陽の魔女レリアⅡ
「これは……!」
カルテンブルンナー全国指導者は、二重二立てられた鋼鉄の盾の一枚目に、小さく赤熱している部分があるのを発見した。そして二枚目の壁、すぐ向かい側の部分も同じように赤熱している。
「鉄が溶けている。敵は光の魔女。……なるほど。そういうことか」
「な、何か分かったのですか?」
「ああ。奴の魔法が分かった。種さえ分かれば、いずれ克服出来る。すぐには難しいだろうが」
「は、はあ」
レリアの攻撃手段を推理したカルテンブルンナー全国指導者は、早速本人に確認してみることにした。
「陽の魔女レリア。お前の魔法は極めて収束された光で対象を溶かし、貫く魔法だ。違うか?」
「おやおや、もう仕掛けに気づかれてしまいましたか。あなた方にそんな頭があるとは驚きです」
「ゲルマニア人を舐めないことだな」
レリア特有の魔法は、端的に言えばレーザービームである。非常に強力かつ細く収束された光を発し、その先にある物体を蒸発させ貫くのだ。恐らく、人体程度ならば一瞬にして貫けるのだろう。その様子を兵士達は、何も手を下さずとも殺したと思い込んだようだ。
まあカルテンブルンナー全国指導者とて、このような落ち着いて敵を観察出来る状況でなければ決して気づけなかった。兵士達を責めることは出来ないし、しようとも思わなかった。
「それで、私の魔法を見破って、どうやって私を倒そうと言うのですか?」
「検討中だ。暫く待ちたまえ」
「ああ、それは面倒です。本当はあなた方の盾を貫いて驚かせようと思っていたのですが、意味がなくなってしまいましたね。もうあなた方は不要です。とっとと殺しましょう」
「て、敵が来ます!」
レリアは時間をかける理由を失い、両手に剣を作り出して突進してきた。その顔は見まごう事なく、満面の笑みを浮かべていた。
「く、来るなっ!!」
「効きませんよ!」
兵士達は必死に彼女を食い止めようと銃弾を放ったが、彼女は全く止まらなかった。対人徹甲弾を使うことが災いしたのである。徹甲弾は人体を簡単に貫通するせいで、勢いを殺すことは全く不得手なのだ。
「か、閣下!」
「狙撃班! 全弾放てっ!!」
レリアの視界の外から彼女を狙う、対魔女狙撃兵を持った狙撃兵達。今こそその力を発揮するべき時である。同時に放たれた10発の銃弾は5発ほどが命中し、レリアの五体を引きちぎりバラバラにした。
「今だ! 総員撤退! 撤退だ!!」
レリアの体を粉砕したところで、兵士達はカルテンブルンナー全国指導者を人間の盾で囲みつつ、全速力で逃げ始めた。だが、これでもレリアを足止め出来るのはほんの数十秒程度しかなかった。
「え……」
突撃銃を乱射しながら最後尾を走る兵士が突然糸が切れたように倒れた。ただ転んだというのではなく、体を全て投げ出すようにして。そして彼は全く動かなくなった。
「お、おい!」
「もう死んでいる! 構うな!」
一瞬にして心臓を焼き尽くされ、何が起こったのかも認知出来ないまま兵士は死んだのだ。そしてレリアが本気を出すと、兵士達は止めどなく倒れていく。
「狙撃班! もう一度だ! 撃てっ!!」
カルテンブルンナー全国指導者も必死の形相で命令を下す。もう一度レリアの胴体を粉々にすることに成功したが、それも大した意味はない。
「手榴弾だ! 全部投げろ!」
命令を疑うことなく、親衛隊員はありったけの手榴弾を投げつけた。生身の人間相手ならかなり効果的な兵器の筈。たちまち爆音が響き渡り、煙が辺りを覆い尽くし、天井や床が崩れた。
「こ、攻撃が止まりました」
「流石に奴も怯んだか。このまま陣地まで戻れ!」
かくして親衛隊は決死の逃避行を成功させたのであった。しかし、レリア相手に出来ることと言えば、僅かな時間の足止めだけであった。
○
「レリア様、ご無事ですか!?」
レリアが手榴弾で粉々にされたところに急いで駆けつけた魔女達。
「ええ、私は無事です」
「そ、それはよかった……」
レリアはすぐさま肉体を修復し、平然と立っていた。
が、その顔はなんの表情も映していなかった。せめてシャルロットのような狂気の笑みを浮かべていた方がまだマシだ。
「あ、あの……」
「あなた方は、何の役にも立ちませんでしたね」
「そ、それは……申し訳のしようも、ございません……」
「ええ、その通りです。ですので、あなた方はもう不要です」
「し、しかし――っ!?」
魔女は驚きの表情のまま崩れ落ちた。その左胸の辺りは真っ黒に炭化していた。
「な、何を!」
「言ったではないですか。あなた方は不要だと。ですので処分します」
「や、やめ――」
レリアの周囲の魔女達はたちまち殺し尽くされた。
「ああ、本当に、目障りな連中ですね。全員死んでください」
まだ死んでいない魔女や魔導兵達を死んだ目で見つめたレリア。それから喜びも悲しみも怒りも感じない声と顔で、兵士達を一人一人、作業のように殺し始めた。
「に、逃げろ!」
「クソッ! 何がどうなってるんだ!」
蜘蛛の子を散らすように兵士は逃げ出した。レリアの周囲にはもう死体しか残っていなかった。レリアは虚ろな目をしながら、どこを目指すのでもなくフラフラと歩き出した。
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