プジャロヴォ会戦Ⅱ

「では……どうするんです?」

「まあ、古典的な方法で行こう」


 シグルズはニヤリと笑みを浮かべる。


「……どういうことです?」

「目で探すんだ。空から探されることまで警戒してはいないだろうからね」

「りょ、了解しました」


 シグルズとヴェロニカは高度を落とし、弩砲を隠せそうな森や茂みの上を虱潰しに飛び回った。そしてそれはすぐに見つかる。


「おっと……案外すぐに見つかったな」


 茂みの中に魔導弩砲が隠されており、付近には数人の魔導兵も隠れていた。上から見るとバレバレである。


「敵はこっちに気づいていないようです」


 飛行機や回転翼機と違い、魔女は飛んでも何の音もしない。ましてや色合いとしては地味なゲルマニア軍の軍服では、普通に鳥と見間違われることすらある。


「うん。じゃあ、やっちゃおうか」

「どうするんですか?」

「まあ……燃やそうか」


 まずシグルズとヴェロニカは高度を上げた。そしてシグルズは頭の上に巨大な火球を作った。ダキア兵達は流石に気づいたが、魔導弩でもシグルズには届かない。


「こいつで終わりだ」


 そしてシグルズは火球を落とした。巨大な火球はダキア軍の小部隊を丸々呑み込み、付近の草木や魔導弩砲ごと焼き払った。


 これでまず1か所、ダキア軍の罠を潰した。


 その後もシグルズとヴェロニカは敵を探し回り、合計して4か所の魔導弩砲陣地を破壊した。因みに魔導弩砲を燃やした後はちゃんと消火をしたから、火事になる心配はない。


「これで全部ですかね……」

「それは難しい問題だね……」


 魔導探知機が使えない以上、もう敵が存在しないと断定するのは不可能だ。


 とは言えかなりの領域を探し回り、それなりの弩砲を破壊した以上、これ以上の弩砲がある公算は低いだろう。


「――分かりました。では撤退しますか?」

「そうだね。第88師団に戻ろう……」


 作戦は順調なはずなのに、シグルズは浮かない顔をしていた。


「ええと……どうしました?」

「ああ、いや、敵の反撃がほとんどなかったのが不気味でね……」

「確かに……」


 その場にいた魔導兵こそ反撃してきたが、ダキアの本隊から援軍が飛んでくることはなかった。何門の弩砲を破壊しようと、ダキア軍が動くことはなかった。


「敵がやられたことに気づいていないとか……?」

「魔導通信機を持っていないとは考えにくいなあ……それに遠くからでも見えただろうし」


 シグルズは派手に火球を作っていた。それはダキアの司令部から見えていただろう。それでも動かないのは不気味だ。


「まあでも、戻るしかないか……」

「はい。戻りましょう」


 二人は第88師団の指揮装甲車に戻った。この間にオステルマン師団長も同じ仕事をやっており、反対側の弩砲も破壊し終えたようだ。下準備はこれで完了である。


「ローゼンベルク司令官閣下、こちらは敵の伏兵を排除し終えました」

『了解だ。他の部隊も準備を整えてる。……では、作戦を始めてくれ』

「はっ!」


 戦闘は静かに始まった。


 指揮装甲車は思いの外使い勝手がよく、師団長があえて最前線に立つこともないだろうとして、第88師団の要人は指揮装甲車に乗って指揮を執る。


「よし。機甲大隊、前進せよ!」


 50両の戦車、30両の装甲車を擁する戦車部隊は前進を開始する。当初の計画通り、敵の本隊は無視して左右から後ろに回り込む。


 敵との距離は1キロを切った。しかし敵に動きはない。


「やはり不気味だ……」

「師団長殿、怖気付いていても仕方がないぞ」


 オーレンドルフ幕僚長は言う。


「それもそうだな。全軍、全速力で敵の背後に回り込め!」


 ついに魚鱗の陣の横に入った。その時だった。


「シグルズ様、前方から急速に接近する魔導反応多数! 騎兵です!」


 ヴェロニカは敵が視界に入る前に探知し、急いでシグルズに伝えた。


「なるほど。騎兵ならば懐に潜り込めると踏んだのか……」

「どうする、師団長殿?」

「決まっている。来るなら迎え撃つまで。主砲装填して待機!」


 煌びやかな鎧を身に纏い、装甲車並の速さで突撃してくるおよそ千の騎兵。視界に入ればすぐにその影は大きくなってきた。


 因みにその様子は、指揮装甲車の天井に取り付けてある望遠鏡で観測している。


「主砲の射程に入りました!」

「よし。撃てっ!」


 前衛を固める戦車が榴弾を斉射。騎兵は爆発の衝撃で次々と馬上から叩き落とされたが、怯む様子はない。


「第二部隊、撃てっ!」


 今度は中衛を務める戦車からの斉射。命中率も効果も上々であるが、敵を撃退するには至らず。


「一人でも戦車隊に殴り込めればいいとでも……?」


 最近はダキアもヴェステンラントも人的損害というものを顧みなくっている。まったくもってロクでもない連中だ。


「やはり、最後に勝敗を決するのは銃弾のようだな」

「ああ。全装甲車、戦闘準備!」


 榴弾は敵を粗方削り取ることは出来るが、鼠一匹逃さないという類のことは苦手だ。


 最後に敵を殲滅するのは機関銃なのである。戦車は同軸機銃を、装甲車は窓から小銃と機関銃を突き出し備えた。

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