春の雨
和泉ゆり
春の雨
3月の雨。この時期は大学生時代、喫茶店でアルバイトしていた頃を思い出す。喫茶店のママが春は一雨ごとに温かくなっていくのよ、と言っていた。3月で今いる場所がなくなってしまう。この場所というのは、学生という肩書のこと。学生でなくなるというのは怖い。社会に出るということが非常に怖くて毎日震えている。環境の変化が怖いのだ。幼い頃から、4月は嫌いだった。4月の新しい感じが少し苦手だった。皆新しい場所では、お互いどう出るかを見合っているような、自分の素をさらけ出せていない感じがどうも胡散臭くて、嫌いだった。
本当ならば、学生最後の休みには旅行に行きたいとも思うが、コロナ禍のこの時期ということと、金欠も相まってなかなか遠出することは難しい。これほどまでに重苦しい感じの日々をただただ暮らしていても、行きたい場所はある。岩手のイーハトーブやどこかの寝台列車、静かな海をぼんやりと眺めること、いわき市の鬼が城、沖縄、京都の神社めぐり、フランスのパリ、南フランスの海、ローマ。あとは温泉もいい。この時期だから桜を楽しむことだってできるだろう。でも行くまで、その場所に思いを馳せるまでが楽しいのかもしれない。
親友がアメリカから帰国する。ニューヨーク、ハワイと周り約5年ぶりのご帰国。素直に嬉しい。私が英国に発ったのは5月。彼女は4月ごろかな。成田空港に見送りに行ったときに、出発ゲートで別れた時のことを未だに鮮明に覚えている。一生の別れでもないのに、空港で泣いてしばらく動けなくなった。空港にあるタリーズで飲み物を飲んで落ち着いた。私の大学生生活は彼女との日々だった。彼女の支えがなくなり、1人で真新しい環境へ飛び込んでいくのは不安だった。私はそれから少し不安定になった。
春の雨 和泉ゆり @toumei10
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
同じコレクションの次の小説
春の憂鬱/和泉ゆり
★2 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
関連小説
冬の雨音を聴きながら/和泉ゆり
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
夏の夜、低血糖/和泉ゆり
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
春の憂鬱/和泉ゆり
★2 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます