追放から始まるスキル『物質変換』無双〜パーティ追放されて平穏に生きようと思いましたがバランス崩壊スキル『物質変換』の利用を解禁して謎を解き明かし、妥協なき人生を歩みます。もう遅い?まだ間に合う!!〜
明山昇
第1話 追放から始まる追走劇
1-1 追放
「お前はいらない。ここで即刻、パーティから向けてくれ。」
迷宮の如く木々が立ち並び来た道も分からないような深い森の中、そう言われたレスト・ウィーラーは内心ほくそ笑んだ。今目の前に誰も居なければガッツポーズを取りたいくらいだった。今取ってもいいかもしれない。何故なら此処にはガッツポーズが何を示すか分かる人間は居ないはずだからだ。
だが今は止めよう。
そう自分に言い聞かせながら、レストは計画通りにいった事の喜びを隠し、唖然とした顔でパーティ、いや、元パーティと言うべきか、その面々の顔をじっと見つめた。
それぞれが冷たい目でレストを見下していた。計画通りとはいえ、目線が突き刺さりレストは肌が痛む思いであった。
「い、一体、なぜ?」
絞り出したように聞こえるような声で言うと、最初に切り出した男ーーレストとパーティを組んだ、オールバックの頑丈な鎧を身に纏った屈強な戦士ーーは口を開いた。
「決まってるだろ。お前のスキルだよ。」
スキルとは、人が持つ特殊能力である。人の持つ『魔力』が肉体と作用する事により生じる不可思議な力であり、そのメカニズムは解明されていない。
スキルには幾つか種類がある。『腕力増強』『瞬発力増強』といった肉体を一時的に強化するものがポピュラーであるが、中には未鑑定アイテムを見るだけでそれが何かを判別出来る『鑑定』スキル、高位の魔法に必要な詠唱行為を省略出来るようになる『無詠唱魔法』など、肉体とは直接関係しない効果を持ったスキルも存在する。
だがレストのスキルは、それらとは全くかけ離れていた。
「『金を紙に変える』スキルなんて何に使うんだよ。」
彼が持っていたのは、自分の手に持っていたお金、金貨や銀貨を、上質紙へと変化させるというスキルであった。
「で、でもそれは事前にーー」
レストの事前の予想通りに事が運んでいる事ににやけ顔が思わず少しだけ溢れてしまった。だがすぐに顔を整えて抗議した。
レストは事前に伝えた上での出立だったはずであった。ギルドで挨拶をして、旅立ち、そして鬱蒼と生茂るこの森の中頃に差し掛かったところでパーティ追放を言い渡されたのである。
「聞いてたけど、俺達が本気でお前を連れていくと思ってたか?四人でないと受けられねぇからお前を入れてやっただけだよ。」
冒険者はギルドで依頼を受け、その依頼を解決する事で収入を得る。依頼の中には報酬が大きい代わりに引き受けるのに条件が課せられるケースがある。
レスト達のパーティが受けた依頼がまさにそれであった。
『森に住む凶暴な魔物を退治して欲しい』
ギルドはこの依頼を、四人以上のパーティでなければならないと判断した。
その分報酬は多い。300ガルド。一人頭75ガルドとなる。数日間の豪遊には十分な金額であるが、もしこれが一人100ガルドになれば、豪遊の日数はおおよそ1.3倍となる。
「テメーみたいなゴミをなんで雇ったか分かるか?人数合わせだよ。」
戦士の横にいた、豪勢なローブを身に纏った長髪の魔道士がいった。この二人は組んで長く、凶暴な魔物も二人のコンビネーションで難なく倒していた。
今のレストと同様に、見捨てられた者も多い。
「えっと、その、私は、反対、なんですけど。」
治癒士の女が言った。彼女はレスト追放の話を聞かされていなかったようで、キョロキョロと他の三人の顔を見回している。
彼女は他二人と組むのは初めてで、立場としてはレストと同じだった。
金髪ロング、ミニスカートにへそを出すような短さのジャケットの前を明け、その下にはチューブトップスという、明らかに人目を引く姿の彼女の姿。特にその体を動かす度に同時に揺れ動く豊満な胸元を、鼻の下を伸ばしながらチラ見しつつ、戦士が続けた。
「あー、俺達三人だとパーティとして認められないからな。」
「四人必要だったからあんたを雇っただけ。報酬も四人分で儲かるからね。それで俺達はこの子と……な。」
戦士と魔道士が目配せをした。
「え?え?」
治癒士はこの依頼の後何が起きるのかわからないといった顔で見つめている。
「んじゃ後は好きにしな。せいぜいのたれ死んでくれ。」
「ヒャハハハ!!」
治癒士の肩に手を回しながら、戦士と魔道士が高笑いを上げて森の奥へと進んでいく。治癒士は最後までレストの方を見ながらも、戦士と魔道士に逆らうでもなく、歩みを止めずに付き添って行った。
森の中央付近まで到達するのに、四人で魔物を倒しながら一日掛かった。一人で、ゴミのようなスキルを持ったレストが、魔物を退治しながら出口に出られるとは、戦士達には思えなかった。レストもまた同様であった。
もし、彼のスキルが本当に、『金を紙に変える』だけであれば。
戦士、魔道士、治癒士というバランスの取れたパーティの面々の背中を見つめながら、レストは思った。
「計画通りだ。」と。
レストの計画は簡単で、今のようにパーティから追放される事で、自分の存在を消す事であった。恐らく彼らは魔物に殺されて死んだとかそういう適当な報告をギルドに上げる。それで自分は死んだ事になるだろう。それこそがレストの望みであった。
何故なら、レストのスキルは、正確には『金を紙に変えるスキル』ではないからだ。
レストの持っているスキルは、正しくは『変換』スキルである。
それは、物体を別の物体に変化させる能力。二文字以上で表現可能な物質を、一文字以上一致する別の物質へと変換する能力である。
そのスキルの汎用性たるや凄まじく、可逆性を有するだけでなく、その物体をスキル使用者=レストがどう認識しているかによって如何様にも変換方法を変える事が出来る。
例として、
更に、水を
後者の例では、最後の"い"が一致するだけで、物質的な繋がりは全く無いが、それでも変換が可能なのである。
レストはこのスキルの特性を知った時、驚愕し、同時に恐れた。このスキルを持っているが為に、自分の命が狙われたり、自分を利用しようとする者が出る事を。
それの対処として考えたのが、自分を死んだ事にするという、現在遂行中の作戦である。
「はぁ。全く、なんでこんなスキルを……。」
静かな森の中で、木々のせせらぎに消えるような小声で独りごちる。
彼は好き好んでこのスキルを習得したわけではなかった。
だがそれについて説明するには、彼がレスト・ウィーラーに
それ故に今は、別の話をしよう。
即ち、彼の身に降りかかった別の災難についてである。
レストはとりあえず荷物をまとめ、彼らから離れたところで一息ついていた。
彼は体力がある方ではない。戦士達に着いていくのがやっとで
手元の鞄に入れておいたパンを頬張り、小一時間の休息を取り、さて帰ろうと立ち上がった時。
彼は森の木々のざわめきが今までよりも激しい事に気がついた。
風の仕業であろうか。否。このざわめきはそういうレベルのものではない。強風、台風、あるいは。
「グガァァァァァッ!!」
雄叫びが轟き、木々が倒される音も聞こえてきたところで、レストは事態の大凡に対し理解が及んだ。
魔物である。
恐らくは、自分達が依頼されていた魔物。
その音の方を向くと、まさしく依頼の紙に書いてあったイラストの通り、鋭い牙を生やし目が血走り、毛並と爪は冒険者達の血で赤く染まった、赤い熊ーーキラーベアであった。
「助けてくれ、誰かあ!!」
「急げ、追いつかれるぞ!!」
その鬼神めいた形相の獣より手前から、人の声が聞こえた。
その声の主は、レストが休んでいた草陰へと割り込んできた。
先程別れた戦士と魔道士であった。
「え?あ。」
レストはその姿を見て驚いた。新品同様だった鎧やローブはボロボロで、体の様々な箇所に切り傷がついている。あの魔物を前にして、追いつかれないように逃げられるだけでギリギリといった様子であった。
「おおおおおお前、ちょうどいい!!行ってこい!!」
「俺たちにも手が負えん!!お前が犠牲になってくれ!!」
二人はそう叫ぶと、レストの背後に回り込み、ドン、と背中を押した。
「ちょ、ちょっ。」
体勢を崩しながら草陰から躍り出ると、そこは戦士・魔道士の不埒コンビと、キラーベアのちょうど中央の位置であった。
「じゃあな!!」
「ギルドにはお前は死んだって言っとくよ!!」
そう言い捨てて戦士と魔道士は走り去った。薄情にも程があるだろう。レストは心の中で毒づいた。
「フガァーッ……。」
と、レストの顔に液体が降り注がれた。
上を見上げると、美味しそうな餌を前に涎を垂らすキラーベアの顔があった。
「あ、あのっ、助けて下さったり……は……?」
モジモジと体をくねらせながらキラーベアにレストが問いかけると、キラーベアは爪を振りかぶる事で答えた。
爪がギラリと光り、そして人間の腕を遥かに超える速度で振り下ろされんとした時、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーっ!!もうダメだ!!『つめ→つち、
レストはそう叫ぶと、思わず自衛のためにスキルを発動させた。
「ガアアアアアアアッ!!」
そして、咆哮と共にキラーベアの
瞬間。
ぺちっ。
軽い音を立ててキラーベアの手がレストにぶつかった。
と同時に、どさっ、という音と共に、レストの足下に
「ガア?」
キラーベアは何が起きたのかわからない様子できょとんと自分のーー爪の無くなったーー手を見つめた。
「え、えーっと、このまま退治しないといけないから……ごめんなさいね。『ほね→たね、
そう言ってレストが手をかざすと、キラーベアの動きが止まり、そして肉体が崩壊した。
その場に肉と皮だけが残り、肉の中には何故か
レストのスキルが発動した結果であった。
最初は
次にキラーベアの
「ふぅ。」
眼前の危険が取り除かれた事で、安堵の溜息を吐く。
戦士と魔道士の走り去った方を見ると、血の跡が残っているが、彼らの姿は見えない。どうやら逃げ切ったようである。良かったと言うべきだろう、とレストは思った。このスキルを使用する姿を見せるのはあまりよろしくない。
「お見事!!お見事ですわぁ!!」
パチパチという拍手と共に、キラーベアの背後から、先程別れたはずの、露出度の高い格好をした治癒士が立ち上がり出てきた。
ーーよろしくないと思った側からこれか、とレストは頭を抱えた。
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