ツンデレ守護霊と甘々神様とおうちごはん

うめもも さくら

今日のごはんは何にしようか?

「ヤバい……完璧に太った」

 下に置かれた体重計がたたき出した数字を虚ろな目でみつめながら私は項垂うなだれた。

「そんな気にすることないでしょ?あんたの場合は 体重ひとつでなにか変わる見た目でもないし」

 ふと私の肩からのぞき込んだ青年は愛らしい顔立ちをしながら平気でひどい言葉を言い放つ。

このご時世じせい、性別や性格などの見た目、行動や言動にさわがれているというのに彼は一切いっさい気にしない。

 そしてもう片方の肩からもふわりと声をかけられる。

「身にまとっている着物の重さもあるでしょう?そんな気にすることはありませんよ」

 そう甘く優しい声でささやきかける青年は優雅ゆうがいで私に微笑ほほえみかける。

彼を形容けいようするならば美しすぎる、という言葉ひとつに限る。

清廉せいれんとした雰囲気ふんいきを身にまとい、少々古風な言い回しをするがそれも彼が言えば何ら違和感いわかんはない。

「二人には私の悩みはわからないでしょうよ!っていうか勝手に覗きこまないでよね!」

 私が怒れば二人はしゅんと肩を落とした。

「あんたは可愛いから気にすることないってなぐさめたかったんだ」

 青年は素直な人だ。

怒られたからではなく本心で言っているのはわかっている。

彼は少々?口が悪いだけで本当は優しいツンデレさんだと知っている。

まあ、冷たい時はツンデレ飛び越えてツンドラ過ぎて心が凍りつきそうな時もあるけども本当は優しい可愛い人だ。

「不快にさせましたか?すみません。でも片時かたときたりとも離れたくなくて……おそばにいるのはだめですか?」

甘い声と言葉で鼓膜こまくくすぐりながら心の底から申し訳なさそうに言われてしまえば許すほかない。

「ごめん、あたしも言い過ぎた。けど二人ともっ!体重重くなって悲しんでる人のそばで……ふわふわ浮くなっ!!」

子供の駄々だだのように怒る私を困ったように笑いながら見下ろしたのは私のツンデレな守護霊しゅごれい甘々あまあまな神様なのです。


「ねぇ、今日はハンバーグだよね?早く作ろうよ」

「太ったってなげいてる人に対して部屋に戻った瞬間しゅんかん第一声だいいっせいがそれっ!?」

「だっておなか減るじゃん」

幽霊ゆうれいはお腹減らないでしょ!?」

「幽霊じゃない!あんたの守護霊!」

「どっちでもいいけど結果食べるの私なんだからねっ!!結果太るわけで太ったのもあんたのせいじゃないのよ!!」

「まぁまぁ、食べないと体に悪いですから。生き物は食べないと生きていけないんですよ?」

 わかってるけど……とつぶやきながら不貞腐ふてくされる私をあやすように神様は私の頭をでた。

「食べる……けど……ヘルシーなものがいい」

 二人は優しく微笑ほほえんで私の手をひいてキッチンに向かった。


「ヘルシーということで今日のごはんは豆腐とうふハンバーグにします!」

 冷蔵庫からハンバーグの材料とお味噌汁みそしるに入れようとしていた豆腐もハンバーグの材料として出した。

二人は異論いろんはないらしくうれしそうにうなずいた。

泡立あわだなんて使うの?」

 ボールやフライがえしなどを用意している私を見て守護霊が不思議ふしぎそうに聞いてきた。

「うん。豆腐かき混ぜる時に使うから。スプーンでかき混ぜるより空気が入って美味おいしくなる気がするんだよね」

「あなたのその美味しくするために工夫をしまない姿勢しせい称賛しょうさんあたいしますね」

 神様に素直にめられて照れくさくなりながらボールに豆腐を入れて泡立て器でかき混ぜる。

そしてパン粉を入れて豆腐の水分を吸わせている間に玉ねぎをみじん切りにしておく。

「泣かないでよね」

「玉ねぎ切って泣くなんてベタなマネは私はしないよ。ちょっと可愛かわいくてあこがれるけどね」

「あんたは可愛いよ。ただあんたに泣かれたら俺がいやだから」

 今日はデレが多い日だ、喜んでいるのをバレないようにゆるむ顔に力を入れてニヤつきながら玉ねぎをみじん切りにしていた。

ちょっと泣きそうになったのは玉ねぎのせいか嬉しかったからかわからなかった。

すこし心を落ち着けてから豆腐とパン粉の入ったボールを手に取り、き肉と卵と塩コショウとコンソメ顆粒かりゅうを入れてかき混ぜる。

そこにみじん切りにした玉ねぎを入れてさらに混ぜたらタネの完成。

「フライパンに牛脂ぎゅうしを溶かしたいから溶けきったら火を止めたいから教えて」

「いいけど、牛脂なんて使うんだ?ヘルシーにしたいんじゃなかったの?」

「いいの。牛脂は無料だし美味しいから!」

「体を壊さない程度でしたら美味しいのが一番ですからね」

 太ったの俺のせいとか言われてたけど絶対違くない……?と納得なっとくいかない顔をしている守護霊を横目に私はタネを手に適量てきりょうとってぽんぽんとキャッチボールみたいに丸めてハンバーグの形を作っていく。

守護霊が牛脂が溶けきったことを教えてくれた頃、ちょうどよくこれから焼く真ん中のへこんだハンバーグが出来上がった。

フライパンにおいて強火で焼いて焼き目がついたらひっくり返してまた焼き目をつけて中火にしてふたをしてき。

「もうすぐ出来上がるよ」

 二人はワクワクとしたひとみでこちらを見ている。竹串たけぐし突付つついて透明とうめい肉汁にくじゅうあふれたらお皿にって出来上がり。

「出来たんだね!ほら、早く食べよう!」

「楽しみですね」

私は彼らに背中を押されるようにして食卓しょくたくに向かった。


「「「いただきまーす」」」

 私が食べると二人はおどろいたように口々に感想を言い合った。

「美味しいっ!全然豆腐が入ってるなんてわかんないね」

「本当に美味びみですね」

 そう、彼ら守護霊と神様は私が食べることで食べれる。

味や満腹感まんぷくかんを私と共有きょうゆうしている。

つまり彼らが食べたいと思ったら私が食べなくてはならない。

「やっぱり私が太ったのは二人のせいだ……」

 私は彼らとうまで、見えるまでは少食しょうしょくな方だったし食事はたんなる作業さぎょう多少たしょう食べなくても支障ししょうなかった。

彼らと出逢であってから、話すようになってからよく食べて食事が楽しくなって美味しいものが好きになった。

「何か言った?」

「何でもなーい!ほら、まだまだ食べるからね」

「本当に?嬉しいです」

「豆腐ハンバーグ最高!食べても罪悪感ざいあくかんなんてかんじないしね」

 守護霊と神様と食事なんて外では絶対出来ないから、私はおうちごはんが大好きだ。

気兼きがねないし好きなもの食べられるし、何より二人との大事で大好きな時間。

ずっとずっと大切な時間、絶対ぜったいくしたくないこのおうちごはん。

昨日も今日も明日も明後日あさっても続いていくとても当たり前でとても大切な時間。

頭の中で流れるのはいつかに聞いた優しい音楽。

「いっしょにたべよう」

そんな歌。

歌の名前がふと口をついて出たら二人は優しく微笑んで頷いた。

二人かこむテーブルは一日の終わりのhappy……。

あぁ、とても幸せだ。

あぁ、また明日も私たちはこう言うんだ。


『今日のごはんは何にしようか?』


ツンデレ守護霊と甘々神様と今日も楽しくおうちごはん食べてます。





 



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