装甲列車防衛戦Ⅲ

 遠い目で空の惨状を眺めているシグルズとクリスティーナ所長を横目に、ライラ所長はと言うと――


「うーん……燃やすのもあんまりか……やっぱり爆発かな……」


 どこからどう見ても戦っているという感じではなく、第一造兵廠で新兵器に実験をしている時と何も変わらない声音、表情で独り言を呟いていた。


 この虐殺も彼女にとっては実験であるらしい。実物の魔導兵を前に様々な構想を試しているだけなのである。


「これが邪悪ってやつね……」

「そんなこと本人に言わないですよね……」


 帝国には殺し合いを楽しんでいる戦闘狂が何人かいるが、それらは皆殺し合いであるということをちゃんと認識しているし、人を殺すこと自体が楽しいような異常者ではない。


 しかしライラ所長は何というか、人間の命というものを認識していないようだ。そこで生きて戦っている魔女たちを実験場の的と同じように見ている。


「まあ……勝ててるからいいんじゃないでしょうか」

「そうね。お姫様には頑張ってもらいましょう」


 まあともかく、空の戦闘については特に問題なさそうである。


 ○


 その頃、車内にいるゲルマニア軍の貴重な魔導士たちは、装甲列車に張り付いた敵兵の掃討を行っていた。


「おっ。そこにいるぞ」


 魔導探知機がある場所で異常な反応を示した。すぐ装甲を隔てた先に魔導兵がいるという証拠である。


「了解。じゃ、撃つぞ」

「「はっ」」


 4人ほどの兵士が機関銃に向かって機関短銃を構えた。機関銃を粉々にするのは勿体ないが、このまま敵を放置する訳にはいかない。


「う――っ!?」


 だがその瞬間、列車の装甲が崩れ落ちた。機関銃は脱落し、冷たい外気が流れ込み、光が差し込んだ。


「かかれっ!」

「「「おう!!!」」」


 その先にいたのは数十名のダキア兵。隊長の命令と共に装甲列車の中に雪崩れ込んできた。


「撃てっ! 中に入れるな!」


 周囲にいた兵士はそれを迎え撃とうとした。しかし、あまりにも突然の出来事でその手元に機関短銃はなく、持っているのは車内での戦闘には不利な小銃だけであった。


「こっちに来るな!」

「殺せ! 残らず殺せ!」


 機関短銃を持っていた5人の兵士は一瞬で斬殺され、他の兵士も小銃で迎撃を試みたが、混乱した車内で銃弾を命中させることすら出来ず、あっという間に殲滅された。


「敵兵に生存者はおりません!」


 ダキアの魔導兵が、その隊長に報告した。


「よし。敵の司令官は先頭の大砲を積んだ車両にいる筈だ。このままこの要塞を攻め落とすぞ!」

「「おう!!」」


 鉄で出来た難攻不落の要塞も、その中身は脆弱そのもの。ダキア兵は先頭車両を目指して進撃を始めた。


 ○


「何!? そんな馬鹿な!」


 装甲が破られ敵が侵入したという事実を、オーレンドルフ幕僚長は初め、なかなか認めることが出来なかった。


「し、しかし本当です! 敵は既に7号車を制圧! こちらに迫っております!」

「――分かった! 手隙の者は全て7号車に向かえ! 敵を迎え撃つ!」


 しかし車外の敵との戦闘は続いており、動かせる兵力は多くはなかった。動員出来たのは100人ほど。これで敵を迎え撃つ。


「奴らか……」


 6号車も既に落ちており、ダキア兵は次の5号車に向かおうとしていた。オーレンドルフ幕僚長は5と6号車の連結部から敵の様子を伺った。


「ど、どうします?」

「ここで敵を迎撃し、これ以上の侵攻を許さない。それしかないだろう」

「は、はい」


 地球の列車と同じく車両と車両の連結部には扉があり、かつかなり狭くなっている。防衛線を張るには絶好の環境だ。


 オーレンドルフ幕僚長は兵士たちを扉のすぐ後ろに並べさせ、機関短銃を6号車に向けさせた。また全員をしゃがませて、敵からはこちらの姿が見えないようにした。


「さて、大したことをしてくれたお返しだ」

「来ます!」


 魔導兵の足音が響く。そして扉が強引に開かれた。


「撃てっ!!」

「何!?」


 先頭の兵士は予想だにしない兵士に驚愕して動きを止めた。そして次の瞬間には50丁ほどの機関短銃からの集中砲火を受け、一瞬で魔導装甲を砕かれ死んだ。


「突っ込め!」


 後ろから敵の隊長の声が聞こえた。そして前の死体をものともせず、何人かの兵士が5号車に突入してきた。


 しかし狭い連結部から一斉に入ることは出来ず、魔導装甲がかさばるのもあって1人ずつしか通過できない。


「撃ち続けろ! 一人も通すな!」


 1人ずつ来るというのなら何も問題はない。これほどの数の機関短銃で撃てば魔導装甲などないようなもの。


 弾倉を撃ち尽くせば次の兵士が前に出て攻撃を続ける。そうして敵は5号車に足を踏み入れることすら出来なかった。


「敵が来なくなりましたね……」

「流石に諦めたか」

「これからどうします?」

「決まっているだろう。7、6号車を奪還する。総員、まだ終わってはないぞ!」

「「「おう!!!」」」


 敵がこれ以上来ることはなくなったとは言え、ダキア兵はまだ後ろで跋扈している。これは直ちに殲滅しなければならない。


「しかし……敵もこの先で待ち受けているのではないでしょうか……」

「そうだな……」


 敵もオーレンドルフ幕僚長と同じことをするかもしれない。そうなるとこちらから反撃に出るのも困難だ。

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