現代怪異研究部は今日も一波乱ありそうです

きょんきょん

プロローグ

そんな時代もありました……

 命短し、恋せよ乙女――


 大正の頃からそう唄われるくらいに、今も昔も短い青春時代と恋は密接な関係があった。

 必勝と書かれたハチマキを額に巻き付けたオレは、受験勉強のスキマ時間を見つけては、数多あまた存在する古今東西の恋愛マンガや小説を読み漁っていた。

 息抜きや趣味ではない。

 この作業ですら、高校生活における勉強、いや――「研究」といっても過言ではない。

 己の野望のために、読んで読んで読み倒し、中には洋書を原文のまま読破したりもした。

 もしかしたら本来の受験勉強よりも、それら「投資」に力をいれていたかもしれない。


 部屋の本棚には、受験勉強の参考書よりもお世話になった愛読書の数々が、隙間がないほど立て掛けられている。

 収まりきらない本達は部屋の片隅に平積みされていた。

 一体何冊読了したのだろうか。

 数えてないので把握はしていないが、しかし、努力は決して裏切らなかった。

 ボロボロの表紙の一冊を静かに閉じ、ほっと深く息を吐く。

 心臓が百メートル走を走った後のように高鳴り、動悸どうきがなかなか収まらない。

 志望校の合格発表を目にしたときでさえ、ここまで高揚感が沸き上がることはなかったというのに。

 それほどの答えに気づいてしまったのだ。



 オレは――とうとうに辿り着いたんだ。



「そうか! 高校生になると勝手に彼女ができるのか!」

 手にしていた本を放り投げて叫ぶ。

 ふふふ……この事実に気づいている人間はどれくらいいるのだろうか。

 もしかしたら、世紀の大発見なのではなかろうか。

 そう確信するに至ったのには、どの作品にも高校生になると、不自然なほど自然と恋愛イベントに巻き込まれる描写シーンが描かれていたからだ。

 主人公は、なぜか磁石のようにヒロインの女子とくっついて仲良くなり、反発してケンカをしつつも、結局は最終的に結ばれる。

 場合によっては多人数からモテてしまうことも多々あった。

 あまりの衝撃に、身震いするほどだった。


「高校に入学さえすれば勝ち組になれるんだ……」


 気づけば、頬を涙がつたい落ちていた。

 真っ暗な頭上から一筋の光明が差した気分だ。

 これが「神の啓示」というやつなのだろうか。

 一度も神なんて信じたことはなかったけれど、少しは信じてやってもいいのかもしれない。


 え? 中学生では何も無かったのかだって?

 野暮な質問はやめてほしい。

 中学時代は女子と話す機会もなく三年という時が瞬く間に通りすぎていきましたよ。


 そんな不遇の中学時代を乗り越え、晴れて迎えた高校の入学式当日――

 その日がオレの人生の転機となったわけなのだが……。

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