転生のアオリカス~仁義なき親子の決闘~

業野一生

第1話 聖夜転生

国道をぶっ飛ばすミニバン。


運転手(ドライバー)は無敵武道(むてきたけみち)。


無事定年を向かえたのだが、年金支給の歳じゃないので契約社員として再雇用して貰い、現在30年位は確実に勤めた会社に再び奉公している。



「・・・・・・・」



遺伝子レベルに調教された寡黙で真面目な社畜の武道(たけみち)は、運転中は大変無言になられる運転手の鏡。



「親父……どこに行くんだ?そろそろ家につくハズなのに何で?」



声をかける男は息子の無敵藤治。


聖夜生まれ、27歳の素人童貞。


座右の銘は「路上死より安楽死」という大変根暗な困ったちゃん。



「プレゼントを買いに寄り道したいんだ。家にいる母さんと慎二の為に」



家には50代から早くもアルツハイマーとなってしまった悲しき母親と、双子の引きこもりである慎二が待っている。


 

(今日ここで悲劇を…………絶ち切るっ!!)



ブルンブルン



強い決意の元、走行距離13マン位になっているミニバンのエンジンを噴かす!



「父さんっ!車が早いよ!!制限速度超えてるから!」


「終わりにしよう……」


「へっ?」 


「二人で心中だ」


「はぁ!?慎二も殺せよ!」


「ボクガービッパー(ゲキマズ炭酸飲料)のペットボトルに入った玄関棚のメチルアルコールを母さんがよく間違えて冷蔵庫に入れている!」


「お前ぇ!それでも親か!」


「うるさい!もうつかれたんだよ!!ごめんなさい分かっただろ!!はぁぁぁぁぁぁぁ!」



社会的地位の問題から引きこもりを行政に相談するのが遅れた武道。


彼はトチ狂っていた。



「ガードレールが!」


「解脱!」



間近に迫るガードレール。


天国までのカウントダウンが始まったかと思ったその時!



バァァァァン!



「がっ!」 


「ぐぇ!」



二人を乗せたミニバンは逆走してきた高齢老人夫婦のEV車と激突。


物凄い勢いで車体が砕け潰れてゆく。



アフィチィィィィィィィ



高齢夫婦のEV車は人が乗れるスペースが無いくらい迄に潰れた挙げ句車道側に飛ばされた。



ギュゥゥゥゥゥ



タイヤには誰のか知らん血が絵の具代わりに地面を引きずる拍子で焼き焦げ跡と共に線を描く。



バンッ



武道と藤治を乗せたミニバンは奇しくも激突された拍子でガードレール外に弾き飛ばされた。



「飛んでる……俺」



藤治は投げ出されていた。


真下に写る光景を目の当たりにした彼は一瞬微笑む。



(どう?生命保険降りそう?それより俺の身体軽いが…………ん?)



だが同時に、彼は身体に違和感を感じた。



「へっ?」



彼は気づいてしまったのだ!


自分の身体が首だけになっていた事に…………。





真っ暗





「ここは?」


「選びの間よ、無敵藤治様……」


「お前は…………ま⚪こ?」



目の前に居たのは若い美人の女性だった。


下手すると18歳のJK位かも知れんね。



「私の名はアンジュ・アクタガワ……女神です」


「僕の名前はズシオ・ダサイオサムンだよ」


「なっ!?男もいるのかよ!」



よく見ると隣に色白の可愛いツインテールをした一瞬女の子みたいな男の子がアンジュの隣に居ることに藤治は気付いた。



「違います!ボクっ娘です!」


「論外!死ね!」


「酷い……グスッ!」


(ヤッベ、泣き顔たまらねぇ!)



ズシオの泣き顔に欲情する藤治。



「破廉恥な方ですね……」


「なっ!?他人が目の前にいるのにまさか俺は今下半身をまさぐろうとしていた!何故だ!」



未遂だが藤治は驚いていた。


普段ならこんな事絶対あり得ないハズだからだ。



「死後の世界だから本心が隠れないのです」


「なんだと?」


「だから今の君は生前よりアグレッシブになってるんだ」


「そうか……ならば!」


「きゃっ!」



シュワッチ


 

藤治はアンジュへ襲いかかる。



「はい、バリア!」


「んがっ!」



ピュイイイイン



が、あっさり防がれる。



「そういう事は転生してからしてください!」


「何!?転生させてくるのか?」


「その為の選択の間だからね……」



ズシオが答えた。



「ここは死んだ人が転生か地獄か天国に行くのを選ぶ場所なの」


「わざわざ地獄を選ぶ奴が居るのかよ…」


「業二(ゴートゥ)ポイントがあって悪いことしまくった奴は地獄だね」


「じゃあ俺選べなくね?」


「大丈夫よ!貴方は引きこもりで大して他人と関わってないからそもそもポイントが殆どたまってないの」


「やっぱ引きこもりって神だわ」



嬉しくなったので藤治は笑顔のガッツポーズ。




「それでどうするの?地獄?それとも地獄?あら、もしかして地獄?」


「じゃあ天国で頼む」


「それがごめんね藤治君、今日の天国定員締め切っちゃったんだ」


「は?」


「天国は人気なの。だから基本普通の人は転生ガチャをやるんだけど……」



ガサガサ



アンジュは玉座の下の引き出しを探している。



「コレよ。生前の功徳ポイントで回せるわ!一回300ポイント!」


「なんだと!?ポイントがいるのかよ!」



なんと転生にはガチャptが必要だったのだ。



「因みに君のポイント1500だね。うわぁ~十連すら回せないじゃん?どうすんのお前?」


「1500あるのか……一体どうやって貯まったんだ?」


「家の手伝い300に周りへの気配り思いやり300、生年月日ボーナスで200、後色々ね……でも人との関わりが少ない上にやった回数も人生も浅いからあまりポイントが貯まらなかったみたい……」



溜め息つきながらアンジュが語る。



「因みに内約は?」


「人間以外の生き物75パーセント、人間25パーセントで待遇SSRは0.00001パーセント位かな。だからリセマラ断念する人多いよー」


「ちくしょう……」


「そんな貴方にコレよ!」



アンジュが二枚のプラカードを両手に出す。



「くっさ!デモ隊かよ?」


「女神の私がオススメするコース!二つあるわ!」


「教えろ」


「一つは恒例の異世界転生!!女神アンジュがオススメする異世界にそこそこ強い力持って転生するコースにもう一つは人気売れっ子声優の鬼雨(きぐれ)ねむりの子どもとして転生するコースよ!」


「はぁ!?ネムリチャン!!」


(うわキモッ)



驚愕する藤治にドン引きするズシオに女神営業が上手く行った事に喜ぶアンジュ。



「ばっ、バカな!ネムリチャン!!結婚したのか!?俺以外の男と!?」


「既に幸せな家庭を築いているわ。貴方はそんな幸せな二人の家庭に転生するの!」


「おっ、俺は…………」



毒親育ちの引きこもりだった藤治は決意する。



「乗ります!僕をネムリチャンの子どもにしてくさだい!」


「わかったわ!」


「おェェェェ」


ゲボゲボドバドバ



こうして転生準備に入る三人。


何故か藤治は白ラインが引かれた場所に並ばされる。



「何でこんな場所に?」


「私達が持つ未来書によれば今から約三分後に訪れる第三波が鍵なの」


「まさかそれって……」


「そういう事よ?貴方には分からないだろうけど……」


「チクショォォォオ!!」



唐突に泣く藤治。そんな藤治を優しくあやすアンジュ。



「安心して藤治君……貴方が生まれたらそれどころじゃなくなるから」


「えっ……それは……」


「このコースの場合、貴方の性能(スキル)は据え置きなの!」


「えっ!?ちょっ!待っ!!」



焦る藤治。



「目標!最終段階(ラストスパート)に入ります!」



オペレーター風に姉に報告するズシオ。



「思ったより早いわね……藤治君、今からカウントダウンするから私がスタートと言ったら走りなさい!」


「えっ!?待っ!」


「オラ!何ボサッと立ってるんだ!クラウチングスタートしろよ!やる気あるのかお前!」


「ひぃぃ!」



藤治はクラウチングスタートの姿勢を取る。



「はい、よーいスタート!」


「カウントダウンは!?」


「「いいから走れ走れ!!」」



二人にせかされ走る藤治。



「おせぇぞ藤治!そんなんじゃカタツムリにも負けるじゃねぇか!」


「だって……だってェ……」



クタクタになる藤治。ズシオの煽りも耳に入らない。


そもそも思った以上に転生の扉は遠いのだ。



「さぁー藤治君の息切れの鼓動と共にお二人の鼓動もヒートアップしておられます!」


「クッ……糞ッ……こんな……」



藤治は怒りを抱いていた。


転生を促された挙句、女神と断種もせず貧弱な肉体で女装する男性神に煽られている事実に。



「こんなんなら地獄の方がマシだぁぁぁぁぁぁぁ!!」



その時である。



「!?」



何やら光のようなものが藤治の視線に広がってくる。



「女……の子?」


 

突如光の先には藤治が見たことがない素晴らしい王冠をつけ純白のドレスを着た美しい美少女が救いを求めるかのような表情で藤治を見つめていた。



バカンッ



「なっ!?」



その光景に気を取られていた瞬間に、藤治は地面に突き刺さっていた刃先が鋭利な鉈の取手に引っ掛かる。


鉈は藤治がぶつかった瞬間にどっかに吹き飛び、藤治は地面に尻餅。


更にその刹那……



パカッ 



「うわぁぁぁぁぁ!」



藤治の身体は突如現れた穴の底へと落ちてゆく。





「行ってしまいましたか……」



藤治が落ちた穴の先を見つめてそう呟くアンジュ。



「イッてしまいましたね……」



モニターを見つめながらそう呟くズシオ。



「それより貴方も逝きましたね」


「は?」


「下を観てごらんなさい、ズシオ」


「あっ!?ぁぁぁあああああ!!」



何故かズシオのモザイク部が履いていたズボンの社会の窓部分ごと綺麗さっぱり消えていた。


そして近くには鉈と若干赤く染まったモザイク部が転がっている。


どうやら翔んできた衝撃で切れ落ちてしまったらしい。


それは同時に服を脱ごうが隠す必要がない身体になってしまった証左である。


慟哭するズシオを他所にアンジュは藤治が落ちた穴を見つめていた……。










「……見慣れぬ天井……だけどこれって?」


「あの……貴方は?」


(なっ!?この子は俺が来るときに見えた姫様!!)



なんとそこは地獄ではなくどっかの城の中。


目の前には直前に見た幻の少女が居た。



「あの煽りカスが……」



イライラを思わず溢す藤治。



「アオリカス……様?」


「ゑ?」



少女はそれを藤治の名前と勘違いしていた。


それこそがこの物語の始まりなのである。


(続く)

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