ゲルマニア軍の攻撃

 ACU2337 12/10 神聖ゲルマニア帝国 パンノニア公国


 ゲルマニア皇帝が発した最後通告を、ガラティア皇帝は黙殺した。ゲルマニア皇帝は総統シグルズの奏上に応じ、ガラティア帝国に対し宣戦を布告した。ヴェステンラントはガラティアとの戦争に踏み切った時点でゲルマニアに宣戦布告すると宣言していたものの、今のところ動きはない。


 シグルズは帝都を離れず、ガラティア攻略はグレーテル・フォン・オステルマン大将に一任した。かつて第88機甲旅団の幕僚長としてシグルズの下で活躍した彼女も、今や南部方面軍総司令官に登り詰めたのである。彼女は元々師団長であり、この人事に異論を出すものはいなかった。


「大将閣下、斥候隊が戻りました。敵軍の用意は既に十分整っているとのことです」

「やはり最初から我々と戦争する気だったか」


 ガラティアとゲルマニアの国境は高度に要塞化されている。幾重にも掘られた塹壕線を基本として、その前方には戦車の動きを遮る龍の歯のごとき障害物と歩兵の動きを遮る鉄条網、後方には照準を完全に定めている砲兵隊が並び、ゲルマニア最新のⅥ号戦車であろうと、近づいたら最後、一瞬にして消し炭にされるであろう。


 まあ、これはあくまで何も考えずに突撃した時の話だ。ゲルマニアは敵の防備についてはよく観察し研究し、これを突破する戦術を考案していた。それが機能するかは、今日これから分かることである。


「それでは諸君、これより、バルバロッサ作戦を開始する。爆撃隊を出撃させよ!」


 ゲルマニア軍は既に航空機の時代が到来したことを感じ取り、多数の航空隊を国境に配備してある。オステルマン大将の命令で、航空隊は事前の作戦通り出撃を開始した。


 ゲルマニア軍の戦略は一点突破である。事前に作戦区域と指定された、長さにして10キロパッススほどの領域に、二千を超える爆撃機が襲いかかった。


「敵軍の高射砲により、爆撃機が落とされているようです」

「やるではないか。だが、その程度で怯むことは許さん」


 かつて爆撃機は完全に一方的に敵を攻撃することが出来たが、そんな都合のいい話は最早ない。爆撃機とて落とされるものだ。


「第三航空隊、攻撃を開始します!」

「よろしい」


 爆撃機は敵の塹壕線の少々手前に到達すると、一斉に急降下を開始する。サイレンのような不気味な音を響かせながら猛烈な速度で塹壕に接近し、ありったけの爆弾を投下して急上昇する。急降下の際にガラティア軍の対空機関砲によって若干が落とされたが、ほぼ全機が無事に帰還した。


 爆弾は塹壕の中に籠る兵士を吹き飛ばし、龍の歯を消し飛ばし、後方の砲兵隊も蹴散らした。鉄条網だけは爆撃で排除するのは難しかったが、それ以外の設備は一度の爆撃で大きく損傷し、土煙が舞い散って、つい先程までの威容はすっかり失われてしまった。


「航空隊の損害は50機、全体の3パーセント程度です」

「予想の範囲内の損害だ。反復攻撃を行わせろ」

「はっ!」


 爆撃機は再び爆弾を積んでガラティア軍の防衛線に襲来する。三度にわたる爆撃が行われ、ガラティア軍の防衛線は見るも無惨な姿になってしまった。


「敵軍の対戦車障害物は、ほとんど破壊出来ました。戦車を動かせます」

「全軍、攻撃を開始せよ!」


 一万両の戦車を中核とするゲルマニアの主力部隊が侵攻を開始した。先鋒を務める重戦車隊に、ガラティア軍は新型の魔導弩砲を用いて攻撃を行うが、厚い正面装甲には全く通用しない。機関銃で応戦するのはなおさら無意味である。既に崩れかけた障害物と鉄条網を踏み潰し、重戦車は易々と塹壕線に到達した。


 ゲルマニア軍では既に、前線部隊においては全ての兵士に突撃銃と対人徹甲弾が配布されている。拳銃弾より大口径の対人徹甲弾を突撃銃で連射すれば、ガラティア兵の魔導装甲はすぐに破壊された。ゲルマニア兵はあちらこちらから塹壕線に侵入し、ガラティア兵の抵抗を一切許さずあっという間に制圧してしまった。


「閣下、第9機甲師団のⅥ号戦車が撃破されたようです!」


 その時、ゲルマニア最新の戦車が初めて撃破されたとの報が入る。


「ガラティア兵に取りつかれでもしたのか?」

「それが、敵軍の高射砲による攻撃とのことです」

「高射砲の零距離射撃か。考えたな」


 陸上部隊にとっては何の脅威でもないだろうと放置していた高射砲が、戦車に向かって火を噴いたのである。その威力は想像以上に高く、装甲列車を除けばゲルマニアで最強の防御力を持った兵器が真正面から押し負けてしまった。


「まさかⅥ号の装甲が撃ち抜かれるとは……」

「確かに驚きだ。とは言っても、高射砲で対戦車戦闘など無理がある。いや、高射砲をそちらに転用したなら、空ががら空きか。すぐに航空隊を出して高射砲を破壊しろ」

「はっ!」


 高射砲が無ければ空はゲルマニア軍の独壇場である。このような事態に備えて空中に待機していた爆撃機はすぐに中高度から爆撃を開始した。対空機関砲は射程が短く急降下爆撃を仕掛ける爆撃機にしか効果がない。高射砲塔は次々に破壊された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る