第15話 新たな行動 その1

    警備にあたっている下士官に草鹿任一が声をかけた。   

         

草鹿任一「私は海軍兵学校学校長、草鹿任一であるが、永野修身軍令部総長より

     出頭命令を受け、二人の士官を連れて、今広島から到着したところだ。

     至急、永野総長にお目通りしたいので、通達願いたい」

  

    草鹿任一の階級章を見た下士官が、かしこまった様子で挨拶した。


下士官「はっ、今お呼び致しますので恐れ入りますが、少々お待ち下さい」

         

    しばらくした後、先程の下士官が帰ってきた。


下士官「お待たせいたしました、中で総長閣下がお待ちであります」


    下士官は3人を永野総長の部屋まで連れて行った。


下士官「こちらです、お入りください。では私はこれで、失礼致します」


    草鹿、晃司、一花は永野の執務室へ入った。


草鹿「永野総長閣下、草鹿任一、命令通り二人を連れ、出頭致しました」


永野修身「おうおうこれは草鹿校長、ご苦労さんだったな。まあかけたまえ。

     そちらの2人か、75年後の未来からきたという若者たちは」


    晃司は自分たちがいた時代、一部永野修身については良くない話も

    聞いたことがあったが、そのことは一説にすぎず永野を全面的に

    信用するしかなかった。

    そうでないと今後の作戦も根本から成り立たなくなる。


岡本晃司「お初にお目にかかります永野総長閣下。防衛大学校4年生岡本晃司と

     申します」


園田一花「同じく防衛大学校3年生園田一花と申します。お目にかかれて光栄です、

     総長閣下」


永野「海軍軍令部総長永野修身だ、宜しくな。君たちもかけたまえ茶を出そう。

   そういえば君たちも同じ軍服を着ているんだな」


草鹿「総長閣下、私が支度させました。もともと彼らは制服がありましたが」


永野「そうか、それにしても日本はえらいことになったなあ。

   君たちのおかげで世界の状況がより飲み込めたよ」


晃司「恐れ入ります、閣下」


一花「恐れ入ります、総長閣下」


    晃司と一花は深々とお辞儀をしながら言った。


永野「なあに、そうかしこまらんでええわい。君ら元々この時代の人間じゃ

   ないんだ。

   それこそこちらが、かしこまってしまいそうだわい」


    永野の言葉に対応して晃司が切り出す。


晃司「では総長閣下、単刀直入に大々的に、意見具申させてもらって

   宜しいでしょか」


永野「なんじゃ申してみい」


晃司「僕いえ私岡本晃司を海軍連合艦隊司令長官、山本五十六大将の直属に、

   そしてこちらの園田一花を永野総長直下つきに、配属して頂きますよう、

   お願い申し上げます」


永野「ほう、いきなりの提案だのう。何故(なにゆえ)そう策を練る?」


晃司「まず大局的には総長閣下と同じかと思います。我々日本が負けないためです」


永野「75年後か、一世紀も経っとらんのう。わしのことも、軍に近い組織の関係の

   学生なら、特に知っておるよのう」

    

晃司「閣下のことは私ももちろん、こちらの園田のほうがもっとよく存じて

   おります」


永野「頼もしい同志を得た気分だ。まあ詳細等を聞こうか」


草鹿「総長閣下、私は離席致しましょうか?」


    草鹿任一が気をきかせて言ってくれた。

             

永野「どうするね、お二人さん」


晃司「それでは今だけお言葉に甘えて、お願いしてよろしいでしょうか、校長」


    晃司は申し訳なさそうにだがはっきりと草鹿に言った。


草鹿「わかった。任せたよお二人さん。総長閣下、では私は一旦失礼致します」


晃司「校長、あとでお迎えに上がります」


草鹿「うむ」


    草鹿任一は退出した後、別室にて晃司たちを待った。


永野「さて、続きを聞かせてもらおうか」


    晃司は考えてあった作戦を話すために切り出すのである。


晃司「はい、まず先ほどの条件を飲んでいただくために、自分自身でもどこまで

   できるかの確認も含めて、まずこちらも動きたいと思います」


永野「うむ。何をしてくれるのかな?」


晃司「総長閣下、まず、2月に行われる米国西海岸における、第二潜水隊の

   サンタ・バーバラ襲撃を2月上旬までに早めてもらいたいと思います。

   そして今からそれまでに、20代のスパイ2名とスタンフォード大学

   学生証、並びに同研究所員証を3名以上分ご用意下さい」


    実際史実では、1942年の2月には、開戦以来連戦連勝を続ける

    日本海軍の伊号第十七潜水艦が、アメリカ西海岸沿岸部の

    カリフォルニア州・サンタバーバラ市近郊のエルウッドにある

    製油所を砲撃し製油所の施設を破壊している。

 

永野「んー、何となく分らんでもないが、何をする気だ?」


晃司「サンタバーバラの空襲を陽動にして、カリフォルニアのスタンフォード大学

   内部にある、フーヴァー研究所に行き、米国前大統領ハーバード・フーヴァー

   を我々日本海軍と提携させてみせます」


永野「具体案を聞いてもいいかな?」


晃司「はい閣下。この時代の今、フーヴァーは共産主義に立つルーズベルトを

   激しく非難しています。

   フーヴァーと提携をはかり、ルーズベルトを失脚させ、後に日米の早期和平を

   迫ります。

   その代償も考えていますが成功したらお話しします。

   日本側は軍閥化を解体しなければなりませんけどね。

   軍閥の解体は私の裁量外になりますので総長閣下か誰かに依頼させて

   ください」


永野「そうか、最後の部分はこちらも動いてみるが、それ以外君がやれると?

   岡本君」


晃司「試してみたいとも思います。万が一これが成功しなくても米国の世論が

   動くまで日本海軍連合艦隊を勝ち続けさせます」


永野「そんな重大で危険な役目を君に任せていいのか?もし成功したら何か就きたい

   地位等があれば言ってくれ。

   わしにできることなら、何でもしてやろう」


晃司「それでは総長閣下への最初のお願いに加え、私を総長閣下の直筆において、

   海軍連合艦隊司令長官、山本五十六大将の自由に使う様にと添え、山本長官の

   直属の中尉待遇として旗艦に配属の命を下さいますよう手配願えますか?

   我々の正体や総長閣下にお話しした内容も書き加えていただければ

   助かります」


永野「それだけでいいのか?」


晃司「はい閣下、十分です」


一花「待ってください岡本先輩、そんな危険な役目、先輩だけにさせられません。

   私もお供させて下さい」

 

    一花は責任感からか晃司のことが心配になり進言した。


晃司「園田さん。万が一俺が戻らんかった場合、あと詳細は君に任せるしか

   ないんよ。

   連れていくことは出来ん。

   この時代の、我が国のためにもや、わかってくれるよね」

        

一花「先輩、私つらいです、お役に立ちたいのですが。心の支えとしてだけでも」


晃司「ありがとう。じゃ俺が無事に帰ってくることをここで願っていてくれんかな」


一花「絶対無事に帰ってきてくださいよ」


晃司「分かった約束する」


永野「岡本君、わしと山本長官の斡旋(あっせん)も考えておるんだろ」

        

    永野は山本五十六が自分の言うことを聞かず独断で動く

    ことを晃司たちが知っていて、そのためのパイプ役として

    二人が別々に任に就くという考えを見抜いたのである。


晃司「お察し下さり、恐れ入ります」

 

永野「山本長官にも、わしがこのことを分かっている、ということを

   伝えてもいいぞ」


晃司「ありがとうございます。連合艦隊も少し動きやすくなるかもしれません」

        

永野「よし、では早速手配させよう。私の直筆の手紙は君に預ける。

   命令書と嘆願書(たんがんしょ)に分けよう。

   サンタバーバラの件は軍令部次長と連合艦隊司令長官に任せる」


    永野は山本宛に命令文と嘆願文を書きつづって、

    晃司に手渡した。

                                       

永野「草鹿校長が待っている。二人とも行っていいぞ。

   園田君は後で戻ってくるようにな」


晃司「はい。では総長閣下、失礼致します」


永野「おう吉報を待っておるぞ」

                                

    晃司が退室し、一花も退室しようとしたときに

    永野が一言言った。

  

永野「お前ら結婚すればいいのに」


一花「そ、そんな閣下あ、あの、では私も一旦失礼致します」

  

    一花はそそくさと部屋を出ていった。     


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