おうち時間 わたし時間

ちょこっと

第1話

 不変の変化。


 決して変わらないもの。変わっていくもの。変わっていくことこそが、決して変えようのないもの。それが、時間ではないだろうか。


 お金持ちだろーが、貧乏人だろーが、健康だろーが、病人だろーが、この瞬間流れる一秒は等しく変えられない。


 そりゃあ、お金があれば、時間短縮や効率良く生きる事だって出来る。だから時間は不変の変化ではあっても、平等では無い。


 私が過ごす一日と、金持ちが過ごす一日と、そこに時間の不変はあっても平等は無いのだ。


 そう、お金があれば日常の雑多な事を省いたり、人に任せたり、もしくはより効率よく学べたりする。


 なんて事だ。けれど一秒の流れは変わらない。


 そして、それは、人でも物でも、変わらない。


 家。


 木造、軽量鉄骨、鉄骨。建築方法は様々あるが、中でも木造が最も普及しているのではないだろうか。

 さすがは地震大国日本といった感じである。木造とはいえ、震度6でも余裕で耐える。


 されど木造。木である。


 木。


 木は、水に濡れるとどうなるか。


 少しならば、よく乾かして問題無く使えるだろう。


 問題は、大量に濡れた時。更には、濡れたまま乾きにくい高気密住宅の場合である。


 現代は殆どの場合が、高気密住宅ではなかろうか。


 そう、木でありながら高気密。木は呼吸をする。多少濡れても、風を通せば乾いてくれる。

 湿度の高い日本の夏において、結露の多い日本の冬において、木造の高気密住宅の今は、どうなっているのか。


 人の時間が過ぎるのと同様に、物の時間も過ぎていく。


 雨漏りで濡れたまま過ゆく時間によって、屋根は多大なダメージを負っていた。更に、見えない中でカビているかもしれない。

 いや、しているだろう。なんてこったい。中古住宅で購入したとはいえ、住んで五年も経っていない。あんまりじゃあないか。

 このままでは、数年と経たずに建て替えか? それとも、屋根の葺き替えで済むのか? わお、葺き替え費用って、ちょっとググっただけでも凄い価格。




 そうして、私は大変困っていた。




「ねえ、雨漏りしてるの、あなたちょっと調べてくれない? 私は家事育児と地域やPTAの事でホント手一杯なの。うちは両親両家共に遠方だし、全員まだ現役で働いてるし、とかくワンオペ育児でしかも地元じゃないでしょう。本当、もうこれ以上は無理。あなたが対応して」


 リモートワークだと、家でだらけた格好して寝そべる夫に声をかける。YouTube流しながら、仕事のメールをポチポチ見ている夫は、どう見ても遊び半分仕事半分に見える。

 いや、実際には仕事をしているのだ。例え、パジャマのまま、始業時間五分前まで惰眠を貪り、起きてすぐにPC起動してメールチェックをしていても。やる事は確かにやっている。仕事はしているのだ。


 こちとら、どんな時でも毎日365日朝六時に起きて、子どもの世話と送り出し、登校の当番やらゴミ出しは時間が決まっている。

 どんな時でも、どんな事情があっても、それは変わらない。

 子どもが母親に配慮して今は熱を出すのやめとこうとか、夜泣きも今日は控えとくねとか、お母さん疲れてるからご機嫌で予定通り動くよだなんて、そんな夢物語は夢の中でしかない。少なくとも、私にとっては。


 子どもの片方が熱を出せば、小児科は大体治るまで何度か通院してくれと言われる。2~3日に一回は通院で、治ったら完治確認。更に、少し高熱が出たりすると毎日通院してくれと言われる。

 ……大人しく寝ていられないで、余計治りが遅くなる気もするが、致し方ない。お医者様の仰る通りに通うのみだ。暴れる下の子を連れて。

 そう、病気中はご機嫌は急降下。更には片方に構いがちになって、もう片方も急降下。ひぃ。


 そうして、大体片方が治りかけか治った頃に、もう片方へと移るのだ。もしくは、同時。通常タスクに加えて、看病versionでは、夜勤日勤を一人でこなす事となる。病気の時は、子どもの夜泣き倍増もしくは夜程熱が上がるから看病で忙しい。

 昼は昼で、少しでも楽になると途端にはしゃぐ子どもをなんとか寝かせようと奮闘し、気付けばご飯の時間。

 更には終わったと思ったら、また次のご飯の用意の時間。おっと、お薬も忘れちゃいけない。無論、二人いるならばたとえ何日徹夜の看病が続いていようとも、決して間違えてはいけない。同じ症状で似た薬でも、量が違う。


 そんな一週間徹夜もしくは一日二時間睡眠といった状況も、よくある事だ。ワンオペ育児なら。


 夫? 言ってもやらない。出来ない。心無い言葉が返ってくるだけ。

 言うだけ時間が勿体ないと諦めるのに、そう時間はかからなかった。時間がないのよ。無駄な時間はこれ以上使えないの。


 せめて、家の雨漏りくらい、対応してはくれないか? リモートワークで隙間時間の都合は付けやすいだろう。通勤時間が全て自由時間となって、更には昼食まで要求される。負担は増えるばかり。


 わたしの時間だけ、どんどん減っていくばかりだ。そう、疲れ切っている私に、やはり夫は無理としか言わない。雨漏りなんか、雨が上がれば窓開けてればいいと、勝手な事を言ってくれる。


 そうですか。この家の寿命が、この家で過ごせる時間が、予定よりも大分短くなってしまいそうですが、それも致し方ないのですか。


 私の時間はもういっぱいいっぱい。これ以上無理なんです。一人目妊娠から、睡眠時間は一日三時間以上寝た事ないんです。それが年単位。私の命の時間を削ってると思うんですけど、そこんとこ、どうなんですかね? あなたがゲームしてる時間、だらけている時間、少しでも、私や家にかけてはくれませんかね。


 そう、言いたい事を言ってみた。不機嫌になった。あ、これダメですね。


 よし、熟年離婚だな。はぁ、ワンオペ育児や祖父母遠方な事もあって、仕事は一度やめざるをえなかった。子どもも病気をしやすく、とかく手がかかる子だ。とてもじゃないが仕事は出来なかった。何年もブランクが開いてしまっているが、何か仕事を本格的に探そう。私は前向きに人生設計をする。


 探しながら、家の事もなんとかするしかないか……なんともならないかもしれないけれど、私しかいないんだ。

 この家、まだほんの数年とはいえ子どもの育った家が、本来もったであろう寿命の前に尽きてしまうだなんて、そんなの悲しい。


 この家で過ごす時間。おうち時間は、子どもとの思い出でいっぱい。


 人生いろいろあるもんだ。

 人も家も、思いがけないトラブルはあるもんだ。


 だからって、諦めてちゃあなんにもならない。結局は自分でやるしかないんだな。


 ね、我が家。

 中古で、そこかしこにガタがきはじめている我が家。


 やんちゃ盛りが二匹、壁紙にやらかしたり。フローリングにやってくれたり。傷も思い出だと、凹みは思い出で一杯。……悲しくもあるけれど。


 ね、我が家。

 私もワンオペ無理して体にガタがきそうだわ。サプリ飲まなきゃ。私がサプリ飲むみたいにさ、おうちにも手入れしてやるからね。

 でもちょっと凄いお金かかりそうで、なかなかお金の都合をつけられないかもしれないけど。はぁ。屋根の修繕って、たっかいわぁ~。どうしよ。


 私の時間も、家の時間も、おんなじに流れていく。

 私の時間も、家の時間も、大切に長く過ごしたいね。

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