終結

「あなたのオーレンドルフ幕僚長にはスカーレット隊長が、ヴェロニカにはマキナが当たっています。ちょうど3対3でいいですね」


 クロエはこんな状況でも余裕を見せつける。


「確かに今はね。でもこっちにはオステルマン軍団長がいる。彼女が魔女として戦えば君達の不利じゃないかな?」

「彼女は軍勢の総司令官でしょう? 我が軍は総司令官不在でも何とかなりますが、あなた達のような厳格な指揮系統の軍隊でそんなことは出来ないのでは?」

「それはどうかな? オステルマン軍団長の幕僚は優秀だ。軍団の指揮くらい出来るだろうさ」

「来れるものなら来てみればいいのです。その時に対応を考えます」

「交渉決裂か。では戦争だ」


 シグルズは両手に対物ライフルを作り出し、クロエに向けた。


「相変わらずのデカブツですね」

「君の剣も相変わらずべらぼうな威力をしてるじゃないか」

「……覚悟っ!」


 クロエは数本の鋭い刀身を矢のような勢いで投げ飛ばした。それとほぼ同時に、シグルズは刃を回避しながら対物ライフルの引き金を引いた。刃も銃弾も、命中はしなかった。


 結局のところいつも通りの決闘である。クロエの剣は手数はあるが空を飛ぶ相手には速度が遅く、シグルズの銃は手数が足りない。これより弱い銃ではクロエな強靭な魔導装甲を貫くことは出来ないだろう。


「そんな5秒に1発も撃てない銃では、魔女を落とせはしませんよ? 対空機関砲でも使ったらどうです?」

「ああ、確かに。その手があったね。ありがとう」

「え、本気でやるんですか」


 シグルズは魔法で四連装の対空機関砲を作り出す。とても人間が持つようには作られていないが魔法で無理やり持ち上げ、クロエに狙いを定める。


「そろそろ死んでもらおうか!」

「ちょっと面倒ですね……」


 対空機関砲が火を噴く。だが次の瞬間、クロエは巨大な鉄の板を作り出し、その後ろに隠れた。対空機関砲の砲弾では、それに太刀打ちは出来なかった。


「ほう、君でもそんな受け身になるんだね」

「至近距離でそれに撃たれるのは面倒ですから」

「そう。やっぱり決め手にかけるか……」


 およそ全ての物理攻撃はあの壁に阻まれるであろう。やはりクロエを完全に殺すには、何らかの手段で闇討ちするしかないようだ。


「とは言え、あなたは私を倒さなければ目的を果たせませんが、私はここであなたと睨み合っていれば勝ちなんですよ?」

「……確かに。どうやら君の勝ちになりそうだ」


 敵を殺しきれる武器がない以上、シグルズに勝ち目はない。この戦いはゲルマニア軍の負けだ。


「まあいい。君達が前線に出るのを防ぐことは出来る」

「そうですね。もっとも、あなたのような番狂わせが出なければ、地上の戦いも私達の勝ちになるでしょうが」

「クッ……」


 魔女達を抜きにしても、今はヴェステンラント軍が優勢だ。ゲルマニア軍の包囲は破られつつある。


 〇


「ハーケンブルク少将の作戦は、失敗したようです。敵は全力で出撃して来ています」

「クソッ……。奴らの勢いを押さえきれん」


 戦車は榴弾砲で一斉砲撃を行い、あっという間に多数の敵を吹き飛ばしたが、覚悟を決めたヴェステンラント兵は全く怯まず、味方の死体を踏み越えながら突撃してきた。


 そのような攻撃が前後から行われ、流石のオステルマン軍団長でも統制を保つことは難しかった。


「閣下、敵は死兵と化しています。真っ当な軍隊ではありません。これと真正面からぶつかれば、我が軍が大損害を喰らうのは必至です」

「うーむ……」


 兵士達は狂信的な突撃を繰り返す騎兵達に恐れをなし、冷静に戦闘を行えないでいた。そして集団戦を前提とするゲルマニア軍は、統制が乱れると途端に弱体化してしまう。


「残念ですがここは、我が方の損害を抑える為にも、敵に退路を与えるべきかと」

「……本気か、ハインリヒ?」

「はい。カムロデュルムを制圧すれば終わりではないのです。我々はブリタンニア島全域を制圧しなければなりません。ブリタンニア軍が増援を送ってくるとなると、戦力を温存しなければ」

「…………分かった。包囲を解除しろ。奴らならそれを見てすぐに逃げ去る筈だ。それと市内の部隊は攻撃停止だ」

「はい。すぐに手配しましょう」


 かくしてゲルマニア軍は、ノエルの馬鹿げた作戦の為に完璧な勝利を手放さざるを得なくなってしまった。


 〇


「どうやらあなたがたの司令官は諦めたようですね」

「……そのようだね。もう君と戦う理由はなくなった。というか寧ろ、兵を指揮してとっとと逃げてくれ」


 ヴェステンラント軍が統制を保ってくれないと、それはそれで困る。無駄な犠牲が増えるだけだ。


「どうも。ああそうそう、まだヴェステンラント合州国に寝返る予定はありませんか? 今なら好きな兵士を誰でもあげますよ? 私も含めて」

「……それは僕を籠絡しようとでも?」

「まあ、そういうことですね」

「そういうのには興味ないんだ。分かったらとっとと帰ってくれ」

「あら残念。それでは失礼します」


 かくしてヴェステンラント軍は、大きな犠牲を出しながらもカムロデュルムからの脱出を成し遂げた。1万5千程度の兵がなおもゲルマニア軍に抵抗を続ける。

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