異世界新人農家のおうち時間

真偽ゆらり

雨の日のおうち時間

 異世界と言えど農家の朝は早い。

 新人農家の彼も朝日と共に目を覚ます。


「朝か……雨降ってんじゃん。二度寝二度寝」



 ま、まぁこの春先の時期だと彼は田起こしくらいしかやる事がない。

 雨の中やれば土は水を吸って重く、普段やるより疲れる。そして何より彼自慢の毛皮が濡れるのが嫌だったからだろう。猫系獣人であるが故の睡眠欲に負けた可能性も否めないが。



 さて、彼が二度寝している間に彼の事を軽く紹介しておこう。彼は虎猫の獣人であり、その中でも獣度合いが高いタイプだ。分かりやすく表現するならパジャマを着た人間サイズの二足歩行する猫。


 そんな彼が何故稲作をやる事になったのか。

 切っ掛けは親の事業の成功。

 族長が何処かから持ち込んだパジャマなる衣類、その解析を彼の父が、再現を彼の母が成し遂げた。

 それが郷の外へ輸出するほどに大ヒット。

 その功績の褒賞に彼の両親が望んだのが水田——


「「働きもしない息子に何か仕事を」」


 ——ではなく、仕事。

 与えられた仕事は稲刈りだった。

 族長の義息が魔法で新たに切り拓いた水田で試験的に栽培中の米『新虎子舞』を託され、歳の離れた農家の先輩方から指導を受けつつ彼は稲刈りをやり遂げる。


 農業は自然との戦い。

 だが、それが彼の性に合っていた。

 狩人や守護の仕事に比べれば、他者と接する機会も少なく緻密な連携が取れる必要もない。

 人と接するのが苦手な彼にとって天職だと本人は思っていた。究極、作物の相手だけすれば良いと。


 だがそれも自分の刈り取った稲を稲架掛けで乾燥させ、脱穀に籾摺りと行い獲れた玄米の精米と手を掛けた白米を両親が「美味しい」と食べてくれた事で意味合いが変わっていく。


 人と接するのが苦手でも人を笑顔にできる。

 自分で育てた作物で人を喜ばせたいと。


 そして彼は両親が喜んでくれた米を一から育てるべく、小作人となったのだ。



 ……軽くのつもりがガッツリ紹介してしまった。

 いつまで二度寝を続けるのだ、この新人。

 もう昼だぞ。おい、起きろ!


「……あと五時間」


 寝過ぎだ! 日が暮れるぞ! 起きろって。


「……お昼、か。今日は一日中雨だな、こりゃ」


 やっと起きた。ほら、雨具もあるし本なんか読んでないで外に出て鍬を振ろう。


「田起こしは晴れの続いた日にやるべし……か」


 そうだった。今やっても土が乾燥しないからできないね。って、その本は指南書か! 案外勉強家で安心したよ。

 でも、雨の日でもやれることはある。

 まずは、え——


「そうだ! 塩水選した籾殻、もう芽が出たかな」


 そ、それは育苗箱!

 塩水選どころか浸種も終えて育苗中だったの!?

 どうやらまだ土から芽は出ていないようだけど、いくら気になるからって納屋で寝泊まりしなくてもいいんじゃないかな。

 藁の寝床に毛布って……母屋の君の部屋にベッドがあるはずだよね? パジャマが藁まみれだよ。


「流石にまだか。今日は何するかな……そうだ!

 作りかけの案山子を完成させよう」


 気が早い、早過ぎる。

 まだ出穂どころか田植えもしてないよ!?

 もしかして何体も作る気かな? そうだよね。



 そして彼が取り出したるは……藁人形!?

 しかも等身大。


 それが祓うのは鳥じゃなくて悪病な気が……。

 でもよく考えたら鳥獣対策と防疫祈願の一石二鳥で良いかもしれない。


「後は、鎧だけ〜」


 鎧? 具足に小手……甲冑か、藁製の。

 肉球付きの手でよくやるよ、器用だな。


「よし、完成! 次は何作ろうかな〜」


 藁製甲冑装備の猫耳藁人形、完成。



 こうして彼のおうち時間は過ぎていく。

 と、言っても敷地おうちの中で作物の相手しかしない彼にとっては毎日がおうち時間なのでした。




 ……別の日の様子を見に来るべきだった。

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