降伏

 ACU2310 3/24 マジャパイト王国 アチェ島 王都マジャパイト


「は、晴虎殿、わざわざのお越し、感謝する」

「このような時にこそ総大将が話し合うべきでしょう、陛下」


 王都マジャパイトは既に包囲下にある。晴虎は数名の護衛のみを連れ、マジャパイトの王宮を訪れていた。その中には朔や曉も含まれている。


「そ、それで、今度はどのような用件で来られたのかな?」

「あえて申し上げるまでもありますまい。直ちに我が軍門に降られよ。さすればお命までは取りませぬ」


 少し前までの晴虎はジャヤナガラ国王を本気で死罪にするつもりであったが、彼の重臣たちの活躍や、彼自身が合州国に利用されていたのを見て、対応を少しだけ甘いものにすることを決めていた。


「命までは取らないが――では何を取るつもりだ?」

「陛下には速やかに隠居して頂きます。そして次の国王は本庄越中守とさせて頂く」


 本庄越中守虎繁は上杉家の重臣だ。今の時点で広大な所領を有する重臣に新たな領地の経営を任せるのは現実的ではない為、晴虎が直臣の中から適当な人材として選び出した者である。


「し、しかし、いくらなんでもいきなり王家の血筋を挿げ替えるというのは……」

「では彼の者を陛下の養子として頂きましょう。それでよろしいですか?」

「養子、か……」


 それは多分に大八洲的な考え方である。大八洲では大名家が他家の養子を取ることはそう珍しくないが、諸外国では血統の方が格段に重視される。考え方の違いというものであろう。


「受け入れぬと仰るのならば、お命の保証は出来かねます」

「ぬ……」


 晴虎の眼光が鋭さを増す。その殺気にジャヤナガラ国王は圧倒されていた。


「どうしても我が国を乗っ取るつもりか」

「乗っ取るなどという気は毛頭ございませぬ。これはマジャパイトの臣民を持っての行いに過ぎませぬ。お分かりですか?」

「…………」


 形式的には本人の了解を得るものの、晴虎にその決定権を国王に譲る気はなかった。もしも断るというのならこのままマジャパイトを焼き尽くすまでである。


「そ、そこまで言うのなら……」

「受け入れて下さりますか」

「いや……受け入れなどせんぞ! 者どもかかれ!」


 国王が叫ぶと、謁見の間の四方八方よりマジャパイトの兵士が飛び出してきた。重装備の魔導兵である。今や晴虎は完全に包囲された。


「これはこれは。どういうおつもりか?」

「み、見れば分かるだろう。この場でお前を殺せば、わ、我が国は救われるのだ!」


 ジャヤナガラ国王は血走った眼をして宣言した。


 国王は半ば狂気に憑りつかれていた。敗戦の衝撃と有能な家臣を殆ど失ったことにより、完全に暴走していたのだ。


「さ、流石の軍神とて、たったの5人では200人には勝てまい」

「それはどうでしょうな。何事も試してみなければ分かりませぬ」


 晴虎は平然と腰かけ、刀を抜く素振りすら見せない。


「口の減らない奴め……殺せ!」

「「「おう!!!」」」


 襲撃者は一斉に晴虎目指して走り出した。大八洲の最高指導者を殺せる機会とあって、彼らの目も血走っている。晴虎を殺した者には相当な褒章でも用意されているのだろう。


「朔、曉、頼んだぞ」

「勿論にございます」

「ええ。承知しましたわ」


 朔は覚悟を決めたような顔をして、曉は見た者を凍えさせるような笑みを浮かべながら、背中合わせに立ち上がった。


「これも我らの役目でございます故……」


 朔は自分の目の前に百本ばかりの刀を作り出した。


「ひ、怯むな! かかれ!」

「お命、頂戴致します」


 朔が念じると刀はそれぞれが一人一人の兵士を狙って射出された。それらは魔導装甲などを簡単に突き破り、たちまち百体の死体の絨毯が出来上がった。


 曉の方も同様である。僅かな抵抗も許さないままにおよそ二百の兵士は虐殺された。死体が晴虎らを囲んで綺麗な円を描いていた。


「う、嘘だろ…………」


 ジャヤナガラ国王はすっかり茫然として立ち尽くしていた。そんな彼に晴虎は、あくまで泰然として話しかける。


「我は陛下を赦し生かそうと思っておりました。されど、陛下がこのような蛮行に及ばれたからには、我も容赦は出来ませぬ」

「な、何をする気だ……?」

「決まっておりましょう」


 晴虎は静かに立ち上がって刀を抜いた。そしてジャヤナガラ国王の元に歩み寄る。


「こ、殺すのか!?」


 国王は震え上がって声は裏返っていた。


「左様。ここまでされたからには、切腹でも許せませぬ」

「や、止めろ!」

「曉」

「はい、晴虎様」


 まず玉座が浮き上がって国王は床に叩きつけられた。次に国王の体の周りに縄が現れ、国王を晴虎に向かって跪く格好に拘束した。


 無様な格好になった国王の横に晴虎は立った。


「最期に言い残すことは?」

「そ、そんなものあるか! 放せ!」

「愚かな……」


 晴虎は刀を振り上げた。


「止めろ! 止めてくれ! たの――」


 一閃。


 ぼとっと鈍いとがして首が落ち、切り口からは滝のように血が流れだした。


「どこまでも愚かな男であったな……」


 死体の処理などは他の者に任せ、晴虎の一行は王宮を立ち去った。


 その後、マジャパイト国王には予定通り本庄越中守が任じられ、マジャパイト王国は完全に晴虎の軍門に降った。ヴェステンラントは約束を守り、マジャパイト王国の領域内では何の干渉もしてこなかった。

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