第10話 天才現る part2
本当に今の私は、私Bは、私なのだろうか。約四〇人の準大人を、二度も、しかも意図的に、こんなに沸かせることが、向こうの私にできるだろうか。いやできない。自分で言うのもなんだが、Bは天才だ。
たったそれだけのことで……、と思う人はいるだろうが、その人はこの、今私がいる場所に来てほしい。そして、この風を、この音を感じてほしい。きっと思うはずだ。これは、天才にしか成しえないことだと。
もしかしたら、本当の私は天才で、普段は、それが私自身によって隠されてしまっているのかもしれない。天才Bが本当の私で、いつも凡人Aに邪魔されていたのか。
そうか。そうなのか。私は、何度も何度も頷きながら、「天才」の二文字を、ゆっくりとゆっくりと、体中の全細胞に染み込ませていった。
ここに来られて本当に良かった。こんなに気持ちのいいことは今まで無かった。もうこれからはこっちで生きていこう。天才として生きていこう。
あっちの世界で私が、いやAが、どうしていようと知ったことか。私とAは完全に連動しているから、ひょっとしたら、Aは精神異常者として逮捕されて、強制入院させられることになるかもしれないし、奇跡的に何かしらで成功して大金持ちになれるかもしれないが、どちらにせよアレはもう他人だ。どうでもいい。ここにいる天才に一生振り回されることになる哀れな奴。ただそれだけの存在でしかない。
とにかく、この世に神様、それか仏様がいるのなら。どちらでもいい。私を元いた世界へは戻さないでいただきたい。どうか永遠に。お願いします。お願いします。
そんな具合に、私は化学の授業は一切聞かず、ただひたすら非科学的な神仏への祈りに明け暮れた。
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