後ろの席の眼鏡っ子が背中をつついてくるんだが……

砥上

最近の悩み

どうもこんにちは。


俺の名前は三原秋斗。


武陽高校二年D組に所属しているどこにでもいる至って普通の学生だ。


さて、そんな俺にはとある悩みがあった。


つんつん。


「……」


「はぁ……」


それは後ろ席のクラスメイトが隙さえあれば背中をつついてくると言うことだ。

今日もか……。


水曜三限。現国の授業を受けながら静かにため息をつく。

後ろの席の彼女。確か名前は……九条綴?だった気がする。

彼女の存在を初めて知ったのは二年生に進級した一ヶ月後にあった席替えからだった。


窓側後ろから二番目という好条件な席を運だけで手に入れた俺は有頂天のまま席を移動させ、その流れで後ろの席のクラスメイト。九条綴に挨拶をした。

彼女はビクリッと肩を震わせ、ボソリボソリと自己紹介をした。


よろしく!と一言返し、そこから九条の奇行は始まった。

翌日一時間目。


授業が始まってから十五分が経ったころ背中をつつく感触に目を向けると頬を赤くした九条と目が合った。


「なんだ?」と聞くと九条は大きく首を横に振り俯いてしまった。

頭に?マークを残しながら前を向く。


二時間目。


基本夜型の俺は連日の夜更かしの影響で眠気が最高潮に達していた。

優しそうな先生だから大丈夫!と言う中々なクズ思考に身を任せ机に突っ伏した。

余程眠かったのか一分と経たず俺は眠りについた。


「……?」


眠り始めてからどれほどの時間が経ったのかは分からないが、背中を滑る感触に目を開ける。

何かを書いているように動いている感触に体を起こし、目を擦りながら後ろを向く。

九条は俺と目が合うとノートで顔を隠した。


「?」


分からない奴。


それが俺が九条に抱いた最初の感想だった。


残りの授業は特に何かされることはなく。気付けば放課後になっていた

担任の挨拶と共にバックを持ち席を立ち上がる。

帰宅部の基本は直帰に限る!


そう意気込んで歩き出した俺を止める手があった。

九条だった。


「なんかようか?」


九条は俺と目が合うと顔を赤くし俯いた。


「……さ、さようなら……」


か細いながらによく通る声。


九条の言葉に「ああ、また明日!」と返し帰路に着いた。


二日目。


その日は四限から始まった。


授業が始まり十分が経過した頃、背中をつつかれた。

今日もか、なんて考えながら。ノートをとる。


五分が経過し、九条は指で何かを書いた。


まあ、分からなかったんですけど。


遊んでいるだけなのか?とか楽観的に考えながら時間は進み昼休みになった。

財布片手に購買に向かい。お目当てのパンをゲットし教室に戻る。


窓から吹く風に心地良さを感じながらパンを頬張る。


つんつん。


背中をつつかれた。


視線を向けると九条が箸を構えていた。


どうやら箸でつつかれたようだ。


「なんかようか?」


昨日と変わらず同じ言葉を口にする。


九条は首を大きく横に振り、卵焼きを口に入れた。


昨日からやられぱっなしだった俺は仕返しとからかいの意味を込めて九条の目を見つめた。


九条は俺の視線に気付くと数秒俺と目を合わせたままフリーズし、再起動したかと思ったらワタワタと手を動かし、視線を左右上下に動かした。


おっ!予想以上の反応。


顔をこれでもかと言うほどに真っ赤にした九条を見ているのは面白かった。

俺は調子に乗り更に顔を近付け視線を合わせた。

ふわりと匂う九条の匂いは優しく温かった。


「……!?」


九条は体を大きく左右に振り、ショートした機械のように頭から煙を出したかと思えば目を回し椅子ごと背中から床に倒れた。

ガシャン!と言う音が教室中に響き、クラスメイトの視線が一身に集まった。


この時ばかりはやりすぎたと思った。


「お、おい!大丈夫か!?」


席を立ち九条の元に駆け寄る。


顔から煙を出したまま目を回して気絶している九条を背負い保健室に急いだ。


頭とか打ってたら大変だ。



「……う、う〜ん……」


「起きたか……」


「うん……。……!?」


保健室のベットに寝かせてから一時間程が経ち九条は目を覚ました。

九条は俺と目が合うと後ずさりベットから落ちた。


「大丈夫か?」


保健室のベットと壁の間に見事にハマった九条に手を伸ばす。

九条は一瞬躊躇ったが手を取った。


「どこか痛いとことかないか?」


俺の心配はそれに尽きた。


「え……。う、うん……。大丈夫だよ……」


消え入りそうな声で「大丈夫」と言う九条の言葉を信じ、安堵する。

良かった。


「心配してくれたの……?」


「当たり前だろ」


「そ、そっか……」


「一つ聞いてもいいか?」


「な、何かな……?」


「隙さえあれば俺の背中をつつくのはなんなんだ?」


「!……め、迷惑だったかな……?」


「迷惑とかじゃないんだ。ただ、気になってな」


「……ない……」


「ん?」


「言えない……」


「……」


「……」


「そっか。分かった」


言いづらそうに口を噤んだ九条を見てしまったらこれ以上の詮索は無作法と言うものだろう。


「まあ、話したくなったら話してくれ」


「……うん」


「あー、あと」


「?」


「つつくのは良いが、授業中はやめてくれ。寝たいからな」


俺は演技臭くあくびする。


「……それも出来ない……」


「九条さんは意外とワガママなんだな」


「ご、ごめん……」


「別に怒ってる訳じゃないぞ。でも無理かー。う〜ん。じゃあ、頻度を下げてくれ」


「……頑張る」


小さく両手でガッツポーズをする九条は可愛かった。


「それと……。綴でいい……」


「俺も秋斗でいい。二回目だけどよろしくな。綴」


「!うん……!よろしく……!」


細くしなやかで力を入れたら壊れてしまいそうな程に華奢な九条の指はひんやりと冷たかった。


「じゃ、先に教室戻るから」


片手を上げ保健室の扉に手を置く。


「わ、私も行く……!」


「病人は休んでろ」


「どこも悪くないよ……?」


「顔赤いぞ」


「……!」


「お大事に〜」


保健室を後に教室に戻る。


これが俺と九条綴との出会い。



それから数日。


最初に戻る。


頻度は下がるどころか上がった気がします。


「……ふふっ」


三原秋斗君。


私を見つけてくれた人。


私が彼に抱いているこの気持ちは多分恋なのだろう。


「秋斗君……」


私の小さな呟きは誰の耳にも届かない。



続くかも……?

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後ろの席の眼鏡っ子が背中をつついてくるんだが…… 砥上 @togami3

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