第四十八章 平明京攻防戦
平明京攻め
ACU2314 2/16 大八州皇國 中國 平明京
「西からは皇帝率いるガラティア帝国軍およそ四万、南からは大公率いるヴェステンラント軍およそ三万、平明京に向け進軍しております」
明智日向守は長尾右大將曉に淡々と報告した。
「…………ははっ、最悪ね。奴ら一緒に攻め込んで来るばかりか協力するなんて」
「はい。特段盟を結んだ訳ではないようですが、目先の利益を同じくする者同士が協力するは、そう難しいことでもありますまい」
「……そう。で、何とかなるの?」
「我が方の兵力は二万程度しかありません。片方だけならまだしも両軍が共に攻め込んで来れば、平明京に直接籠るしかなくなるかと存じます」
「そうなりそうね。まあいいわ。例え平明京を焼け野原にしても、断じて奴らにくしたりはしない」
「はい。平明京は天下の要害。十万の兵とてここを攻め落とすことは出来ません」
同盟を結んでいる訳ではないものの、歩調を合わせて同時に攻め寄せるガラティアとヴェステンラント。曉は徹底抗戦を決断した。いや、受け入れてくれる国のない曉には、それ以外の選択肢はなかった。
○
そして四日が経過した。
「申し上げます! 白下砦がたった今、陥落いたしました!」
「そうか。予想よりも早い。曉様、やはり平明京の総構にて迎え撃つ他なさそうです」
「分かった。初めからそのつもりよ」
「はっ。残った砦の兵も退かせます」
明智日向守の計画した平明京の外での迎撃は完全に失敗。彼が築いた砦や城は全て放棄され、ついに平明京での決戦が開始される。
○
「へー。これが天下の平明京ね……」
ドロシアは望遠鏡で平明京を眺めながら、暗い声で呟いた。
「はい、ドロシア。流石、大八州が最強の城と言い張るだけのことはありますね……」
都市一つを丸々囲い込んだ西方風の城塞都市。だがそれはただ城壁が建っているのではなく、外周は完全に水堀にて囲まれ、無数の櫓が橋に近寄る敵を薙ぎ倒す、とても近寄りたくはない城である。
「――しかも、本丸に辿り着くまでそんなのが五重はある。本当、これを造った奴はどうかしているわ」
「今のような事態も考えていたのでしょうか……」
「まあいいわ。ガラティア軍と共闘までは出来ないけど、同時に別方向から攻め込むくらいの協力は出来る。ガラティア軍の攻勢に合わせ、私達も攻撃に出るわよ」
「はい。敵は二万。分散すれば一万しかいません」
「そうね。とっとと滅ぼしてやりましょう」
兵を少々休ませ、翌日には両軍の総攻撃が開始された。
○
「全軍、進め! 一気に門を落とす!!」
ドロシアは勇猛に自ら陣頭指揮を執り、ヴェステンラント軍三万は南側から総攻撃を開始した。
「ドロシア様、矢です!!」
「魔女隊は防壁を張れ! 敵は寡兵、構うな!」
数千の矢が突撃するヴェステンラント軍の上空から飛来するが、ヴェステンラント軍の魔女達は頭上に無数の、石や木や氷で出来た壁を作り出し、兵士達に降り注ぐ矢を傘のように弾き返す。しかし千を超える魔導兵が貫かれた。
「撃ち返せ! 敵兵を根絶やしにせよ!!」
「「「おう!!!」」」
歩兵達は城門に向かって疾走しながら魔導弩を城門の方向に乱射する。複数発の連射が可能な弩からはたちまち十万を超える矢が発射され、城壁を針鼠のような見た目に作り替えた。
「撃ち続けろ! 敵に撃たせるな!!」
大八州兵の攻撃を完封すべく、ドロシアは積極的な攻撃を命じた。しかし大八州兵が怯むことは全くなく、城門に近づくほどに激しい射撃が、身を隠す者もない彼女らを襲った。
「ドロシア様、敵の攻撃一向に減りません!!」
「我らの矢は効いておりません! 壁に阻まれております!!」
「クッ……東西の技術を組み合わせた城壁、か」
平明京の城壁は特異な形状となっている。すなわち、城壁の壁の部分には東方伝統の内側ほど狭くなる狙撃用の隙間――狭間が開き、城壁の上の通路には西方伝来の無数の凹凸を持った胸壁が設置されている。これにより城兵は城壁の上下から自在に安全に射撃を行うことが出来、城壁が積極的な攻撃を行う拠点となっているのだ。
「城門を落とせば城壁など無意味。この勢いのまま城門を落とす!!」
「「はっ!!」」
ヴェステンラント軍もまた突撃の勢いを緩めることはなく、多くの犠牲を出しながらも水堀に架けられた橋を渡り、城壁に到達した。
「工作隊、門を破壊せよ!」
破城槌を持った兵士達が魔女に守られながら前進し、城門にその巨大な槌を打ち付ける。大八州の武士は彼らを殺そうと矢を射かけてくるが、ドロシア直々の土の防壁はその一切を受け付けない。
そして何度となく木の軋む音が聞こえた後、城門を支える閂が音を立てて裂け落ちた。
「突入! 敵を蹴散らせ!!」
「「おう!!」」
ヴェステンラント軍は我先にと城内に突入した。しかし、その先にあったのは勝利ではなかった。
「じょ、城門が更に一つあります!」
「こ、これは一体……」
城門を越えた先は城壁で囲まれた狭い四角形の空間で、今突破した城門とは対角線上となる位置にもう一つの城門があった。そしてこの空間に入った瞬間、ドロシアは非常に嫌な予感がした。
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