機動戦Ⅱ

「撃ちまくれっ!!」

「「おう!!」」


 装甲車は備え付けの機関銃をぶっ放し、オステルマン中将ら司令部要員は突撃銃で銃撃を開始した。


「向こうの車両がやられました!」

「クソッ! やり返せ!!」


 魔導兵の弩によって装甲車が一つ一つ炎上する。その一方で、重騎兵の側もまた対人徹甲弾に一人一人貫かれていく。装甲車が破壊されても兵士達はそれを盾にしつつ戦闘を継続した。


「っ! 閣下! 装甲車から離れてくださいっ!!」

「わ、分かった! ――抜かれたのかっ」


 指揮装甲車の後部、燃料タンクの辺りから小さな火花が上がった。矢に貫かれたということだ。


「全員離れろっ!!」


 オステルマン中将は全力で声を張り上げて命令した。兵士達は状況の分かっていないものも即座に装甲車から距離を取る。それから数秒も開けず、指揮装甲車の後部が爆発、内部が丸見えになるほど装甲が消し飛び、全体が燃え上がる。


「ああ、通信機が……」

「そんなもんに構うな! これでも隠れるには十分だ。撃ちまくれっ!」


 炎上する指揮装甲車を盾に銃撃を続ける中将達。


「敵が突っ込んで来ます! 狙われています!」


 更に苦難が襲いかかる。重騎兵が装甲車の陰に隠れるオステルマン中将らを殺すべく突進してきたのだ。


「クッソ……迎え撃つんだ!」


 兵士達は必死に照準を定めて引き金を引く。が、数人の重騎兵が固まっただけで、彼らの銃ではもう威力不足であった。


「く、来るなっ!!」

「うあああああ!!」


 兵士を馬上から振り下ろした剣で叩き斬り、装甲車の裏側に回り込んできた。


「か、閣下、お下がりください!」


 兵士達は反射的にオステルマン中将を守ろうと、彼女の前に立ち並ぶ。だが、それが裏目に出た。


「敵の大将はそいつだぞ!!」

「っ……」


 オステルマン中将の存在がバレた。4人ほどの重騎兵が彼女のところに突っ込んできた。


「ここを通すなっ!!」


 ヴェッセル幕僚長は銃を連射しながら叫ぶ。敵と刺し違えてでもオステルマン中将に危害を加えさせはしないという覚悟で魔導兵の前に立ち塞がる。が、次の瞬間、騎兵達は次々と落馬し、地面に叩きつけられた。


 そして落下の衝撃にもがいている魔導兵をゲルマニア兵が囲み込み、一斉に銃弾を叩き付けて射殺した。かくして司令部全滅の危機は去ったのである。が、それは代償を伴っていた。


「まさか……」

「やっぱり逃げるだけなんていけ好かないね。なあ、ハインリヒ?」


 オステルマン中将は背負っていた長銃を片手で構え、その銃口からは白煙が上がっていた。間違いない。今の彼女はジークリンデ・フォン・オステルマンではない。


「あなたは、シュルヴィですか」

「ああ、そうだ。私が出てこなかったらお前らみんな死んでたぞ?」

「……ええ、確かに。その点については感謝します。しかし…………いえ、何でもありません」


 ヴェッセル幕僚長はオステルマン中将がいなくなることを恐れていた。しかし中将一人が生き残ったところで部隊の指揮が執れる訳でもないし、考えてみればこれが最悪の中の最善の結果だったとも思えた。


「何だ、歯切れが悪いじゃないか」

「お言葉ですが、あなたはいつ中将閣下に戻ってくださるのですか?」

「うーむ……そうだな、まあ魔法を使わなければ、1時間くらいでジークリンデに戻るかな」

「もっと早くは戻れないのですか?」

「おいおい、無理を言わないでくれよ。そうコロコロと中身が入れ替わってたまるか」


 いわゆる二重人格のシュルヴィとジークリンデ。シュルヴィはジークリンデの時の記憶も保持しているなど融通が効きそうなものだが、人格の交替は自由意志でやれるものではないのだ。


「そう、ですか。一先ず、目の前の危機は脱したようです」

「ああ、奴らしっぽを巻いて逃げていくな」


 司令部まで辿り着いた重騎兵は全滅していた。敵も味方もそこら中に死体が転がっている。


「しかし……指揮装甲車がこの有様です。司令部要員がいても部隊の指揮を十分に執ることは出来ないでしょう」

「おう、そうなのか」

「……あなたに説明しても意味はないですね」

「そうだな」


 指揮装甲車が壊滅し、オステルマン中将は暫く眠っており、司令部要員も何名か失われてしまった。第18機甲旅団の指揮系統は今や壊滅してしまった。


「なら、どっかから通信機を持ってくればいいんじゃないか?」

「まあ多少は何とかなりますが、友軍の状況を把握するのは不可能です」

「なら上から見よう。私が連れてってやるぞ?」

「え、ああ、それは確かに名案かもしれません」

「よしきた! じゃあ行くぞ!」

「あ、ちょっと待っ――」


 シュルヴィはヴェッセル幕僚長は抱えて空に飛び立った。落ちたら粉々になるような高度で人に支えられるだけというのは不安しかないが、ヴェッセル幕僚長は可能な限り冷静にするよう務めた。


「……敵軍は流石に限界のようですね。撤退を始めたようです」

「そうみたいだな」

「我々の勝利、と言っていいのかは微妙です。我が機甲旅団の損害は、再起不能と言ってもいいものです」


 百両以上の戦車が黒煙を上げて打ち捨てられており、その周りには死体が転がっている。


「そうなのか? 生き残ってる奴はたくさんいるが」

「半分以上の兵を失っているようです。これは全滅以上の損害です」

「はぁん、そうなのか」


 よく分かっていないシュルヴィであった。

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