幼き2人の戦士と1人の師匠のお話

サイキック

第1話

レンガの街並みを私、シュナは歩いていた。ここは私が生まれ育った地。裕福ではないがスラム街のような街でもない。ちょうどいい街。けれどこの国は分け合って隣国と戦争をしている。

「師匠。どうしたんですか?」

どうやら自分の家もとい、道場まで着いていたようだ。先程私を師匠と読んだ短髪で金髪の男子は、この道場の1人の弟子。戦争中で、大体の男は兵士として陸軍に徴兵されるため私の道場にはこの子しかいないのだ。

「なんでもないですよ。」

私は少々微笑んで彼にそう答える。それから数時間鍛錬に時間をさく。彼の太刀筋は悪くない。対峙した時の彼の太刀筋は私でも怖い。連続した突きからの、力強い突きという緩急。かと思いきや、強い付きの連撃。読みににくい太刀筋だ。彼は私より背が低いのでお腹や足を狙ってくる。案外いやらしい突き。

「師匠。実は僕好きな子ができたのです。」

そんな告白に私はどう返せばいいかわからなくなって少々テンパっていると彼が口を開いた。

「その子は僕と同い年で、とても可愛いんです。」

私は笑いながら、

「強い子はモテますよ。頑張りましょう。」

そうして私と彼はまた鍛錬を始めた。彼にも好きな子ができたか。そういう年頃ですものね。胸がモヤモヤしますね。なんでしょうこれ。いや多分私はこの気持ちをわかっているのでしょう。だからこそこの気持ちは私の心の奥底で封印しなければならないのです。

「とぉ。」

彼の声で私の思考は止まった。

「師匠。雑念が見えますよ。」

彼はどうだ。言ってやったぞ。と言わんばかりにドヤ顔している。

「いつも私が注意していることでしたね。」

私は彼によくできたという意味で頭を撫でる。

彼は彼で撫でられると猫のように気持ちよさそうにしていた。

「師匠。顔赤いですよ。もしかして風邪ですか。」

「いえ違います。ただ暑いだけです。」

そうすると彼は道場の窓を開けて空気が入るようにしてくれた。

私は右手に持った麦酒をゴクッと飲む。爽やかな苦味が来て、その後に少々甘みが来る。そうして喉を通過するあたりで炭酸の刺激が来る。

「美味しぃぃ。」

「あんたほんと美味しそうに酒飲むねぇ。」

昔の同僚のサナがそんなことを言ってくる。私はそんな風に飲んでる気は無いのだが。

「だって美味しいんだもん。」

「でどうなの。あんたの恋は?」

冗談交じりにサナが聞いてくる。私は頼んだフライドポテトを2本ほど食べて、答える。

「恋なんててててしてないわわわわよ。」

おかしいな上手く口が回らないなぁ。多分お酒のせいだと思う。うんそうだ絶対そうだ。

「あんたほんとわかりやすいわよね。」

数日後。

戦争は激化し、国の男という男は戦場に駆り出された。そう彼も例外ではなく。しかし彼は戦場に駆り出さられる令が出された瞬間、駆け落ちをしたという。

「道場に私以外いなくなりましたね。」

乾いた笑みと涙しか出てこなかった。

2年後

「ここが道場ですか?」

誰かが私に声をかける。私はその問いに「はい」と答える。そしてそこからは早かった。道場の手続きをして、道場に入った。彼もあの子とは違い緩急はないがスピードがとても早く良い太刀筋をしていて私は教えるのが、楽しくなって言った。話を聞くと彼は、1年前までは前線で戦っていたが、病気が発覚してここに戻ってきたのだという。そして彼の病気の特効薬は最近できたらしく、運動のためにこの道場に来たらしい。楽しくて楽しくて日々がすぐに過ぎ去って言った。

「師匠ー。」

そこには気の抜けた顔で寝ている師匠がいた。僕は時間を確認する。稽古の時間まではあと数分あるし、寝かしておこう。でもやっぱり師匠可愛いな。多分僕は師匠に恋をしているのだと思う。けれど多分叶わない。もう少しで僕のところにもあの紙が届く。ボソリと師匠が寝言で誰か男の名前を呼ぶ。その師匠の声音はとても寂しそうだった。少し僕はムッとして師匠のほっぺたを引っ張る。

「痛た。私寝てましたか。というかもっと別の起こし方があったでしょう」

彼と日々を過ごしていたある日。彼が口を開く。

「僕のところに来ました。出兵書。多分これが最後の稽古だとおもいます。だから1本本気でやってください。師匠。」

彼との日々の中で1度も見た事のないほどの笑顔で彼は言う。薄々気づいていたけれど、どうやらその日は案外早く来てしまったようだ。

「分かりました」

私がどんな表情をしていて、彼とどのように戦いあったか、今では覚えていない。けれどあの時間はとても長くて、それでいて短い様な時間だった。

「そちらの国のレイピア使いとは珍しい。」

そう言った敵国の兵士も腰にレイピアをたずさえている。敵国のレイピアは珍しい訳では無いのだが、レイピアの形がうちの国に非常に似ていて驚いた。

「聞け!我が兵士達よ!我の突き合いに何人たりとも邪魔をするな。我らの戦闘を開戦の火蓋としよう。」

「そういうことだ。僕も興が乗った。邪魔をするなよ。」

僕がそう言うと、互いに距離を詰める。得物長さは互いに同じ。気を抜けば突き刺さる距離。

脚や腕など、こちらの機動力を下げるような剣先。こちらは頭や腹などの1発入れば致命傷となりうる部位を狙い突きをはなつ。互いに受け流し、回避し続ける。少し、連撃を放つスピードをあげる。そうすると相手は力を上げてくる。ぐさり。得物が当たった感覚がある。相手の脇腹あたりだ。しかしそう思った瞬間、激痛が僕の体の中を走る。

「「ハアアアアアアアアアアア!」」

叫ぶ。痛みを振り払うように。忘れ去るように。幸いな事にアドレナリンが分泌されてるようだ。あまり痛みは感じない。スピードが落ちるが確実に相手のからに穴を開けていく。しかしこちらの体にも穴が空いていく。最後の力を振り絞って放ったつき。相手に穴を開けた感覚はあるけれど、意識は朦朧としていた。

「敵国同士じゃなければ仲良くなれたかもな。」

「同意だ。」

バタリ。

そうして2人の幼き戦士は戦死した。





【後書き】

千本桜という小説をカクヨミにて連載しております。下のURLより飛べますので、気になった方は1度読んでみてください

https://kakuyomu.jp/works/16816452218912486392


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