六畳間の世界

シュタ・カリーナ

ニートは変わらない、変えられない

 30歳独身童貞、職業は自宅警備員、つまりはニート。当然脛齧りの身である。


 彼のプロフィールはそれで十分だろう。そしてたったそれだけのプロフィールから分かるように彼はダメ人間だ。彼は働こうともせず、一日を寝るかゲームするかラノベを読むか飯を食うかで終える。

 典型的な“引きこもりニート”だ。

 真面目な人が見ればなんと不真面目で親不孝な男だ、と蔑むことだろう。

 彼自身も自分自身をダメ人間だと理解しているし変わらなければと何度も思った。しかし、変えられなかった。親はそろそろ定年退職を控え収入がなくなる。来週から頑張ろう、来週から頑張ろう……そう思い続けて一年、二年と時が過ぎる。今更働くのは無理なのだろうかと思った。なにせ彼は太っている。髪や髭は生え散らかしている。体は週に一回しか洗っていない。不衛生だ、不真面目だ、無気力だ。

 彼の人生は闇に閉ざされていた。


「あ、くそっ……」


 あと少しのところで負けた。彼はコントローラーを放る。


「はぁ……」


 彼はディスプレイから目を離し部屋を見渡す。カーテンは閉じられ外界の光を断っている。電気は付けておらず昼間なのに暗い。部屋を僅かに照らしているのはディスプレイの光のみ。そしてぎゅうぎゅうに詰められた本棚と入りきらなかったラノベと漫画はタワーのように積まれ、布団はくちゃくちゃに、脱ぎ捨てられた服と洗濯された服はそこらへんの床に散乱し、六畳間の部屋は陰湿で鬱屈とした雰囲気に包まれていた。

 その六畳間の部屋は彼の全てだった。寝るのも、飯を食うのも、ゲームをするのも、ラノベを読むのも全てがここで完結する。偶にトイレには行くが、部屋を出るのはそれだけしかない。まあ部屋を出ると言っても部屋のある二階にもトイレはあるため部屋を出てたった数歩でトイレに着くが。

 ともかく彼の世界はそこだけだった。


晴久はるひさ〜、お昼ご飯置いとくわよ」

「あぁ」


 母が昼飯を持ってくる。彼は母が階段を降りるのを確認して、扉を開けて昼飯を闇に引き込む。チャーハンだった。パソコンを少しどかして昼飯を置き、チャーハンを掻き込み茶を飲み干す。

 彼は何年も引きこもりニートをやってきたが親にだけは八つ当たりをしないように気をつけていた。月に一回ぐらいはメモ越しにありがとうと伝えてもいる。それが彼の少しなりの申し訳なさから来るものだとは彼は気づいてはいないが。もしその気持ちに気づいたのなら彼は変われるのだろうか。

 彼は空になった皿を部屋の前に戻してT◯itterを開く。ニュースでは外出自粛だステイホームだと言っている。それに関しては彼はプロに任せろとばかりに引きこもり続ける自信を持っている。しばらくは就活はしなさそうだ。

 適当に呟いたり返信したりして面白いツ◯ートがないか探す。


(無◯転生、ねぇ)


 無職◯生のアニメがもう少しで始まるそうで話題に何度も上がっている。彼自身もこの作品の一読者であるし応援している。しかし彼は主人公には共感できていなかった。主人公は彼と同じ引きこもりニートだった。家を追い出され交通事故で死に異世界に転生して。そこはまだいい。問題は引きこもりニートだった男がそんな簡単に変われるのか、ということだ。彼は「主人公は引きこもりニートの皮を被った実は出来る奴」だと思っている。それもそうだろう。異世界に行ったぐらいで変われるならそもそもニートになっていない。そんなことで変われるなら彼はどこか遠くに引っ越しをして変わっている。


(本気で生きていく、か)


 しかし共感できないからといって嫌いというわけではない。努力をして生きることはすごい。なにせ彼はだらだらと生きている。今から頑張れば変われるだろうか。


(今はまだその時ではないな)


 今日もまた彼は六畳間の世界で生きる。

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