本気を出したライラ所長
「いくら大量の銃を操れるからと言って、それを操っているのは所詮は人間。背中に目はついていないわ」
「つまり……」
「ええ。隊を2つに分け、あいつを挟み撃ちにするわ」
「はい! 了解です!」
魔法は意思の力。自動的に敵を迎撃する魔法など存在しない。敵の意識の外から攻撃すれば、迎え撃つ手立てはないのだ。
そうと決まれば話は早い。散開していた飛行魔導士隊はライラ所長の前後に分かれ、空中で挟み撃ちにした。その最前線には鉄の魔女を配置し、ライラ所長の銃撃を逸らす。
「へー。考えたね……」
「全員、撃て!」
そして各々の魔法で攻撃を開始する。銃弾を撃つのはエカチェリーナ隊長だけだが、他の魔女達の攻撃も強烈である。火球や岩や氷の槍は、どれも人間を簡単に粉砕出来るものである。
だが案の定、それで死んでくれるライラ所長ではない。
「鉄の壁……やはり、ゲルマニア人はこれが好きね……」
ライラ所長は鉄の壁を前後左右に作り、その中に引きこもった。同時に空中に浮いていた銃が糸を切ったように落ちる。
壁の耐久力は非常に高く、簡単には貫けそうもない。だが、それだけだ。
「攻撃を続けなさい。エスペラニウムを使い果たさせるのよ」
「はい!」
第一に、ライラ所長は飛行の魔法と防壁の魔法を同時に使っており、これ以上魔法を使うことは出来ない。よって反撃を行うことは不可能だ。
第二に、圧倒的に数で優勢な以上、戦い続けて最初にエスペラニウムが切れるのはライラ所長だ。
勝てる。エカチェリーナ隊長は確信した。だが、その時だった。
「え……」
エカチェリーナ隊長は脇腹の辺りに焼けるような熱さを感じた。たちまち鮮血があふれ出し、彼女の下半身を血で染めていく。
「た、隊長!!」
アンナ副長は直ちに駆け寄り、よろめく隊長を支える。そして見据える先には――
「ど、どうして、銃が……」
鉄の壁の前に銃が浮かんでいた。その銃弾がエカチェリーナ隊長を貫いたのだ。
おかしい。魔法は2種類までしか同時に使えないはずなのに。
「み、みなさん! 防御を!」
距離は取ってある。ライラ所長が数十の機関銃を再び召喚しようと、防御に徹すれば被害は出ない。
最前線を固め、アンナ副長はエカチェリーナ隊長の治療にかかる。とは言っても、魔法で傷口を塞ぐだけの簡単なことだが。
「クッ……どうして攻撃が出来たの……」
「わ、分かりません……」
魔法は2つまで。この法則だけは、あらゆる魔女、魔導士に適用される。あの五大二天の魔女に対しても、だ。
「あんなのがいたら、どうにもならないわね……」
「はい……」
不気味に浮かぶ鋼鉄の城壁と大量の機関銃。これはもう完全に要塞だ。こんなのがうろついていては作戦行動などやってられない。
「エスペラニウムを無駄遣いする訳にはいかない……撤退よ」
「は、はい!」
ライラ所長を仕留め切る手立てはない。エカチェリーナ隊長は一旦退くことを選んだ。
○
「ふう……帰ってくれたかなあ……」
ライラ所長を鋼鉄の要塞から
「まあ、かなり怖かったけど……」
ライラ所長は鋼鉄で足場を作り、その上に立ちながら飛行魔導士隊とやり合っていたのである。ここまでくると本当に空中要塞だ。
しかし、飛行の魔法のお陰で航空産業が発達せず、まだ飛行船すら発明されていないこの世界において、この高度に事実上生身で立っているというのは相当怖い。
それはともかく、取り敢えず飛行魔導士隊を撃退するという任務を完了させたライラ所長は、カルテンブルンナー全国指導者の指揮装甲車に戻った。
○
一方その頃、機甲大隊はベルディデナの城壁と激しい砲撃戦を展開していた。両軍の陣地が爆炎に包まれ、それでもなお砲撃が止まることはない。
と、見た目だけなら戦況は拮抗しているように思えるのだが、実際は親衛隊が戦場を圧倒していた。
相変わらず親衛隊側の戦車、装甲車は足回りに若干の損傷がある程度で、車内の人員に死傷者は皆無。反対に重砲を裸で運用しているレギーナ側は、それらを次々と破壊されていった。
「閣下、戦況は圧倒的です。ここまで敵を削れれば、歩兵を前に出してもいいのでは?」
「いや、まだだ。敵の戦力を壊滅させるまで砲撃を続けよ。何、こうして戦っている限り、我らに損害は出ないのだ」
「はっ」
このままベルディデナが重砲を使い捨て続けるのなら、いずれその戦闘能力を完全に壊滅させることが出来るだろう。
だが戦いを続けるに連れ、カルテンブルンナー全国指導者は大きな違和感を覚えざるを得なかった。
「いくら工兵隊を妨害する為とは言え、ここまで重砲を使い潰すか……」
「我々を食い止められているのは事実ですし、そうおかしなことではないのでは?」
「だが、これでは我々がいずれ勝つ。ベルディデナに勝ち目はない。その程度の道理も分からない愚か者か、或いは時間を稼げば彼らに勝機があるのか」
カルテンブルンナー全国指導者は、ルートヴィヒ大統領に腹案があると見抜いた。
「それは……」
「なれば、そうだな。そろそろ歩兵を突撃させるとしよう!」
「え、は、はっ!」
カルテンブルンナー全国指導者は少々大胆な作戦を取ることとした。
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