眺めてるだけで十分です。
らい
ビッグバン
第1話 同次元だけど次元が違います。
……これは、私の幸せすぎる夢なのでしょうか。
今、私の目の前には、画面越しでしか見ることができなかった薔薇色のふわふわな髪を揺らしながら踊る
その姿はもう、天界から舞い降りた天女様のようです。デフォルメされてない現実バージョンでもこの美しさ、画面越しではないにせよ確実に次元違います。いえ、私と同じ次元にと思うだけで失礼ですね!! そのレベルで美しい!!
その少女と言っても通用しそうなほど、中性的な御顔に浮かぶ真剣な表情、精一杯やってるからこそ飛ぶ爽やかな汗は彼を輝かせるエフェクトにしかなり得ない!! それを見た私の心境はもう──「尊い」それ以外ありません。
あ゛あ゛ぁ゛あ゛!! と脳内ではその尊さに悶え転がりまくりながらも、表には出さないよう必死で表情筋を固め、レッスン室の隅で彼を眺めます。
至福の時間、最っ高、これ撮っていいですかね、家宝にします……! いえ、それなら
とまあ私の心境を覗いて貰えれば分かるとおり、「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の大波のごとく尊さに荒れ狂っているわけで、それは元プレイヤー、箱推し勢である私にとっては当たり前の反応なんです。ご理解ください。
現実で見る、僕様王子……破壊力がハンパじゃない!!
私みたいなモブ女とは比べ物にならないほど、綺麗で儚げな容姿とは裏腹、トップアイドルを目指す野心家……そんな彼の練習を見れるなんて思いもしなかった……!!
くじ引いた私ありがとう……!! あのとき私の一生分の運を使い切ったとかそんなこと無いよね!?
――私がこんな、『アイ育』ファンに懺悔してもし足りないほど素晴らしき幸運を引き当てたのは、つい先程、いえ、1時間目まで遡ります。
……と、1時間目に遡る前に、私が元プレイヤー、ということについて話しましょうか。
まず、端的に言うと、私には前世の記憶があります。
そう、アレです。乙女ゲームの世界に転生しちゃったあ☆ みたいなやつです。あ、馬鹿にしてるわけじゃないですよ!?
だがしかし、この世界は男性アイドル育成ゲーム。悪役令嬢もヒロインも存在しません。プレイヤーキャラは居るかもしれないけど、容姿について全く言及されていないので分かりません。
つまり、高確率で私はモブ、てかモブです。え、プレイヤー? こんな地味女、世界の不純物とも言える私がプレイヤーキャラであるはずがありません。
根本的に
……ああ、不満があるわけじゃありませんよ!? 不満なんてあるはずがない!!
……何のゲームかって?
あぁ、すみません! 有名なのでつい、知ってるかと思って説明を飛ばしてしまいました。
『IDOL育成―light―』、前世ではかなりの人気を博した男性アイドル育成ゲームです。舞台は少し先の日本、アイドルが芸能界を席捲する、人々の最大の娯楽となっている……アイドル戦国時代とも言える時代の話。
プレイヤーは『センドライトスクール』という学園のアイドルプロデューサー科、略してIP科に入学します。アイドルを
私は、この『IDOL育成―light―』、略して『アイ育』の、イベントランキング100位に入るか入らないか位のそこそこな立ち位置のプレイヤーでした。このゲーム抜きで1日は始まらないって程度にはやり込んでました。気持ち悪いやらなんやら好きに発言してください。自覚はあります。後悔はないですけど!!
そして私がこの世界に転生したと気がついて狂喜乱舞しかけた……いえ、前世の記憶を思い出したのはつい先月、つまり1ヶ月前、4月上旬の入学式の時でした。
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