閑話 宮園夢莉

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今回はエイプリルフール回です!

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 私の人生は、ずっと不自由だった。


 不自由で、窮屈で、満たされない。

 とはいえ私自身の感情は、憤懣と言う程に燃え上がってもいなくて、全てを放り出したくなる程に厭世的でもなかった。中途半端な心情。煮え切らないスタンス。無様で見るに堪えない尻切れトンボ。

 なるほど、不満という言葉を思いついた人間も、こうした不自由で満足できない日々を送っていたのだろう。この行き場のない鬱蒼とした感情に『不満』というラベルを貼り付ける辺りには、ちょっと、というか、かなりのセンスを感じてしまったり。


 縛り付けられて、先の未来どころか目の前も見えなくて、全てを恨みたくなるのなんて日常茶飯事で。


 断言してしまってもいいのだろう。


 私は、どうしようもなく不満だったのだ。




 ***




「はぁ……」


 シンと静まり返った住宅街を一人、鈍重な足取りで歩く少女がいた。

 小さな矮躯をふらふらと揺らしているのは、どう見てもその体に不釣り合いな大きさのスクールバックを片手にぶら下げているからだろう。もちろん、本人の精神的な面もある。

 小さな唇から零れるのは、通常の吐息ともとれる一つの溜息。日常的にため息をつきすぎて、それが吐息なのか溜息なのかは夢莉本人ですら見分けがつかなくなっていた。どちらも等しく、大気に触れれば白むものではあるのだが。


「……もう、2週間なんだ」


 敷き詰められたレンガ調のコンクリートで踵を擦りながら、夢莉はぼんやりと天を仰いだ。

 リゲルやシリウスといった等級の高い星は都心の空にも輝いて見えるが、小さい星や暗い星ともなると、明るすぎる都会の空では目立つことができない。実際、夢莉の肉眼に映るのは無数とある星の中で、強く瞬くものだけだ。


「宇宙ですら、そうなんだもん……私が輝ける道理なんて、どこにもないよね」


 傍にある強く輝く星のせいで、全く眼中に入れられない小さな星たち。

 きっと、自分もそんな感じの小さな星なのだ。溢れんばかりの人間達の中で、特に脚光を浴びることなく寿命を終えていく者たち。幾星霜と必死に輝き続けながらも、その努力は報われることなく、いつか爆発してその命を終える運命にある自分達。


「……けど」


 そんな小さな星だって。

 こんなに明るい都会の空じゃなくて。

 どこか、もっと光の淡い、違う場所でなら。



 ―――違う環境であれば、輝けていたかもしれないのに。



 今日は、3月24日。

 あの最悪な日―――夢莉が大学受験に失敗してしまった日から、もう二週間が経っていた。




 ***




 それが意図的に無視されているのだと気づいたのは、果たしていつからだったか。


「……ただいま」


 小さな言葉で発せられる、夢莉の細やかな帰宅の合図。

 対して、応じる声はない。

 誰もいないわけではないのだ。ドアのスリガラスからリビングの光が漏れているし、生活音だってちゃんと聞こえる。夢莉の声が聞こえるであろう場所に誰かしらはいたはずだ。


「……」


 今日も誰からの返答もなかったわけだが、夢莉にそのことを慨嘆するつもりは最初から無い。「おかえり」という一種の労いの言葉は、きっとこの家の誰もかけてくれないのだろう。そういった諦念は、もうずっと前から夢莉の根底に染み付いていた。


 夢莉の家はメゾネットタイプの集合住宅の一室だ。10階建てのマンションだが、メゾネットタイプであることも相まって、そのマンションの大きさと裏腹に収容可能世帯数は少なく、建物自体もかなり上に伸びている。高層マンション、というほどでもないと思うが。

 夢莉の住むマンションだが、敷地内にちょっとした庭園や広場、駐輪場や駐車場など様々な付属の施設があるため、敷地面積自体はそこそこに広い。築浅なので全体的に清潔感があり、100人に聞いたら90人近くがオシャレだと感想を言うぐらいにはデザインも良い。富豪とまではいかないまでも、世帯主が高所得者でなければこんな家には住めない。


 ―――実際、夢莉の父は医師だった。


 リビングには直接向かわず、階段で上階に上がって自分の部屋へ戻り、肩に提げていた荷物を置く。夢莉の部屋は年頃の女子らしくもない、極めて淡白な内装をしていた。部屋の各所にポスターを止めていた画鋲の痕こそ残っているが、部屋には参考書と文学書しかなく、遊びに使えそうなものは一つたりとも存在しない。女子らしさと言えば、ピンク色を基調とする目覚まし時計や枕元のぬいぐるみぐらいのものである。

 参考書がぎっしりと詰まっているスクールバッグは、床に投げられるとドスンと鈍い音を響かせた。重量としては、ちょっとした鉄アレイぐらいはありそうだ。こんなのを毎日背負っていたら勉強よりも先に筋力が向上しそうだな、と内心で自虐的な笑みを浮かべる夢莉。


 出来れば家族と同じ空間に行きたくはないが、夢莉の胃は栄養のある内容物を欲しているのか、くぅ、と小さな可愛らしい音を奏でる。背に腹は代えられない。夢莉は再び溜息をつくと、踵を返してリビングへと向かった。

 下に降りてリビングへ繋がるドアの前に立ち、ドアノブへ静かに手をかけた。この瞬間は何度経験しようと憂鬱で、なかなか足が前に進まない。ふぅ、と息を吐き出して意を決すると、ドアを押し出した。


 ドアを開けると、洗い物をする水音とテレビの音が同時に耳に入ってくる。カチャカチャと皿同士がかち合う音が、いやに冷たく脳に響いた。


 このマンションの部屋は、リビングだけで40平米を優に越すだけの広さがある。白と黒のコントラストをベースとしている壁にフローリングに調度品と、全体的に単色でまとまりを持ったインテリアコーディネートだ。テーブルや棚、時計や椅子なんかは木製で、それがまたアクセントとして効いている。綺麗で清潔な部屋作りだと言われれば、まぁその通りなのだが。

 広さの割に物が少なく、そして人もまばらだ。父は洗い物をする母に背を向ける形でソファに座り、大画面のテレビを見ている。無論、夢莉には少しも視線は寄越さない。母は無言でキッチンに立って食器洗いをしているが、父同様に夢莉を見ることはなかった。


「……」


 だだっ広いだけのリビングなんて虚しいだけだな、と思いながら、静かに食卓につく夢莉。ほどなくして、母が食事を持ってきて夢莉の前に差し出した。

 白飯に味噌汁、鯖の塩焼きに市販の野菜ジュース。味噌汁と塩焼きは手作りであることが分かるが、夢莉を待たずに食事をしたからだろう、帰宅の遅かった夢莉の分の食事は完全に冷え切ってしまっていた。脂がのっていたであろう鯖も乾きかけており、味噌汁は味噌が底に沈殿している。


「10分」


「おかえり」でも「お疲れ」でもなく、帰宅してからの夢莉に対する母の第一声がそれだった。冷え切った母の声が頭上からかけられ、夢莉は顔も上げられないまま小さく頷く。食卓中央に置かれていたタイマーに手を伸ばし、10分をセットした。


「……いただきます」


 その言葉と同時に押したタイマーがピッと無機質な音を立てた瞬間、夢莉は眼前に並べられた冷たい食事を口へとかき込んだ。

 10分。母から言われたそれは、。長々と夕食が食べることがないよう、毎回の食事で必ず伝えられる。ちなみに、朝・昼・晩、どれも制限時間は10分だ。じゃあ毎回伝える必要ないだろ、というのは言わないお約束。

 元から小食な夢莉が食事を一気に掻き込むこと自体が中々に苦行なのだが、それ以上に出された品が冷め切っているというのがいつも辛かった。味噌汁なんかは冷たくなってもまだマシだが、焼き鯖は流石に美味しくない。


(けど、残したら残したで文句言われるし……一応、栄養バランスは考えられてるんだよなぁ……)


 合理主義者、というより酷薄というべき夢莉の母は、食事バランスはきちんと考えている。ただ、美味しさは考慮してくれないらしい。合理的、といえばそうだが。

 タイマーの数字を横目で見ながら味噌汁を必死に啜り、残り数十秒というところで完食。タイマーのストップボタンを押して、小さく「ご馳走様でした」と述べて手を合わせた。


「夕貴ね。また成績トップだったんだって」

「!」


 食器を軽く水で流して食洗器に入れていると、食卓で携帯デバイスをいじっていた母がぶっきらぼうに話を切り出した。


「凄いわよねー。あんな進学校でトップを取れるなんて。本当、夕貴はすごい」


 ―――それに比べて、アンタときたら。


 そんな言外の意図が目に見えるから、夢莉は何も言わない。何も言えない。


 夕貴、というのは、夢莉と3つ離れた弟の名だ。成績優秀、眉目秀麗、スポーツ万能。都内有数の進学校にも関わらず成績はトップを維持し、高身長で整った顔立ちをしていることから往来する女子の視線を釘付けにしている。しかもテニス部に所属しており、見事にキャプテンを務めていた。なるほど、父母にとっては理想の息子、誇るべき後継ぎだ。


 一方、夢莉はどうだ。

 成績は良いが成績優秀という程でもなく、弟に比べれば見劣りするばかり。低身長で猫背、髪は生来ボサボサで癖毛。長い髪で顔も見えづらいから、ぱっとしない印象の眼鏡女子だ。勿論、モテたことなんて18年で一度もない。嘘告はあったが。

 スポーツもてんで駄目、引っ込み思案の性格とおどおどした喋り方のせいで、リーダーシップどころか友達すら満足に作れない。優秀な弟とは正反対の存在だ。


「……」


 だから、こんな扱いをされていても文句ひとつ言えない。

 逃げるようにリビングを出る寸前、テレビに視線を固定したままの父から声がかかった。


「あぁ、そうだ。夢莉」

「……はい」

「声が小さい」


 夢莉の小さな声に、明らかに語調を鋭くする父。それだけで喉が引き締まるような恐怖を覚えるが、そう言われたからには黙っていてはいけない。更に大きな声で答える。


「は、はい」


 精一杯に大きな声を出す。返ってくるのは父の溜息。


「宮園夢莉ッッッ!!」

「……っぁ、はいっ……!」


 大きな声で、だけど不思議と荒げているような声ではなく、父は声の小さい夢莉を叱咤した。ちなみに、声を荒げないのは怒っていないというわけではない。声を荒げないようになったのは父の職業柄上のことであって、夢莉に対してはしっかりと怒っている。いや、怒っているというより、もう失望に近いのだろうが。

 夢莉が委縮するのを見て無駄だと判断したのだろう。ふん、と鼻を鳴らすと、父は要件に入った。


「もう予備校に行くのはやめなさい。通学が時間の無駄だ」

「……え」

「その時間すら不出来なお前には惜しい。通学時間を短縮できれば、食事三回合わせて30分、風呂で20分。睡眠時間は6時間とるとして……まぁ余裕も考えるなら、一日16時間強は勉強に費やせるだろう」

「―――」


 一日、16時間強。

 睡眠時間も学習的に最も効率が良いと言われる6時間きっかり、風呂や食事などの時間も合わせて、一日24時間の内で勉強以外に費やせる時間は2時間もないと。必要最低限の時間は勉強に回せ、と。

 それはあまりにも―――


「不満はないな」

「ぇ……いや」

「ほう。あるのか。自分の力不足で私達の期待を裏切ったお前が、この合理的な計算に何か意見する資格があると。どこの医学部にも入れなかったお前に、その権利があると。お前はそう思っているのか?」


 父から発せられる一言一言が、夢莉の胸に冷たく突き刺さる。

 父の合理的な意見。それに反発できる言葉が、夢莉にあるはずもなくて。


「………ない、です」

「聞こえない」

「な、ない、です」


 返答は沈黙。どうやら要件は終わりらしい。


「……失礼します」


 どこまでも夢莉に対して冷徹なこの空間にいるのが苦痛でしかなくて、他人行儀な言葉で夢莉はリビングを出る。


「恥晒しが」


 リビングのドアを閉める直前、父から漏れ出たその一言。

 夢莉は唇を強く噛み締めて、俯いたまま自室へと戻っていった。




 ***




 星は好きだ。

 夢莉の数少ない好きなものの一つは、その星を観察することだった。


 星を楽しむというと、山中で頭上に広がる満天の星空を見上げるのがメジャーだが、夢莉が好きなのはそれではなく、いや勿論それも好きなのだが、彼女的には望遠鏡で小さな星を見つけるのが一番好きだった。

 望遠鏡で見える星は疎らに光っていて、大きいものもあれば小さいものもある。眩い一等星も良いが、夢莉が見たいのは光の弱い星たち。星座早見にすら載らないような小さな星たちを眺めるのが、夢莉にとっては大きな楽しみであった。


「……通学路から見る星が、唯一の救いだったんだけどなぁ」


 家の誰もが寝静まった時間帯。時刻は2時を回る頃か。

 とっくに親から指定されている就寝時間は過ぎているが、全く寝付ける様子が無かったので、こうして親の目を忍んでべランダに出ているというわけだ。

 ベランダからは上階のベランダのせいで満足に星が見えず、肉眼で見るには限界があった。

 父に外出を禁止されてしまった以上、夜に外を出歩くことは許されまい。きっと、受験が終わるまで星を満足に見ることは出来ないだろう。受験が終わるのは最低でも1年後なわけだが。


「……きっついなぁ」


 ベランダの手すりに腕と顎を置いて、夢莉は夜風に当たりながらぼやいた。3月の夜風はまだ肌寒く、薄着で出てきてしまった夢莉は思わず身震いしてしまう。


「戻らないと」


 早く寝なければ、睡眠時間が取れない。真昼に睡眠不足でうたた寝しているところなんて見られた日には、きっとこの家から夢莉の立場は完全に消え去るだろう。


 星が見れなくなってしまったことに肩を落としながら、静かに部屋へと戻ろうとした夢莉だったが。


「―――あっ」


 思いついてしまった『ある考え』に、夢莉は思わず声を上げるのだった。





「来てしまった……こんな時間に……」


 この集合住宅にいる人は殆ど寝てしまっているであろうこの時間帯。厚着をしてマンションの屋上に立ち尽くす小さな影が一つ。


「……良かったのかな……いや、良くないよね……」


 ウンウンと思い悩む夢莉の片手には、大きな望遠鏡が抱えられている。

 夢莉が大好きだった、今は亡き祖父から送られたプレゼント。星好きの夢莉に祖父が買ってくれた、ちょっとお高めの天体望遠鏡だ。

 外出禁止を宣告された夢莉が星を見る為に思いついた手段と言うのが、家族が寝た後にこっそり玄関から出て屋上へ行き、星を観察するというものだった。音を一切立てずに出ていくのは苦労したが、幸いと言うべきか、天体望遠鏡は玄関横の倉庫にしまわれているため、望遠鏡を持ち出すの自体はとても簡単だった。


「いや、ここまで来たんだから……どうせなら」


 思い立ったが吉日。そして実行したのだから、もう退路はない。屋上に用意されたベンチに座り、いそいそと望遠鏡を組み立て始める夢莉。組み立てはお手のもので、すぐ望遠鏡は出来上がった。


「それでは! いざいざ――」


 数か月ぶりの天体観測にテンション上がりまくりの夢莉が、早速望遠鏡を覗き込もうとすると。



「ありゃ。先客がいたか」

「うひゃぁっ!?」



 突如として背後から聞こえた声にすっかり動転し、ベンチから転げ落ちて鼻っ柱を地面にぶつける夢莉。流石の運動神経の無さを見せつけていく。


「おーい。だいじょうぶかー?」

「えっ?! ふぁ、ふぁい! だいじょうぶれす!?」

「大丈夫じゃなさそうじゃーん」


 けらけら、と軽快に笑う目の前の人物を見て、夢莉は二度目の衝撃を受ける。

 トラ柄のジャケットに、ダボっとしたスウェット。夜風を受けて金色の頭髪を靡かせる、高身長で痩身の女性。目につくのは、その少し焼けた肌。


 なるほど、この手の人種には疎いが、夢莉とて名称ぐらいは知っている。

 生来からド派手を好み、その衝撃的なビジュアルから過去には一世を風靡したともいわれる特徴的な人種。

 そう。


「DQN?!」

「おうおーう。初対面で言ってくれるねー」

「あ……! すいませ……」

「いや、いーのよ。その手の好奇の目には慣れてるし」


 よっこらせ、と夢莉の隣に座ってきた金髪女性(よく見たら頭頂部は黒髪だが)にギョッとして硬直する夢莉。夢莉が緊張で凍り付いたのを察したのか、女性は気まずそうに問い掛ける。


「あー……隣座っちゃまずかった?」

「え……あ、いや、まずい、ってことはないです……はい……」

「あ、じゃ。お言葉に甘えて」


 ふー、と息を吐くと、女性は胸元から煙草の箱を取り出して、一本を抜き取る。ちら、と夢莉を見てきたので、おそらくは喫煙してもいいかを聞いているのだろうと思い、やや遠慮がちに夢莉は頷いた。にこ、と申し訳なさそうに笑うと、女性は煙草を食んでライターで火をつける。


 靡く長髪と揺れるライターの火、そして照らされる横顔。その一連の動作が非常に様になっていて、夢莉は暫し見惚れてしまっていた。


「ふー。生き返るー」

「いや、そんなビールみたいな」

「んー? さては、この悦びを知らないな?」

「そりゃ知らないですよ……未成年ですし……」

「ほほーん? 未成年とな?」


 二ヤリ、と小悪魔的な微笑を浮かべた女性は、吸っていた煙草を二本指で挟み、「ん」と夢莉に差し出した。まさか、吸えということか。


「……未成年ですって」

「いーからいーから。ほら、禁断のアジってやつよ。アダム? とやらも我慢できずに食べてたでしょ?」

「もしかして、禁断の果実リンゴのこと言ってますか……? だとしたらいろいろ間違ってますよ……リンゴ食べたのイヴだし」

「細かいことは気にすんなって。ほら」


 食うてみ? みたいなノリで違法行為を進めてくる女性にため息を一つつくと、渡された煙草を口に挟む。渡されたものの、吸い方なんてのは分からない。とりあえず思いっきり吸ってみて―――


「ごっふぁ?!」


 ……まぁ、思いっきり吐いた。


「あはははっ! そんなに一気に吸ったら噎せるに決まってんじゃん!」

「し、知らないでづよ……初めて吸ったし……けっほ」

「いい経験でしょ? たばこは吸い過ぎちゃダメって」

「いやそれ、吸い方の話じゃ―――」


 涙目になって反論する夢莉だったが、女性の目を見て息を詰まらせる。

 優しい目だ。普段のナイフのような冷たい目でなく、相手を包み込もうとするような、優しい瞳。


「やっとこっち見たね」

「あ……」


 にっこりと笑った女性に申し訳なさそうな顔をして目線を逸らした夢莉だったが、「ねぇ」と声をかけた女性に再び顔を向ける。


「名前。教えて」

「え……と。宮園、夢莉です」

「夢莉ちゃん? そりゃどーも、初めまして」


 笑みを崩さぬまま、女性は胸に手を置いて自己紹介する。


「おねーさんは有永ありながかおる。薫さん、って呼んでちょーだい」




 それから、夢莉は薫と色々話した。

 なぜこんな時間に屋上にいたのか。夢莉の身の上のことも含めて、色々だ。

 受験に失敗したこと。優秀な弟と比較されること。家での立場がないこと。自分にコンプレックスをずっと抱いていること。

 コミュ障で初対面の人とは碌に話せない夢莉が、なぜか彼女とはスムーズに話せて、なんなら個人情報についても喋ってしまった。不用心だとは思うが、なぜか話してしまったのだ。


「受験したんだ。どこを?」

「……東大理Ⅲ」

「えっ?! まじ? おねーさんでも知ってるスッゴイところじゃん!」

「そうですね。でも……身の丈に合わないどころの話じゃないです。100回受けて100回落ちる自信があります」

「え?」


 東大理Ⅲというと、日本一難しいとされる東大の中でも更に難関となっている学部だ。そこに入る人間は東大医学部に行くのが普通であり、最高級の医者になる登竜門といった側面が強い。日本最難といっていい大学学部だろう。

 受からないなら、なんで受験するの? と怪訝そうな顔をした薫に、夢莉は自嘲気味に答えた。


「親が、強制するんです。そこ以外はダメだって」

「―――」

「変な話ですよね。出来の悪い長女じゃ絶対に受からないって分かってるのに、そこ以外は受けさせないんですよ」

「それは、自分が医者だからってこと?」

「でしょうね。父なりのプライド、だと思います」


 思えば、受験生になってからの日々は壮絶なものだった。

 父から与えられる膨大な量の課題をこなすことで精一杯で、それでも「自分の指導通りにすれば、お前でも受かる」という言葉を信じて、必死に努力した。


「どうして、そこまで?」

「……私は6等星でした。弟という1等星のせいで全く注目されない、憐れで小さな星」


 いつだってそうだった。

 食事中だって、会話中だって、どんな時だって。

 あの家の人間の誰も、夢莉を見ていなかったから。


 だから。

 少しでも、両親に見てもらいたくて。


「でも、ダメでした」


 無理だった。到底超えられない壁だった。夢莉程度では敵わぬ相手だった。

 夢莉が努力したところで、どうあっても受からない学校だった。それはまごうことなき事実だ。それでも、プライドの高い父は決めつけていた。

 自分は正しい。間違ってなどいない、と。


、と」


 そうして。

 全ての責任を、夢莉に転嫁した。


「……」

「ほんと、あの時は意味が分からなかったです。いや、自分が受かるとは思ってませんでしたけど……でも、これだけ人生のレールを限定しておいて、もう取り返しがつかないところまで加速して、私というトロッコが停まれなくなってから……自分には非がない、って……あの父親は、言ったんですよ」


 ―――無責任に後押ししたくせに。

 ―――走りたくもないレールを敷いたくせに。


 口を噤んだ夢莉を見かねてか、薫は煙草の煙を吹くと共に質問する。


「夢莉ちゃんは、他になりたいものがあったのかな」

「え……あ、いや……」


 特には、と言おうとした夢莉だったが、まっすぐに夢莉を見る薫の瞳に息を呑み、恐る恐るだが、自身の夢を語った。


「……本当は、天文学者になりたかった。星が好きだったから」

「……そっか。でも、お父さんが許してくれなかったんだね」

「はい。医者以外は許さない、と」


 夢莉の意志など、あの家の人間は尊重しない。各々が自分が正しいと自負してやまない、欺瞞と虚勢ばっかりの薄っぺらい家庭。

 でも、夢莉がそこから逃げることは許されなくて。


「……夢莉ちゃん。ちょっと提案があるんだけど」

「……? はい?」


 唐突に改まった様子の薫に、夢莉は困惑気味に問い返す。


「毎週のこの時間。ここに来れる?」

「え……」


 薫の言葉に思わず返答を詰まらせてしまう夢莉。出来なくはないだろうが、困難は伴う。両親の目を忍んで毎回望遠鏡を持ち出すとなると、あまりにリスクが高い。ばれてしまった時など考えたくない。

 だが、薫が提案したいことの内容も何となく察しがついていて。夢莉自身も、そうしたかったから。


「なんとかします」

「お、いいね。乗り気じゃん」


 にや、と笑った薫を見て、思わず夢莉も破顔する。出会ってから短時間ではあったが、夢莉は既に彼女の笑った顔が好きになっていた。


「じゃ。毎週火曜、ここに集合しよう。持ち物は天体望遠鏡と夢莉ちゃんの悩み。有永心理療法士、出張番外編じゃい!」


 力こぶを作るジェスチャーをして、ふんと薫は鼻息を荒らす。一方で、夢莉は今になって初めて知った事実に驚愕する。


「か、薫さん、定職についていたんですか……?!」

「誰がニートやねん」


 ビシッと似非関西弁で突っ込む薫に対し、「なるほど話しやすいわけだ」と、夢莉は内心で納得するのだった。




 それから、毎週火曜日は薫と夢莉が会う日になった。

 制限時間は一時間程度。両親にバレるリスクを考え、夢莉の負担にならない時間となるとそれぐらいが限度だった。

 夢莉が天体望遠鏡で星を見ている間、他愛もない話をしたり、夢莉の悩みや愚痴を聞いてもらったり、逆に薫の愚痴を聞かされたり。そうしている間に、分かったことが色々とあった。


 まず、生意気な妹さんがいること。

 職業はカウンセラーで、年齢は25歳なこと。


 そして、子供がいること。しかも二人。


「に、二児の母?!」

「そーよ。おねーさん、夫を誑かして25歳にして二人の子供を作ってしまった罪な女なのよー」

「つ、罪な女……」

「しかも、第一子は18歳の時に産んでる」

「え?!」


 タイヘンだったわー、と軽く言っているが、それがどれだけ大ごとなのかを分からない夢莉ではない。18歳となれば、高校生か大学生かで子供を産んでいる。そこから育児ともなれば、困難な日々だったのは想像に難くない。


「まー、うちは割と理解ある家だったしね。当時は色々と手伝ってもらったよ。今では旦那と暮らせてるけど、共働きだから……まぁ、こうして親の家に子供を預ける日もあるってわけ」


 どうやら、このマンションに住んでいるのは薫の両親らしい。二人が忙しい日には二人を母に預けて面倒を見てもらっているとか。妹さんも随分と薫の息子2人を可愛がっているそうだ。そして二人を迎えに来た夜はそのまま寝泊まりすることが多いため、全員が寝静まってから屋上に来て一服していたのだと。

 この前のは、ちょうど夢莉が星を見に来た時にばったり遭遇したのだろう。


「なんか、すごい人生歩んでますね……」

「いやー、凄さで言ったら夢莉ちゃんの家庭環境も中々じゃない?」

「ひ、否定できない……」


 マグマも凍るであろう壮絶な冷たさを誇る家庭環境を思い出し、苦笑いをする夢莉。あながち薫の言うことも間違いではないかもしれない。


「……最近、少しづつ笑顔が増えてきたね」

「え……そ、そうですか?」


 ニコニコと笑っている薫を見て、夢莉は気恥ずかしそうに頬を掻く。


「そうだよ。良いことだね」

「良い……んですか?」

「そりゃね。人間、生きてて辛いことも多いから。どうせ苦しむなら、笑顔になれてるほうがマシでしょ」

「極論ですね」

「でも正論だし」

「はは……確かに」


 笑う、ことが良いことなのだろうか。

 以前までは、笑う時はどうしても両親の顔が脳裏に浮かんでしまっていた。そして、それが浮かぶたびに楽しい気持ちは霧散してしまう。

 理不尽なことをされたとはいえ、期待を裏切ってしまったのは事実だ。だから、自分が楽しい気持ちになっていいのか、と感情に無意識にブレーキがかかってしまうのだった。

 けれど、薫に会ってからはそれがかなり緩んでいる。彼女の緩さに影響されて、張っていた片意地が段々とほぐれていったのを夢莉自身、よく感じていた。


「それでいいんだよ。それでいい。女は、朗らかに笑ってる方が綺麗なんだよ」

「―――。……はい」


 あぁ。

 だから、よく笑うこの人は素敵なんだな。


 そう思った言葉は、薫にも言わずに内心に秘めておくことにした。






「今日はもう少し夜風に当たってるわ。先に戻っててよ」

「分かりました。それじゃ……」

「ん。また来週」


 ひらひらと手を振る薫に別れを告げ、夢莉は温かな心のままに階段を駆け下りていく。

 あんなにも暗くて憂鬱だった日々が、彼女と会って話せるというだけで格段に明るくなった。会話をこうも楽しいと思えたのは人生初めてだった気がする。それぐらい、彼女との時間は大切なものになっていたのだ。


「来週も楽しみだ……っと。いけないいけない。静かにしなきゃ」


 あまりはしゃいで靴音を立てていると近隣住民に迷惑だろう。それに、あの人たちが音で起きないとも限らない。冷静になり、音を出来るだけ出さないようにして歩く。


 自分の家の前に辿り着き、ゆっくりと扉を開ける夢莉。家族が起きている様子はなく、リビングに光も点いていない。今日も何とかなったらしい。いつバレるかと数週間前はドキドキしていたが、今となっては慣れたものだ。

 望遠鏡を元の位置に戻し、忍び足で廊下を歩く。リビングの扉の前を通過し、静かに階上へ。聞こえるのは夢莉の微かな足跡と時計の音だけだ。


「ふぅ……」


 部屋の前に来て、一安心する夢莉。ここまで来たら滅多にばれない。両親の寝室は下だし、弟は部活で疲れているので起きることも無い。

 ドアノブに手をかけ、部屋の中に入って―――




「あら。。遅かったじゃない」




 え。


 そう聞こえた次の瞬間には、夢莉の顔は横殴りの衝撃に襲われていた。




 ***




「ほんと……よく笑うようになったね」


 煙草をふかしながら、薫は数週間前の夢莉に思いを馳せた。

 あの時の夢莉の顔は酷いものだった。ストレスのせいでやせ細り、表情も生気を失ってしまったようで、見ていられないほどに悲惨だった。一目見ただけで本人が極度に追い詰められているのが手に取るように分かったぐらいだ。

 だから、薫は彼女を治そうとした。家庭環境には介入できないが、話すだけでも救われるかもしれない。カウンセラーとして様々な心理的ストレスを抱えた子供と接してきた彼女にとって、夢莉は充分に彼女の治療の対象に入っており、すぐにでも対処が必要だと考えたのだ。


 実際、彼女は目に見えて心理状態を回復させた。勉強の重圧からか、身体的疲労と根本的な原因の解決には至っていないが、それでも笑顔が出るようになった分、かなりマシになっている。


「これなら」


 何とかなるかも、と思った、その矢先。

 がちゃ、と扉が開く音がして、薫は顔をそちらに向ける。この時間帯に来るのは夢莉しかいないだろう。先ほど別れたばかりなのに、なぜ戻ってきたのかは気になるが。


「どうしたー? 忘れ、もの、でも……」


 振り返った薫は、その目に映ったものに言葉を失った。

 彼女は夢莉だった。夢莉なことに間違いはない。


 ただ、その表情が。あの会った時の時より、数倍、いや数十倍暗いものだったから。


「な……どうして?! 何が―――」


 折角回復したはずだったのに、これでは逆戻りどころか悪化している。なぜそうなったのか、全く分からない。この短時間の間に何が。

 とにかく煙草を捨てて夢莉に駆け寄って、なぜか薄着の夢莉にジャケットをかぶせて、そして初めて気づいた。


 夢莉の頬が、大きく腫れていた。

 頬だけじゃない。眉も。唇も。耳も。

 全て、ズタズタに傷つけられている。


「ばれてました」

「……え」

「全部、ばれてたんです。部屋に、待ち伏せされていました」

「―――」


 待ち伏せ。そんなのをするのは、夢莉の両親しかいないだろう。



「父から殴られました。母からぶたれました」

「私はどうしようもない愚か者で、見ていて吐き気がするほど醜悪で、世に出すのも憚られる生き恥だそうです」

「自分の生きている意味が分かっていないそうです」

「母の愛を理解していないそうです。父の願望を無視しているそうです」

「家から弾き出されました。そんなに外出が好きなら外で凍えてろ、だそうです」

「望遠鏡は壊されました。目の前で木っ端微塵にされました」

「祖父との思い出の品であろうが、これからの夢莉に人生が大事だから壊すんだそうです」

「また抜け出したら、今度はこの程度じゃ済まないそうです」

「これから部屋に監視カメラが設置されるようになりました。明日から施工だとか」

「それも愛だそうです。自分たちの時間と費用を削って監視するのだから、感謝してほしいそうです」

「というかそもそも、わたしがうまれたことのいみがわからないそうです」

「なんでこんなできぞこないがうまれたのか、はじでしかないそうです」



 淡々と。淡々と。ただ淡々と。

 機械のように。吐かれた暴言を言葉にし続ける。

 感情はこもっていない。いないけど、どんどん涙声になるのは分かって。


「……っ、もういい! もう言わなくていいから!」


 思わず両腕で夢莉を抱き寄せて、包み込みたくなった。

 裸のままで悪意に曝され続けるこの小さな女の子から、少しでも守ってあげたくて。

 でも、赤の他人の自分には、ただ、抱きしめてあげることしかできない。


「……どうして……」


 消え入りそうな声で、夢莉は小さく呟く。


「どうして……薫さんみたいな人が母親じゃなかったんだろ」


「――――ッッッ!!!」


 救われない。この子はどうあっても救われない。

 だって、それは絶対にありえない話だから。どこまで行っても、夢莉の母親は自分ではないから。


「ごめんなさい……迷惑ですよね。こんなこと言われても」

「そんな、ことは」

「気づいてました。カウンセラーってことは、虐待家庭の子供も担当するんですよね」


 その通りだった。薫は虐待家庭に生まれ育った子供をカウンセリングしたことがある。


「でも、歯がゆかったでしょう。第三者が他人の家庭事情に介入する手段は極めて少ない。それこそ児童相談所にでも相談するしかありませんが……私はもう、法律的に児童じゃない。18歳は、立派な成人です」


 児童相談所が保護するのは親の庇護下にある未成年や自立能力のない子供たち。残念ながら、夢莉はどちらにも当てはまらない。

 だから、薫には夢莉の相談相手になるぐらいしかできることが無かった。


「だから……ごめんなさい。もう少しだけ、困らせてしまいますけど」


 薫の胸の中で肩を小刻みに震えさせながら、夢莉は嗚咽交じりに吐き出した。



「―――あの人たちに、愛なんてものがあるわけがないっ!!」



 吐き出す。母への不満を。



「監視は心配してるから?! 冗談じゃない! 心配してるのは貴女の『育児』っていうキャリアに傷がつくことでしょ?! そんな『愛』なんて理解できるわけないでしょ!!」



 吐き出す。父への不満を。



「裏切られたってひがむぐらいなら、最初から勝手に願望とか託すなよ!! どうせ期待してないんならッッッ!! 最初から求めないでよぉッッッ!!」



 吐き出す。自分への不満を。



「なんで……なんで、私はこんな世界でしか生きられないの……」



 もう、そこからは言葉じゃなかった。

 ただ泣きじゃくるだけ。言葉でもない恨み言を垂れ流すだけだった。

 それを薫は何も言わずに聞き続ける。泣きじゃくる夢莉の頭を撫でながら、ずっと耳を傾ける。


 そうして時間が経ち、夢莉が少しだけ落ち着くと、薫はゆっくりと口を開いた。


「……親っていうのは」

「……?」

「親っていうのは、いつから子に多くを望むようになるんだろうね」


 薫は夜空を見上げ、ポツリと零した。



「―――」


 何か月も腹に宿し続けて、腹を痛めて、ようやくの思いで産んだ、その時は。

 小さな命が生まれてくるのを待ち続けて、待ちに待った産声が聞こえてきた時は。

 二人はただ、その子の未来に幸福あれと願っていたはずなのに。


 いつから、自分たちの願望が呪いとなって子供を縛り始まるのだろう。


「分から、ないです」

「うん。私も分かんない」

「えぇ……」

「ごめんねー。……でもさ、やっぱり、生まれてしまった以上は仕方のないことなんだろうね」


 環境はどうあれ。両親の願いはどうあれ。あなたは生まれてしまったのだから。


「やっぱり、生きるしかないんだよ」

「……」

「星が好きな夢莉ちゃんは、宇宙は広いって思うかもしれないけど……そうじゃないんだよ。君の世界が狭すぎるんだ」

「……!」

「生きづらいのなら、生きやすい世界を開拓するしかない。人間は、いつだってそうやって立ち上がってきたんだから」


 私にできることは少ないけど。

 君の世界を広げるぐらいの手伝いは、どれだけでもしてあげられるよ。


 その言葉は、冷え切った夢莉の心に優しく降りかかってくる。

 キラキラと輝きを持って、まるで夜空を駆ける流星群のように。


「……私が折れそうになった時は、また助けてくれますか」

「出来ることは少ないけど、出来ることなら何でもするよ」


「次会えるのはすごく先になってしまうかもしれないけど……それでも、待っててくれますか」

「うん。夢莉ちゃんとまた会えるの、楽しみにしてるね」


「……今度会ったら、息子さんと会わせてくださいね」

「もちろん。うちのチビと遊んであげて」


 ぎゅっと、薫は夢莉を強く抱きしめる。その腕の温もりを今のうちに覚えておこうと、夢莉は涙と鼻水だらけの顔を薫の胸にうずめた。

 

 いつまでそうしていたのか分からないが、かなり時間が経っていたらしい。

 屋上から見える夜明けが、二人を淡く照らしていた。




 ***




 それから彼女がどんな道を歩み、薫とどんな再会を果たしたのか。

 それは今、語ることべきではない。


 ただ語るべきなのは、その最後。

 彼女は、不運であった。不運に愛されてしまっていた。


 それも、ただの不運だったのだ。

 その不運が命取りだった。


「ん……」


 紅葉達より少し早く目覚めてしまった、その不運。

 起き上がった彼女は周りを見渡す。それが最大の悪手であったことも知らずに。


「……あ」


 そして、彼女はのだ。


 美しくも悍ましい、最悪の存在を。




……?」




 2085年、某日。

 それが、彼女の命日であった。






**************

はい。4月2日です。3時半です。眠たい。でも頑張ります。

完全に大遅刻しましたが、寝るまでは1日換算ということで、更新しましたエイプリルフール回! いま6時間半ぶっ通しで書いてるので死にそうです!早めに切り上げます!

夢莉ですね。えぇ。いつの間にか退場したあの子です。本当なら玄二の後あたりに組み込もうと思っていた夢莉回ですが、流石に蛇足が過ぎるなと後回しにしてました。こんな過去があったんだよ、と今更ながら説明していく回です。最後らへんは無心で書いてるので誤字や文構造に異変があるかもです。ご指摘お願いします。

彼女の死の真相については、またいつか。

ということで、エイプリルフールでした!寝ます!!!!!!!!

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