おうち時間と先輩と後輩くん

ジュオミシキ

第1話

『やあ後輩くん。元気にしているかな?』

「はい、元気です。というか昨日もこうやって電話してたじゃないですか」

『すまない。こういう時に、一日でも君の声を聞けないのが寂しかったなんて、そんな冗談も言えなくて』

「冗談なんですね……」

『まあ、そんなことはさておき。君は今何をしていたかな?』

「暇してましたけど」

『忙しかったかな?今の君は、溜めに溜めていた課題に追われてさぞ苦労している事だろうね』

「あれ?電波が悪いのかな、話が通じてない? そもそも先輩と話している時点で暇してたという事を分かってくださいよ」

『なんだい、君は、愛しの彼女と話すのがそんなに面倒なのかい?たしかに前に私は面倒だと言った気もするけれど、そこまで言われるとさすがの私も傷ついてしまうんだよ。私だって、案外繊細なガラスのハートなんだよ』

「へい、存じております」

『ところで君はやっぱり課題に追われているんじゃなかろうか?』

「あれ、また話がループしてる?」

『そうなんだろう?どうしても分からない所があるんじゃないのかい?それと、これはとても有益な情報だけれども、私は君の一つお姉さんなんだよ。頼りにしてくれて構わないんだ』

「本当に暇してます」

『あのね、君はもっと“察しの良さ”を学ぶべきだよ。つまるところ、私がビデオ通話で君の勉強でも見てあげようかという事なんだ。これで分かっただろう?早くビデオ通話に切り替えたまえ』

「だからもう課題無いんですって。なんですか?さっきからずっと、僕がまるでだらけてばかりいたって決めつけて。そんなに僕のことが嫌いですか?」

『なっ!嫌いなわけがないだろう!?……私はただ、』

「まさか本当にただ寂しかったわけじゃ……」

『いやいや、そんなわけがないだろう? ああ、君が思いの外しっかりしていると分かって一安心だ。それじゃあ、もう電話を、切って、も、いい……」

「明らかにどんどん声が小さくなって行くじゃないですか。……はあ、せっかく僕が先輩がいつ電話をかけてきてもいいように早々と課題を済ませてたのに」

『え?』

「僕はただ先輩の顔が見たいのでビデオ通話に切り替えたいんですけど、先輩はどうですか?」

『あの、えと、私は……』

「はっきり言ってもらっても大丈夫ですよ。似合わないとかそんなの気にしないでいいですから」

『……じ、実の所、私も君が恋しくなっていたんだ』

「あ、やっぱりあれは冗談じゃなかったんですね」

『切り替えなくても分かる、君は今とてもニヤニヤしているだろう?』

「確かめたらどうですか?」

『是非ともそうしよう……と言いたいところだけれど、やはり控えておきべきかな。いや、本来はそう思っていたんだけれど、いざ君の顔を見てしまうともっと長話になってしまいそうで……もう夜も遅いからそれは迷惑だろう?』

「ふふっ。今更そんなの気にしてたんですか、先輩はやっぱり先輩ですね」

『むっ。後輩くんのくせに生意気だぞ』

「あのですね、先輩。だからさっきからずっと言ってるじゃないですか」

『? 何をだい?』

「僕、今暇してるんですって」

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