装甲列車防衛戦
やがてダキアの魔導兵およそ2,000は装甲列車を大きく囲い込んだ。絶対的な人数は少ないだけに、かなりスカスカの陣形である。
「この距離だと機関銃弾でも届かないかもですね……」
「そうなのか?」
「え、ええ」
実のところオーレンドルフ幕僚長は塹壕戦の経験があまりない。銃を使う経験も、主に至近距離での戦闘である。故に射程ギリギリでの戦闘というものには不慣れであった。
「しかし……となると、奴らは我が軍の機関銃の射程を知っているのか?」
「ヴェステンラントから情報提供を受けたのでは……」
「――それもそうだな」
ヴェステンラントとダキアの連携は想定以上に強力だ。ヴェステンラントが得た戦訓はほぼダキアにも受け継がれていると考えた方がいい。
「さて、どうしようか」
ダキア軍は装甲列車を囲うだけ囲って沈黙した。またもや戦場は沈黙した訳である。
「ふむ……ちょっと撃ってみるか……」
「撃ってみちゃいます……?」
「ああ。撃ってみよう。全軍、攻撃用意!」
最後の安全装置を解除し、全軍が引き金を引けば弾丸を弾丸を放てる状態になった。
「撃てっ!!」
小銃隊が斉射を仕掛け、機関銃隊はその間隙を埋めて銃弾をばらまく。特に装甲列車に固定された機関銃の狙いは正確でブレがなく、かつ給弾は自動で行われる優れものである。
かくして全力の銃撃を行った訳だが――
「やはり、効いてはいないようだな」
「全く動揺しませんね……」
「面倒な……」
数十キロ先にも響き渡る銃声を向けられながら仁王立ちしているなど、並大抵の部隊がやれることではない。ダキア軍の成長は驚くべきものだった。
「このままでは弾丸の無駄な気がしますが……」
「そうだな……全軍、撃ち方――」
「幕僚長殿! 敵が来ます!」
「何!?」
その時、突如としてダキア軍は動き出した。
一切の躊躇のない、全速力の突撃である。騎兵隊のみで構成された敵の足は速く、すぐさま距離を詰めてきた。
「撃て! 迎え撃て! 一人たりとも装甲車に近づけるな!」
既に射撃を行っていたゲルマニアにとってはそのまま射撃を継続するだけである。装甲列車からの濃密な火力を浴びて、ダキアの魔導兵は次々と散っていった。
が、敵はそれも前提に突っ込んできたのだろう。死者を厭う気は全くないらしい。
「奴ら……正気でこんな作戦を立てるか……」
口では敵を殺し尽くせといいつつも、オーレンドルフ幕僚長はそこまで非情ではなかった。寧ろ敵に憐れみを覚えてすらいたのである。
「敵が勝手に死んでくれるのですからいいことなのでは……」
「……まあ、そうだな。これは戦争だ。敵兵の心配などしている暇はない、な」
「? はい、殲滅しましょう」
――この子は色々と大丈夫なのだろうか……
オーレンドルフ幕僚長はヴェロニカのが時折見せる残虐さを心配していた。
――まあいい。今はそれどころじゃないな。
そんな話、戦闘が終わればいつでも出来る。今は目の前の戦争に集中すべきだ。
「幕僚長殿! 敵の勢い激しく、止められません!」
「クッ……いかれた連中め」
既に半分は死んだ。一般に言って全滅と判断される損害である。が、千にも上る死体を打ち捨ててもなお、彼らは突撃を続ける。
「ど、どうします?」
「全軍機関短銃を用意せよ! 至近距離まで近づかれた場合、それで応戦する!」
ゲルマニアの最新鋭の部隊だけに、全員分の機関短銃も配備されている。いざとなれば機関短銃で応戦する構えだ。
「ここまで来たか……機関短銃で撃ち殺せ!」
「「「おう!!!」」」
視界を得るためののぞき窓から強引に機関短銃の銃口を出し、めったやたらに乱射した。元々射撃用の窓ではないだけに狙いは定めにくく、大体の狙いを定めたら弾丸をばらまくという感じであった。
「至近距離で応戦の手段がないのは、問題だな」
「確かに……近寄られてはこちらから見ることすら出来ません」
列車に体がくっつくほどに接近されれば、車内からその敵を確認することは不可能となる。列車の窓は案外高くに設置されているのだ。
「そうだな……って、マズいぞ!」
「ど、どうしました……?」
「ぐああっ――!」
その時、目の前で機関銃を構えていた兵士の背中から剣先が生えた。血と髄と肉で汚れた剣である。
「え……?」
「う、うああ!」
安全だと思い込んでいた装甲列車の中で兵士が刺し殺されたのは、少なくない衝撃をゲルマニア兵に与えた。
「落ち着け! 外に敵兵が張り付いている、ただそれだけだ!」
「で、ですが、どうすれば!?」
「考えてる! 少し待て!」
オーレンドルフ幕僚長が全力で思考するその間にも、幾人かの兵士が刺し殺された。機関銃を貫いて車内に剣を到達させたのだ。
「総員、機関銃から離れろ! 装甲列車の弱点だ!」
「は、はっ!」
面白いくらいに一瞬で兵士たちは機関銃を放棄した。そうしていると機関銃が貫かれ、剣先が姿を見せた。
「こ、これが……」
「やはりな。機関銃そのものに防弾性能がないのを見破られたか……とは言え、これ以上好きにはさせん」
「そ、そうですね……」
機関銃を捨てることで直近の危機は回避できた。が、それで済むような簡単な話ではない。
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