真珠湾攻撃

 ACU2309 8/19 サワイキ群島 真珠湾近郊


「ついに、彼らは来てくれたのですね……」


 真珠湾を臨む森の中、大八洲艦隊からの通信を受け、小太りの女性はしみじみと呟いた。


「はい。そして陛下が、再び我らの女王となるのです」

「その時に向けて、希望を繋がなければ……」


 彼女の名はリリウオカラニ。サワイキ群島をかつて治めていたサワイキ王国のかつての女王である。


 彼女の王国は既に滅ぼされ、僅かな王党派の人々が抵抗活動を行っていた。そして、それが報われる日が、来たのかもしれない。


「作戦を決行します。大八洲に合図を」

「承知しました」


 ○


 ACU2309 サワイキ群島 真珠湾


「……あれは! 敵襲! 敵襲だ!」


 ヴェステンラントの真珠湾基地。まず大八洲の大艦隊に気付いたのは見張塔の兵士。


「すぐに司令部に伝えろ!」

「了解! しれ――な、何だ、あれは……」

「どうした!?」

「み、見ろ! あれを……」


 通信手の兵士が指差した先を見る。


「う、嘘だろ……」

「ああ。司令部が……」


 頼るべき司令部は大炎上し、建物がばらばらと崩れていく最中だった。他にも軍港内の至る場所から火の手が上がっている。耳をすませば兵士たちのおめき声が聞こえてきた。


「伏兵でも潜ませてたのか!?」

「知るか!」

「――通信は!?」

「ダメだ! 繋がらない!」

「クソッ! だったらせめて……!」


 見張塔に設置されている鐘を鳴らす。極めて原始的な手段だが、間違いなく全体に危機を伝えられる手段だ。乱鐘の音が島全体に響き渡る。


 だが、港内は既に大混乱に陥っており、それが功を奏すことはなかった。


 ○


 ACU2309 8/19 サワイキ群島 真珠湾


「リリウオカラニ殿の作戦は上手くいったようですね」


 あちらこちらから煙が立ち上る真珠湾軍港。艦隊は何ら抵抗を受けずに距離を詰めている。


「それでは、我らも参ります! 続きなさい!」

「「「おう!!」」


 朔が自ら率いるおよそ千の飛鳥衆――飛行の鬼道を使いこなす者たちが、空を黒く染めながら軍港に迫る。真上に来てもさしたる抵抗はなかった。


「船は燃やすか沈めなさい! 徹底的にヴェステンラント軍の力を削ぐのです!」


 軍港に停泊している数十のヴェステンラントのガレオン船。それにありったけの破壊の鬼道をしかける。ガレオン船は鹵獲しても使えない以上、いくら沈めたところで問題はない。


 大半の船はあっという間に燃え上がり、更には追い打ちの攻撃によって船体が破壊され、ずぶずぶと海中に沈んでいく。水の鬼道の使える者は、水流を操作することによって沈没を加速させていく。


「上陸部隊、接岸します!」

「空から支援します! 続きなさい!」


 ○


 ACU2309 8/19 サワイキ群島 真珠湾


「皆の者、俺に続け!」

「兄者! 気を付けろよ!」


 伊達陸奥守晴政は、自らが先頭に立って軍港に上陸した。その後ろを成政やその他の家臣が慌てて追いかける。


 が、晴政は早速足止めを食らうこととなった。


「そいつが指揮官だ!」

「おっと、俺の顔を知っている奴がいたか」


 千にも満たないヴェステンラントの守備隊であったが、よく考えられた陣地に陣取り、その弩が一斉に晴政を狙うとなると、これは問題だ。


「一斉に撃て!」

「そんなものじゃ、この俺は殺せぬよ」


 晴政は刀を抜き――


「狙いが分かりやす過ぎるのだ」


 飛来する矢を斬り落とした。更には上下左右に刀を振り、いとも簡単に矢を次々防いでいく。しかし――


「っ、それはっ――!」


 僅かに刀捌きが間に合わず、彼の胴に矢が迫る。


「晴政様、お下がりください」


 その時、晴政の横から刀が現れ、矢を叩き落した。


「助かったぞ。源十郎」

「それよりも、まずはお下がりください」


 この堅物な男は片倉源十郞重綱。晴政が幼い頃より彼に仕える、言わば彼の心の友だ。また色々とやらかす彼のお目付けでもある。


「下がるのか? その必要はないだろう。ほら見ろ」


 次の瞬間、ヴェステンラント軍の陣地に数万の矢が降り注いだ。ヴェステンラント兵は体中を矢で貫かれ、一瞬にして陣は壊滅した。


「成政様も遊んでいらしたようですね」

「そのようだな」


 成政は晴政が危なくなってところを見計らって矢をうちかけた。即ち、暫くは晴政を静観していたということになる。彼なりの信頼とでも言うべきだろうか。


「皆の者! このまま進み、ヴェステンラント軍の施設を壊滅せよ!」

「「「おう!!」」」


 数万の騎兵、歩兵が奥へ奥へと前進していく。上陸部隊も次々と火を放ち、真珠湾軍港は更なる炎に包まれていくのだった。


 ○


 ACU2309 8/19 サワイキ群島 真珠湾


「あなたは、朔様で合っていますか?」

「はい。長尾左大將朔と申します。女王陛下」


 軍港はがれきの山と化した。朔とリリウオカラニ女王は会合を持っていた。


「あなた方には感謝してもしきれません。我が国を救うため、遠路このようなところまでの御出兵、幸甚です」

「全て我が君、晴虎様の思い描かれたことでございます。されど、我らがじきに本国へ引かねばならぬことも、ご承知おき下さい」


 このままサワイキ群島に残り、王国を合州国から救うことは出来ない。今回はあくまでヴェステンラントの艦隊戦力を削る為の作戦だ。


「分かっておりますとも。ですが、あなた方が来てくれたお陰で、我々はまだ希望を持ち続けることが出来ます。あなた方が真にヴェステンラントに打ち勝ち、東亞を開放する出来ること。私は信じております」

「そのご期待、決して裏切りませぬ。ですからどうか、お待ちください」


 彼女らをここに置き去りにすることは、朔は心苦しかった。だが仕方がない。再開の約束を結び、彼女らは戦場に戻った。

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