第6話〜ぽっかり空いた胸の穴

…………。


少年はボーッと毎日を過ごすようになりました。


最近は勉強も習い事も、うるさく言われません。


いつからか父親と話す事はなくなりました。


弟とは長い間顔も合わせていません。


森に行くこともなく、笛を吹くこともなく、気まぐれにやりたい事をやってはすぐに飽きてやめてしまいます。


少年の心には、ぽっかりと大きな大きな穴が出来てしまったようでした。


…………。


少し前から生活は豊かになりました。


屋敷は建て直され、領地も発展して大きくなりました。


大きな屋敷には様々な調度品が並べられ、日々の生活すら困窮するようだった過去など、面影もありません。


欲しいものは簡単に手に入ります。


望めば楽器も、楽譜も、あっさり買ってもらえます。


しかし少年が本当に欲しい物は…


少年は望みません。


けれどいつの間にか部屋には笛や玩具、沢山の物で溢れかえっていました。


少年は望みません。


しかし大切な友達を失ってしまった空虚さを埋めるためなのか、気付けば手当たり次第に求めました。


少年の周りには思い入れもないモノばかりが積み上がります。


…………。


自分の事も、青い鳥のことも曖昧になってしまった少年は、ただただ欲しがるようになります。


あれが欲しい、これがいい、美味しいものが食べたい…


一度坂道で転がり始めたボールが自力では止まらないように、無気力な少年はどんどんダメになっていきました。


めんどくさい、知らない、やりたくない…


埋まることのない胸の穴に、手当たり次第にモノを放り込んでいるよう。


いつしか少年はわがままに、贅沢に、怠惰に生きるだけの存在になってしまいました。


部屋にモノは溢れているのに、心の中は空虚です。


青い鳥との思い出もボヤけ、大切な笛もガラクタの山に埋まってしまいました。


少年に代わり、弟が家を継ぐ事になりましたが、そんな事は少年にとってどうでもいい事です。


…………。


何のやる気も無くなってしまった少年は、やがて贅沢する事もやめて、ひたすら怠惰に生きるだけになります。


いくら求めた所で、手に入れた所で、欲しい物は決して自分の元へは戻らない。


心の何処かでは気付いていたのでしょう。


少年は寝て起きて食べてふらふらと出歩いてを繰り返すだけになりました。


もはやかつての少年の面影はありません。


好きなだけ寝て、やりたいと思ったことだけやって、美味しいご飯を食べて横になるだけの日々。


大事な青い羽は、宝箱に入れたままガラクタの山の何処かに埋もれています。

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