聞き取れた晃司が片言の英語で
フーヴァーに言うのである。
晃司「私はアメリカに来て日が浅く、少ししか英語が話せません」
フーヴァー「わかった。君たちの言う通りにしよう、なにか聞かれたくないことも
ありそうだしな」
所員「しかし所長危険です、どうか私だけでも」
フーヴァー「大丈夫だ、この英語が少ししか話せないという青年の目を見れば
分かる」
所員「了解しました、所長がそこまでおっしゃるなら。しかし何かあったら
すぐお呼び下さい。緊急用のボタンをお持ちであるはずです」
フーヴァー「そうしよう、下がりたまえ」
警備所員は不安そうに退室していった。
フーヴァー「さて諸君、今話を聞いているのは、ここにいる4人だけだ。
どの話から始めようか」
長田「所長話があるのは、ここにいる英語がほとんどできない彼だけです。
我々は通訳と護衛に、随行したに過ぎません」
フーヴァー「護衛?どういうことかね?」
晃司「長田さん通訳お願いします。まず我々は現役日本軍将校です。
私は岡本晃司。日本連合艦隊司令長官、山本五十六大将の、これから
腹心の一人となる人間です。
日本海軍軍令部総長、永野修身大将とも深く面識がございます。
私は、日本海軍を代表して、フーヴァー所長と交渉しに来ました。
ちなみに、この交渉が終われば階級は中尉となる者です」
フーヴァー「そういうことか、で私に交渉とはまた妙な考えを持ったな。
私にはもう実権はないのだぞ」
晃司「失礼ながら分かっております。しかし世界と日本、そしてアメリカの
将来のことを考えても、フーヴァー所長しか話せる相手はいないのです。
信じられないかもしれませんが、私は数年以上先が見えるのです」
フーヴァー「数年以上先が見える?奇怪な事を言う青年だな。
あまりおかしなことを言うとここにある警報をおすぞ」
晃司「私の話を聞いて頂ければ本当だとわかって信じて頂けると思います」
フーヴァー「ふむ。信じるかどうか話を聞いてから決めていこうではないか。
しかし警報のボタンはこの手に握ってある、その気になれば君
たちを捕らえることが出来る。
もしその能力をもつ君がいなくなった日本はどうなるのかな」
晃司「恐れながら所長、私の様な境遇の人間は日本には複数います。
私を捕らえたところで、この交渉は決裂するだけでなんら日本の損失は
ほぼなにもありません。
ただアメリカと日本が今回以外の意味で、大損をするのは確実ですが」
フーヴァー「分かった話を続けよう、結論から君の交渉の内容を聞かせて
もらおうか」
晃司「はい所長、所長はルーズベルト政権を打倒し、出来れば所長の裁量を
もって、日米との和平を、実現させてほしいのです。
その条件として、しばらく待っていただければなりませんが我々日本側は
海軍の連合艦隊と海軍陸戦隊によるソビエトの東シベリア攻略を行います。
そして日米の和平がなった暁には、日本は生産過剰国のアメリカから、
大東亜共栄圏において、物資を輸入致します」
フーヴァーは次章で話す内容により、日本によるソビエト攻略など
棚ぼたの心境であった。
それに日本におけるアメリカの過剰な食糧物資の輸入である。
フーヴァー「東シベリア攻略か、少し話を聞こうではないか。
今からでも日本がソビエトを攻撃してくれれば我が国には希望の光が
見える。
そして我が国と日本が和平を結べれば願ったりかなったりだ。
両国は互いに大きな得をするが。
しかし私は君を、君は私を、そこまで信用できるのか?」
晃司「先ほども申した通り、私は数年以上先が読め、所長のお考えに
なられていることも、この先お考えになるであろうことも分かって
おりますので、私は所長を信じられます。お試しになられては
いかがでしょうか」
フーヴァー「うむ、では君は私がルーズベルトを批判していることを知っている
様だが、スターリンに関係づけてどう考えていると認識する?」
晃司「所長は反社会主義者であり、ルーズベルトがやっていることは、
スターリンの手助けをしているようなものだと考えておられます」
フーヴァー「まあそうだな、今のは現在の日本でも情報が入っているだろう。
にしても未来が見えるという君がそこまで私の主張を是とするのは
どうしてだ、少し教えてくれんか」
晃司「それではまずこちらの内容からお聞きくださって信用して下さい」
フーヴァー「是非とも伺おう」
晃司「このままいくとこの大戦終了後の1946年秋に、共和党が勝利して
共和党の下院議員J・パーネル・トーマスが下院非米活動委員会
の委員長になります。
彼はアメリカ共産党並びにモスクワの指令に基づいてアメリカ国内
で活動している工作員たちは、アメリカの行政の正常な機能に
対する一大障害となっており、政府はただちにこれを是正すべき
であると述べて共産党が訴追されるべき理由を挙げます」
フーヴァー「それで?」
晃司「こうした連邦議会の動きを受けて、急死するルーズベルトの後を
継ぐ民主党のトルーマン声援も、1947年春には政府職員に忠誠・
機密保持の計画を実施する大統領令を出します。
このとき不採用または解雇された者は560人、審査中に自ら志願を
撤回または辞職した者は6828人にのぼります」
フーヴァー「それからはどうなのだ?」
晃司「はい。下院非米活動委員会ではその後、共和党のリチャード・ニクソン
下院議員らが中心となって国務省幹部アルジャー・ヒスらの工作活動に
関して頻繁に公聴会を開催します。
1948年夏の委員会による証人喚問では、ハリー・デクスター・ホワイトや
アルジャー・ヒスなどスター級の大物官僚を始めとするスパイの実名
が挙がり、アメリカ国民を驚愕させます。
委員会は1948年夏に第二次世界大戦中及び戦後において政府機関内に
おいてアメリカ共産党並びにその機関と協力し、ソビエトに情報を
提供したスパイ活動が存在したという中間報告を公表します。
ヒスは国家機密漏洩の事実は判明し、1950年に偽証罪として最長の
禁固5年の判決を受け服役します」
フーヴァー「ふむう、私の理想を具現化したようなシナリオだな。
しかし本当に作り話ではなかろうな」
晃司「もちろんこのままいった場合の未来における事実です。
その後所長、あなたは大統領に返り咲くことはありませんが、1940年代
後半からルーズベルト、トルーマン両民主党政権に潜り込んでいる
共産主義スパイの実態が次々に明らかになることに注目します。
下院非米活動員会などの調査結果をお読みになり、次から次に暴露される
共産主義者、その同調者の工作活動の実態に驚愕(きょうがく)されます」
フーヴァー「ふむふむそうか、そんなことがあるのか。
どうやら君が未来が見えるというのは本当の様だな。
そしてこれからアメリカと世界はどうなっていくのだ」
晃司「はい所長、実際ほっとけばそうなりますが、日本、アメリカが大きな損失を
出してこの戦争が連合国側に、勝利をもたらしたとしても、アメリカは
多くの将兵を失っただけで得るものは無く、イギリスに至っては、
独ソ戦争に参戦したばかりに、アメリカのルーズベルト政権下の軍事介入を
催促し、日本の参戦により、アジアの独立の機運を高め、次々に植民地を
失い大英帝国は滅んでしまいます。
結局一番得をしたのは、ソビエトであり、それはポーランド、チェコ
スロバキア、東ドイツ、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア等の
親ソ政権を樹立し、ヨーロッパの東半分を支配します。
更には中華では共産党の毛沢東にソ連が支援した結果、蒋介石を台湾へ
追いやり、中華社会主義大国を樹立し、社会主義国家が誕生します。
連合国の国々も、コミュニズムの勢力と一緒に戦ったわけですから、
国によってはどんどん共産主義が浸透していきます。
イギリスやアメリカでも、コミュニストがこうやって増えていきます。
結局、ルーズベルトの政略もチャーチルの政策も、何もかも、スターリンの
企てには、遠く及ばないのです」
コミュニスト:共産主義者
フーヴァー「なんと。やはりこのままだと、世界はその様な未来が待っている
というのか。
君の事はもはや疑う余地がなさそうだな。
やはり私の意見は間違いなかったのか」
晃司「はい、お間違いありません。所長はこの後に、回想録で日本との戦いは
戦争したくて仕方のない狂人[ルーズベルト]が望んだことだということ、
日米戦争は、日本の自衛の為の戦争であると書かれますが、アメリカ
陸軍ダグラス・マッカーサー元帥も、これについて同意し、更に1941年
夏の対日経済制裁は挑発行為であった点も考えを同じくします」
フーヴァー「ふむ、マッカーサーもそれらに同意見だったか。
まあしかし私はそろそろ会議に出席せねばならん。
君との話は有意義だ会議終了後また話が出来んかな?」
晃司「申し訳ありません。軍の待ち合わせ時間内を過ぎてしまいます」
フーヴァー「わかった。こんな機会はまず無い。今日の会議は欠席して君と話を
続けよう」
フーヴァーはこの後大日本帝国海軍司令長官の腹心になるという
この若者に興味をいだきこの機会を大いに利用しようとして
話にのぞむのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます