機関銃

 結論から言うと、シグルズが軟禁されていた時間は12時間にも満たなかった。


 それはつまり、徹夜での作業をやらされたということである。


 所長はシグルズに主機を作らせまくり、それを様々な角度からぶった斬りながら図面を作り上げた。


「やっと出来たー。そろそろ寝る時間かなあ」

「いや、もう朝ですが」

「へえ?」


 間の抜けた声。彼女にとっては一晩も1、2時間程度にしか感じなかったらしい。


 今後はこの図面を参考に、第一造兵廠は技術を習得していくことだろう。そしてその後は戦車を造ってもらう予定である。


 一先ずそれは置いておいて、シグルズにはまだやるべきことがある。頭痛と吐き気に襲われながらも、シグルズは言葉を紡ぐ。


「車以外にも、提案があります」

「なになに? すごい気になる」


 興味津々である。やはり彼女は話が分かる人だ。


「まあ、見てもらった方が早いと思うので、どうぞ」


 今度両腕に抱えたのは、この世界にはまだ存在しない鎖閂式(ボルトアクション式)の小銃Gew98、そしてその中の実包である。


「なんか凄そう。見せて」

「はい」


 そうして差し出すと、所長は例の如く小銃を真っ二つに切断した。


 もっとも、銃身の大部分は既存の兵器とほぼ同じである。重要なのはその根元だ。


 所長は一目でそれを分かって、不要な部分を切り捨てていた。そういうところは尊敬に値する。


「なるほど。つまりは、後装式ってこと?」

「え、はい。そうですが……」


 ――どうしてその言葉を知っているんだ?


 この世界には後装式――銃の後ろから弾を込めるという概念はまだない筈だ。なのに所長は平然とその言葉を使っていた。


 これはおかしくはなかろうか。


「何で私が後装式って言葉を知ってるのかって思ってる?」

「まあ、はい」

「まあ、私はどっちかというと君が後装式を考えついたのにびっくりだけど――実は私たち、後装式の研究も進めてるんだよね。まだ部外秘だけど」

「流石ですね……」


 となれば話は早い。


 恐らく、研究の現状としては、後装式の小銃を作りたいが上手い機構を作れないといった感じだろう。


 なれば、シグルズが鎖閂式を授ければそれで済む。


「それと、一緒についてきたのは一体型弾薬? いい出来だね」

「はい。僕は実包と呼びますが」


 実包は、火薬と弾丸と雷管が一纏めになったものである。後装式には必須だ。


 そしてどうやらこの様子から察するに、こちらの研究は進んでいるようだ。


「実包。いいね。今度からそう呼ぶことにするよ」

「あ、どうも」

「で、早速だけど、撃たせてくれる?」

「勿論です」


 最初のはライラ所長にぶった斬られたのでもう一丁生成し、彼女に渡した。


 まず使い方を教える。これは大して難しくはない。


「ええと、まずはこれを引いて……回して回して……押す。で、バン」


 華奢な体だというのに、反動に揺られる様子は一切ない。恐らくは魔法で筋力を弄っている。


 手にエスペラニウムは持っていないから、服のどこかにでも仕込んでいるのだろう。となると、やはり彼女は相当に手練れの魔女なのだ。


「で、もう一回同じことをして、バン」

「いい調子です」


 1発目から2発目までの間隔はおよそ5秒。この時点で帝国の現在の主力小銃の3倍の早さだ。


 しかも初心者でこれなのだから、訓練すれば更に早まるだろう。


「中には5発入れられる?」

「はい。そうなります」

「そうか……いずれにせよ、うちの今の銃より圧倒的に強力。これも設計図起こすから、手伝って」

「はい。了解です」


 こうなることは分かっていた。覚悟はもう決まっている。


 しかし、かかった時間は僅かに2時間ほどであった。


「もう、終わったんですか?」

「うん。完璧。こっちは、作ろうと思えば今すぐにでも量産出来ると思うよ。ただ、安全装置とかは削るかもしれないけど」

「それはどうぞ、ご自由に」


 シグルズがパクってきたドイツの小銃には、安全装置があり過ぎるという特徴がある。これは多少減らしてもよいだろう。


「それと――」


 もう一つ、作ってもらいたいものがある。


「ま、まだあるの?」


 ライラ所長も若干引き気味であった。


「はい。今度はこれです」


 次に召喚したのは、最初期の重機関銃MG08である。無論、製造元はドイツだ。


 シグルズとしてはこの短い見た目が好きではないのだが、まずは最初期の機関銃を提示しないといけず、選択肢はこれしかなかった。


「これ、銃?」

「はい。機関銃です」

「機関銃……撃ってみて、いい?」

「どうぞ」


 所長はしゃがみこんで、引き金を引いた。


「うおー! 何これ! やっば!」


 機関銃である。最早一発一発の銃声を聞き分けることは不可能。毎秒10発近くの弾丸が爆音と共に発射される。


 生身の人間ならば何百人と来たところで簡単に薙ぎ払えるだろう。


「でも、こんな大量の弾丸を常に供給するのは厳しい」

「はい。ですから、兵士の基本的な装備はさっきの小銃にして、たまにこれを持たせるという感じで」

「そうだね。まあ、使うとしたら防衛戦だし、補給はそこまで問題にならないか」

「ああ……そうですね」


 ポドラス会戦のようなひたすら引きこもるだけで勝てる戦いを除き、会戦で機関銃を使うのは現実的ではない。


「では、まずはさっきの小銃の量産をお願いします」

「ああ、そういうのは第二造兵廠の担当だから。そっちと交渉してきて」

「え、僕がですか?」

「まあ、私も口添えくらいはするよ。でもその前に、この機関銃とかいうのも設計図起こすから。よろしく」


 今度は半日かかった。もっとも、未知の技術を半日だけで把握出来る方がおかしいのだが。


「疲れた…………」


 しかしシグルズとしては24時間以上寝ていない訳で、このまま第二造兵廠に行く気にはなれなかった。

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