ルテティア奪還

 ACU2313 4/16 ルシタニア共和国 首都ルテティア近郊


 ヒルデグント大佐率いる第89機甲旅団は進路を阻む敵を全て撃滅し、作戦開始から二週間も経たないうちにルテティアに辿り着いた。彼女の実力はもう十分に示されたと言えるだろう。


「あれがルテティアですか。直接見るのは初めてですね」

「はい。まあルシタニアの王都とだけあって、それなりの城塞都市にはなっていますね」


 ルテティアはルシタニア共和国にとっても最重要の都市とだけあって、王国が整備した以上に堅固な城壁と砦に囲まれている。落とすのにはそれなりに苦労しそうだ。まあこれまでの雑魚同然の要塞と比べたら、であるが。


「問題ありませんね。立ち塞がる者は全て滅ぼします。逆らう者は全て焼き殺します」

「……はっ」


 今までの戦いで随分と虐殺には慣れて来たものだが、未だに兵士達には躊躇があった。だが今回は、更に苦言を呈する者がある。


『カルテンブルンナー、ルテティア総攻撃は暫く待ってくれないか』

「おや、これは国王陛下。陛下が仰るのならば、と申し上げたいところですが、我々は戦争をしているのです。合理的な理由なき場合には、陛下のお言葉であっても受け入れかねます」

『理由ならあるとも。知っているだろうが、ルテティアはルシタニアで最も人口の多い都市。そこでこれまでのような虐殺を行えば、我々の大義とて揺らぎかねない。それでは本末転倒ではないか。戦争とは政治なのだぞ?』


 解放軍が恨まれていては仕方がない。国王の判断も合理的なものであった。しかしヒルデグント大佐にそんな気はなかった。


「いいえ、陛下。我々に弓を引く者は全て、王国に対する、陛下に対する裏切り者です。そのような者はどうせ反逆罪で処刑するのですから、早めに殺しておいて損はないでしょう」

『し、しかし、彼らとて私の民なのだ。殺さずに済むのなら――』

「彼らは彼ら自身でこの道を選んだのです。共和国に自ら積極的に参加してその先槍になろうとする連中に、慈悲は必要ありません。日和見くらいならともかく、彼らは一片の疑いの余地もなく、陛下の敵です」

『そうかもしれないが……』


 確かにルシタニア共和国は徴兵を行っている訳ではない。その軍隊である大陸軍は志願制だ。だからつまり、大陸軍の人間は全て、自らの意志で共和国を防衛しようとしている、という訳だ。まあ実際は強要されることもあるだろうが。


「では、よろしいですね。陛下の敵はこのヒルデグント・カルテンブルンナーが殲滅致します」

『……君には何を言っても無駄なようだ。好きにしてくれ。但し、無駄な犠牲を出すなよ?』

「ご安心ください。私が殺すのは我が総統の敵だけです」


 敵に一切の容赦を見せない残虐さと、民間人を一切巻き込まない騎士道。それを併せ持つのがヒルデグント大佐という人間だった。


 ○


「大統領閣下。敵軍の攻撃が開始されました。周辺の砦で反撃を試みていますが、ほとんど役に立ってはおりません。兵士達は一人残らず殺されていると報告があります」

「国王め……国民の命を何とも思っていないクズが!」


 即席の砦など何の役にも立たない。機甲旅団の前に全ての砦は1時間と持たずに壊滅していた。


「閣下、このままだとルテティアに敵が直接攻撃を仕掛けるのも時間の問題でしょう。どうされますか?」

「どうするか? 決まっている。徹底抗戦だ! この首都を、国王なぞに渡してやるものか!」

「分かりました。それでは大陸軍を総動員し、ルテティアで徹底抗戦を行います」

「無論だ」


 ド・ゴール大統領には保身という発想がない。共和国を防衛する為には自らの命など惜しくはなかった。


「人民諸君! 共和国最大の危機が訪れた! 人民を家畜としか思わぬ悪逆の国王が、再び我々を支配するべく攻め寄せて来たのだ! 再び奴隷となることを許すのか。再び家畜となり下がるのか。否! 我々は決して奴隷に戻りはしない。我々は自由な共和国市民である! 自由を守れ! 市民よ戦え! 我らの敵の血が畑の畝を満たすまで!!」

「「「共和国、万歳!!!」」」


 かくしてルシタニア共和国は徹底抗戦の構えを見せた。


「しかし大統領閣下、我々の武器では戦車と戦う術がありませんが……」

「爆弾でも押し付ければよい。棒の先に爆弾を付けて叩きつけよ。戦車の下に爆弾を投げ込め。いくら犠牲を出そうとも、民主主義を守り抜くのだ」

「わ、分かりました……」


 ヴェステンラント軍は既に壊滅し、各地に散り散りになって逃げ回っている状況だ。魔導戦力は望めない。だから人間の手で戦車を破壊するしかないのである。


 ○


 ACU2313 4/17 ルシタニア共和国 首都ルテティア


「砦なんて、大したことありませんでしたね」

「はい。後は本丸だけです」


 ルテティアを守る砦は全て焼き尽くした。残るはルテティア本体だけである。まあこれが一番硬い城塞なのだが。


「それでは、攻撃を開始しましょうか。戦車隊、前進して下さい。城門を打ち破ります」

「はっ!」


 機甲旅団は徹甲弾でルテティアの城門を吹き飛ばした。かくしてルテティア攻城戦は始まった。

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