陽の魔女レリア

「クロエ、君とノエルの他にレギオー級の魔女がいるのか?」

「こんな時に何を言うんですか」


 シグルズとクロエは戦闘状態に入っていた。今回は飛び回るようなことはせず、渡り廊下で殺し合いである。そうな時、鉄の壁を並べて機関砲を乱射するシグルズに、カルテンブルンナー全国指導者からの救援要請が入ったのだ。


「別の場所で戦っている部隊から、レギオー級の魔女が現れたとの報告を受けた。君は僕をここに足止めする為に出てきたんじゃないのか?」


 そう聞くと、剣が絶え間なく飛んできたのが止まった。


「……私はそんなこと聞いていません」

「じゃあ何で君はここにいるんだ?」

「オーギュスタンからあなたを足止めするように頼まれただけです。特に理由は聞きませんでした」

「本当か?」

「本当です。マキナもスカーレット隊長も今は私の許にいます」


 クロエは少しだけ声を荒らげて言った。どうも本当に何のことだかさっぱりらしい。


「じゃあ何が起こってるんだ?」

「私にも分かりませんが……いえ、ここには確かにもう一人、レギオー級の魔女がいます」

「女王陛下かな?」

「いいえ、違います。陽の魔女レリア、あなた達の前にはまだ一度も姿を見せていない魔女です」

「なるほど。で、それはどんな魔女なんだ?」

「教える訳がないでしょう」

「ははっ、それもそうか」

「まあ、精々気を付けてください。下手をしたらあなたでも死にますよ」

「そうさせてもらうよ」


 まあクロエがここにいる以上、シグルズに出来ることは何もない。一先ずは親衛隊の勝利を祈るしかなかった。


 ○


「私が行く。行って、敵の力量を確かめる」


 カルテンブルンナー全国指導者はいつになく力強い語調で兵士達に告げた。


「き、危険です! そのような任務は偵察隊にでも……」

「私がこの目で確かめなくては。それ一番早い」

「で、ですが……」

「反論は不要だ。すぐに可能な限りの兵士を、その魔女とやらに向かわせろ。そこで迎え撃つ」

「はっ!」


 カルテンブルンナー全国指導者自らがレリアの相手をすることとなった。ゲルマニア軍は一時的に守勢に回ることとなったのである。


 ○


 レリアは律儀に廊下を歩いてくるようだ。まあ空を飛び回られたらどうしようもないので、それに期待するしかない。親衛隊は廊下に鉄の防楯を二重に設置し、1,500ほどの兵士で防衛線を固めた。カルテンブルンナー全国指導者はその最前線にいる。


 10分ほど待つと、レリアは悠々と歩いてやって来た。とても戦場にいるとは思えない優雅な所作であった。


「ほう……あれが……」


 全国指導者は壁の横から僅かに顔を出して、敵の姿を見た。すると、レリアは足を止めて彼らに呼びかけた。


「このような小賢しい真似に、意味はありません。降伏してください。そうすれば殺しはしません」

「馬鹿を言え。我々はゲルマニアに忠誠を誓った騎士である。断じて降伏などはせぬ」

「ああ、残念です。しかしあなた方がそう仰るのなら、殺さざるを得ません」

「殺されるのはどちらかな?」

「自信があるのですね。それならば頑張って――っ!?」


 その瞬間、耳をつんざく爆音が響き渡り、レリアの胴体が真っ二つに裂けた。分裂した上半身は重力に引かれるまま、床の血溜まりにボトリと落下した。


「や、やった……?」

「本当にレギオー級というのなら、この程度は死なんだろう」


 案の定、レリアの腕は天井に向かって伸ばされ、微かな笑い声が届いた。


「はははっ、なるほど、これが体を粉砕されるということなのですね。ここまでされると、痛みも何も感じません」

「では、そのまま死んでくれるか?」

「遠慮させていただきます」


 すぐに下半身を再生させて立ち上がるレリア。まあそのくらいなら話に聞いたことがある。驚きはしない。


「再生能力は流石といったところか。ならば、攻撃は何をするのか確かめねば」


 もう少し手の内を探る必要がある。カルテンブルンナー全国指導者は次の手を打つことにした。


「総員、牽制射撃を行え! 奴を近づけるな!」


 親衛隊の兵士らは壁から銃口と手だけを出して、レリアに向けて銃弾を撃ちまくった。それでは全く効果がないであろうことは分かっている。


「さて、どう来る……」


 カルテンブルンナー全国指導者は潜望鏡もどきのもので、壁の裏からレリアの様子を観察する。


「こんなことは資源の無駄ですよ。諦めて降伏したらどうですか?」

「ならばとっとと私を殺せばいい!」

「ええもちろん、あなた方は全員殺しますよ」

「ほう」


 そう言いつつ、レリアは銃弾に撃ち抜かれたところを瞬時に修復する以外には何もせず、その場で立ち尽くしてくる。


「既に攻撃しているとでも……?」


 嫌な予感がして反射的に周囲を見渡すカルテンブルンナー全国指導者。しかし何も変わった様子はなかった。


「……撃ちまくれ! 奴のエスペラニウムが尽き果てるまで!」

「「「おう!!!」」」


 あの様子だとイズーナの心臓を持っている可能性が高く、魔法切れを狙うのは希望的観測に過ぎる。本当の目的は敵の手札を探ることだ。しかし、レリアは一向に尻尾を出さない。

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