第16話 新たな行動 その3

    着くと下士官に草鹿任一が話しかけた。


草鹿任一「私は海軍兵学校学校長、草鹿任一だ。至急山本五十六大将にお会い

     したい。

     あとこの岡本晃司中尉も軍令部の命で山本長官にお会いするように

     なっている」


下士官「何か証拠になるものはございませんか?」


    下士官は規則通り確認の姿勢をとった。


岡本晃司「これが軍令部よりの命令書です。中は山本長官以外開けられませんので

     あしからず」

 

下士官「拝見しました。確かに軍令部じきじきのものですね。お待ちください」


    艦橋へ報告しに行った下士官が戻ってきた。

       

下士官「お待たせしました。山本司令長官がお呼びです。4人ともこちらへどうぞ」


晃司「申し訳ないんですが、長田さんと加古川さんはここでお待ち願えますか?」


長田仁志「はいわかりました、お待ちしておきます」


加古川小成「わかりました」


    草鹿任一と晃司が艦橋に入り山本五十六に

    会ったのであった。

                      

山本五十六「草鹿任一学校長何用だ。何かあったのか?」


    山本五十六が晃司の前で初めて話した内容は草鹿に対する質問であった。

    元の時代、元々は聡明で知られていたこの山本五十六であるが彼も

    永野修身同様、一部良くない説もある。

    しかし幹部自衛官にも山本五十六を尊敬している人間が多数いて

    彼の事も肯定的にとらえねば、今後の作戦が根本的に成り立たないため、

    晃司は山本を全面的に信用することにした。


草鹿「内密にご連絡したいのですが、ここでは何かと人に聞かれるので、

   場所を映して頂ければ幸いですが」


山本「えらい慎重だな。まあいい、では作戦室に行こう。今はあそこは誰も

   いないはずだ」


    3人は作戦室に入った。部屋の中は誰も居なかった。


山本「さて聞かせてもらおうか」


草鹿「山本長官重大な情報と重要な人材を、持って、連れて参りました」


山本「というと?」


草鹿「まずこちら岡本晃司時機海軍中尉です。75年後の未来から来ました」


山本「なんじゃそりゃ。草鹿学校長冗談はほどほどにしておけよ」


    山本は何を冗談言っているといった風であった。


草鹿「岡本君自己紹介したまえ」


晃司「お初にお目にかかります、山本五十六連合艦隊司令長官。

   岡本晃司と申します。

   なかなか受け入れがたいことだと思いますが、草鹿学校長が言ったことは

   本当のことなんです。

   ここに軍令部総長、永野修身大将からの直筆の長官への命令書等が

   ございますので、まずこれをお読みください」

                                               

    晃司は命令書と嘆願書を山本に手渡した。

    そして山本はその文面を読みながら顔が真剣になっていったのである。  

 

山本「な、なんとしたことだ。これは信じられん。しかし総長の言葉だし、

   草鹿学校長も言っていることだし、信じるしかないのか。

   岡本晃司君といったな、未来から来たのは君と、ここに書かれている

   園田一花君だけか?」


晃司「今のところ、我々二人だけです。あといるにしても手掛かりすらつかめて

   いません」


山本「そうか、ちょっと色々話がしたい、いいかな?」


晃司「はい、山本長官、私も長官にはお話ししたいことがありました」


草鹿「山本長官信じて頂けたら、私は一旦離席しましょうか?どうかね、岡本君?」


    永野のときと同様に、またしても草鹿は気を利かせて言ってくれた。


山本「信じるも信じないも、今は彼の話を聞くしかないだろう、信じるしかないよ。

   席をはずしたかったらはずしてもかまわんぞ」


晃司「では校長、また申し訳ありませんが、お願いして宜しいでしょうか」


草鹿「わかった。席を外そう」


    草鹿任一は退出した。


山本「岡本君、君らの日本ではこんなことがおきるのか。我々も放っておけばこう

   なるのか?」


晃司「永野総長が文面でどこまで書かれているか、抜けている所や細かい所は

   補足しますが、

   間違いなくそうなります。

   それは、山本長官がすでに日米が和平に至らなかった場合のことを

   見抜いてられると思いますが、その通りになります」


山本「そうか。真珠湾攻撃の真相が書かれているがこれは君が考えたものなのか?

   事実なんだろうな?」


晃司「私のいた世界ではそこに書かれているかとは思いますが、すでに外務省暗号は

   解読されていたというのが定説で、説によれば海軍暗号も解読されている

   ということです。

   これによって真珠湾かどうかは特定できたか未来でも見解が分かれて

   いますが、私が小さいころ祖父が陰謀説の肯定節をもってきて、

   それをもとに当時考えた結果、そういう結論に至りました、

   山本司令長官。

   少なくともABCD包囲網のころすでに戦争は始まっており、武力によって

   先制攻撃させられたのは、未来では定説になっており、これは

   ルーズベルトの政略以下、アメリカ軍の戦略という見解になって

   おります」


山本「うむむ、我々は踊らされているということか。政戦略的にもまんまと

   米国の策にはまってしまったということか。

   真珠湾についてはこのくらいかな?」


晃司「恐れながら、真珠湾攻撃については、もう少しお話しせねばなりません。

   真珠湾攻撃には失策がありそれは、第三次攻撃隊以降を送らず、オアフ島の

   燃料タンクや、港湾設備の破壊を、徹底的に南雲忠一中将が行わなかった

   ことです。

   具体的には、攻撃を受けた戦艦のうち「アリゾナ」「オクラホマ」以外は後に

   修復され、戦線に参加してることです。

   そして最も重大な誤算は、山本長官の思惑通りに最初の一撃で、アメリカ国民

   の戦意を喪失させることは実現できず、それどころかルーズベルトの

   思惑通り、演説において、アメリカ国民とりわけ女性達に、息子達を

   ヨーロッパに参戦して死なすことはしないという公約から、参戦に持ち込む

   意図を実現させ、アメリカの世論と国民を糾合させてしまって、返って戦意を

   高揚させてしまったことです」


山本「うーん、そうなるのか、これは手厳しい、黒島以上に反対意見を述べ

   よるわい。

   世界的には米国の思惑はこの通りなんだな?」


晃司「はい。永野総長の文面に書かれている様に、米国のヨーロッパへの

   軍事介入が、真珠湾攻撃の後であることから、もう明らかです」


山本「そういうことだったのか。他に何かないかな?」


    山本は大体の連合国側の状況を把握して思う所数々ありまた質問した。


晃司「そうですねあと永野総長にお話ししていないことと言えば、私たちが元いた

   世界では山本長官はこの戦争で戦死されます。

   少数の護衛機で、ブーゲンビル上空で敵襲にあい、撃墜され戦死な

   さるのです。

   これは私の推測ですが、徐々に国力の出始めた米国に対して日本はなすすべが

   なくなり、山本長官は敗戦は確実で、そうなれば戦犯として死刑になることが

   明白で、そのために、それよりは名誉の戦死を選ぶ。

   少なくとも自殺だったのではないのでしょうか」

          

山本「うーん、俺のやりそうなことかな、ほかに何かないか?」


晃司「書き漏れがなければこんなとこでしょうかね」


山本「ではフーヴァーと言う人物、ほんとうに口説けるのか?自信はあるのか?

   拘束されることも考えていないのか?」


    山本は重ねて別の質問をした。

 

晃司「それなりにはありますが、確固たる自信があるわけではありません。

   彼には、私を拘束しても何年も先が見える日本人は沢山いるとはったりを

   かましておきます。

   フーヴァーについてはそれなりに知っているつもりです。

   彼はルーズベルトを徹底的に批判していますし、反共産主義者です。

   それなりの人格も備えていると考えますので、何とかするつもりです」


山本「そうかわかった。君は軍令部総長のお墨付きだし、この作戦が成功すれば

   嘆願書通り私の腹心の一人としよう。

   それと中尉の階級だが、更に参謀の列に加えるとしよう」


晃司「ありがとうございます。あそうだ、これは永野総長も言っていいと

   おっしゃっていましたが、山本長官は開戦後、自分の主張が、軍令部に

   通らず、独自の行動をとるようになります。

   そこで、私は園田と二人で、山本長官と永野総長の斡旋をするつもりで互いの

   任に就くことを提案して、総長閣下はそれに気づかれました。

   このことを山本長官にも言っておきたいと思います。

   より連合艦隊が動きやすくなると思います。

   それと私達の正体等は私が帰ってくるまで誰にも他言無用にお願い致します」


山本「ふむふむ、色々聞いて読んで見たが君も結構な策士だな。

   君ならやれるかもしれないな、期待しておこう。潜水艦を一隻貸そう。

   艦長以下、乗組員には必要以上のことは伝えとかん。

   それと彼らにも他言無用としておく」


晃司「ありがとうございます。それでは山本長官、行って参ります」


山本「うむ。無事にな。吉報を待っているぞ」


晃司「はい長官、それでは失礼致します」 


    晃司はこの時代の軍がどうするのかわからなかったが

    脱帽して深く一礼して部屋を出ていった。 


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