本陣殴り込みⅡ
「クッソ……こういうのをやっていいのはゲルマニアだけだろ……」
ぶつぶつと文句を言いながら、シグルズは機関短銃の弾倉を入れ替えた。
ダキアの魔導兵は曲がり角の影から弩の先っぽを出してひたすらに射撃を繰り返している。この狭い道に突撃しようものなら兵士はあっと言う間に串刺しにされるだろう。
人間など数人は軽く貫ける魔導弩は、敵の来る方向が確定しているのなら非常に強力な武器なのである。
「シグルズ様……これでは埒が明きませんよ……」
ヴェロニカも機関短銃で攻撃を続けているが、ほとんど効果はなかった。
と言うのも、敵は少々銃弾を食らったところで無傷であり、交代して魔導装甲が回復するのを待てばいつまでも戦い続けられるのである。
「どうしようかな……」
「エスペラニウムが尽きるまで撃ち続けるとか……?」
「その前にこっちの弾丸が尽きるだろうね……」
遮蔽物を得た魔導兵は正に水を得た魚のようである。弾を当てても殺せないというのはあまりにも厄介だ。
「本当に――ああ……この先に本陣があるって言うのに……」
「し、シグルズ様……」
「師団長殿、現下の問題は、敵に30発は弾丸を食らわせないと死なないが、その前に敵が物陰に隠れること。そうだな?」
オーレンドルフ幕僚長は言った。正にその通りである。
「だから――何だ?」
「だから、我々は敵を一撃で殺せる武器を使えばよいのだ」
「それはそうだけど…………ああ」
シグルズはあるものに思い至った。
答え合わせにオーレンドルフ幕僚長に視線を向けると彼女は不敵な微笑みを浮かべた。どうやらそれで正解なようである。
「迫撃砲、だな?」
迫撃砲は空に向かって撃つものだとシグルズは当然のように思っていたが、別に横に向けて撃ってはならないという法はない。
「ああ。奴らに榴弾を食らわせてやろう」
オーレンドルフ幕僚長が片手を挙げて合図を出すと、数人の兵士が迫撃砲を持ってきた。
「お、おお、準備がいいな」
「これしかないと確信していたからな」
「事前に言ってくれよ……」
それはともかく、迫撃砲は階段の入口に下向きに設置された。かなり無理やりな感じだが、致し方あるまい。
そして照準は敵が隠れる物陰に定まった。
「では師団長殿、命令を」
「よし。迫撃砲、撃て!」
狭い地下壕に榴弾が撃ち込まれる。
ただでさえ暗いのと爆煙の影響で、最初の一撃で中の様子はほとんど見えなくなってしまった。
「続けて撃て!」
分からないのなら撃つしかない。そうして30発ばかりの榴弾を階段の下に投げ込んだ。
敵からの反撃はなく、戦場は静まり返った。
「だ、大丈夫なんでしょうか……」
ヴェロニカは不安そうに言った。敵が攻撃の手を止めて待ち構えている可能性もある。
「まあ、多分大丈夫だと思う」
「多分……」
「ここで躊躇していてはどうにもならないからね。総員、突撃!」
ゲルマニア軍はついに地下壕に突入した。ダキア軍が反撃することはついになかった。代わりに残されていたのは数十の死体である。
それらの魔導装甲はすっかり砕けており、およそ鎧の形を保っていなかった。
「師団長殿、どうやら我々は死体に砲弾をぶち込み続けていたようだな」
「そうなるな。屋内では結構効果が高いらしい」
魔導装甲が砕けているということは、その使用者が死んだ後に破壊されたということ。どうやらゲルマニア軍の攻撃は過剰だったらしい。
爆発が外に逃げられない狭い空間でこそ爆弾は威力を発揮するのである。そうしてゲルマニア軍は次々と部屋を制圧していった。
そしてついに、最も奥にあり、最も広く、数十の魔導通信機が並んでいる部屋を制圧することに成功した。
「ここが本当の本陣か……」
「間違いないだろうな」
「シグルズ様、魔導反応が消失しました」
「だけど、またピョートル大公を逃したか……」
敵の指揮機能は消滅した。しかしピョートル大公を捕らえることにはまたしても失敗してしまった。
〇
「閣下、ローゼンベルク司令官より、攻撃命令です!」
ヴェッセル幕僚長はオステルマン師団長に通信内容を伝えた。
「よーし。では行くぞ。全軍、突撃!」
「はっ!」
ゲルマニアの指揮装甲車目指して一直線に突撃するダキア軍。その側面から突如として戦車の群れが現れた。
オステルマン師団長が率いる第二機甲大隊である。
「撃て撃て! 奴らを蹴散らせ!」
ダキア兵の意識は今、全て正面に注がれている。それが横から榴弾を食らったらどうなるか。
答えは簡単。大混乱である。
戦車隊が正面の敵を打ち払うと、その混乱はたちまち全体へと波及する。司令部に指示を請おうにも、それは既にシグルズが押さえている。
「ふはは! 奴らしっぽを巻いて逃げていくぞ!」
「正に起死回生の一手、といったところですね」
これを機にゲルマニアの本隊も反撃を始め、たちまち戦況はゲルマニア優位となった。
機甲大隊に襲われた部隊は壊滅して兵士は逃げ去り、遠くの部隊も本陣が壊滅したことを悟って撤退を始める。
第二機甲大隊が殺したのは千にも満たない敵であったが、その破壊力は抜群であった。
かくして、ダキア軍最後の抵抗は打ち砕かれたのである。
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