第10話〜再会と別れ
…………。
初めはたどたどしく、段々と滑らかに。
少年は一生懸命に笛を吹きます。
青い鳥に想いが届くように、と。
躊躇いは消えて、思い出の音色は優しく部屋に満ちます。
青い鳥は驚いたように動きを止め、曲が進むにつれて少しずつ落ち着いていきました。
少年と青い鳥は、ようやく、再び出会う事ができたのです。
…………。
あの日、青い鳥が姿を消した日。
いつもとは比べ物にならない下手な笛の音が森に響いていました。
笛を吹いていたのは少年とよく似た、しかしとても冷たい目をした子供。
違和感を覚えつつも姿を現した青い鳥は捕らえられ、籠の中に閉じ込められました。
少年のお父さんは父親に青い鳥を見せ、そして青い鳥の羽を使って土地を豊かにしようと提案します。
金に困っていた父親は大喜びで賛成しました。
捕まえた青い鳥は羽を抜かれ、父親と弟は国王を始め有力な貴族たちに加工した青い羽を贈ります。
そこから領地は瞬く間に潤っていきました。
奇跡を宿す青い鳥の羽。
その言い伝えは、この国に住むほとんどの人が知っています。
父親が少年からもらった羽でその奇跡を証明した事で、青い羽は王族に、貴族に、大商人に、目も眩むような大金で売れたのです。
貧乏で貴族とは名ばかりだった彼らはあっという間に裕福になり、貴族の位も上がりました。
いつしか父親はこれまでの貧しい生活の反動か金に、欲望に溺れ、弟は後継になった事でさらに上を、もっと成り上がるのだと野心的になっていきました。
……金がなかったばかりに、一番大切な愛する存在を失った父親と、本当に求めていたものを見失い道を外れてしまった弟。
それはまた別のお話。
少年は、その事に気づく事なく、豊かになるばかりの生活の中で漫然と過ごしていたのでした。
…………。
少年は涙を流し、青い鳥に謝ります。
辛い目に合わせてしまったこと。
気付かず長い間見つける事ができなかったこと。
青い鳥は静かに少年の話を聞いていました。
人前に姿を見せてはいけないこと。
自分たちの羽が奇跡を宿すこと。
それを青い鳥はヒナの時から言い聞かせられて育ちました。
少年だけが悪いのではありません。
青い鳥もまた少年と一緒に居たいと願ってしまったのですから。
…………。
青い鳥は少年を見ます。
貧乏で細かった少年は、裕福になり太くなりました。
少年は青い鳥を見ます。
あの青空のように綺麗だった羽は所々はげてくすんでいました。
一人と一羽の姿形は変わってしまいました。
しかし、互いを想う気持ちは変わりませんでした。
少年は青い鳥からもらった羽を取り出します。
そして祈りました。
青い羽の奇跡は瞬く間に青い鳥を元通りの姿へと戻します。
少年と青い鳥はしばらく見つめ合いました。
少年は悲しげに色を失った羽をしまい、部屋の窓を開けます。
そして籠の扉を開きました。
青い鳥は籠から出ると一度少年の方に飛び乗り、そして開かれた窓から飛び立ちます。
言葉はなくとも一人と一羽は理解していました。
もう二度と会う事はない、会ってはいけないのだと。
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