第5話〜消えた青い鳥

…………。


あくる日、少年はいつものように森へとやって来ました。


そしていつものように、笛を吹き始めます。


しかし…


いくら待っても青い鳥は姿を現しません。


「どうしたんだろう?」


いくら待っても、いつもより大きな音色で笛を吹いても。


青い鳥が姿を現す事はありませんでした。


…………。


次の日も、少年は青い鳥を待ちます。


しかし青い鳥は一向に姿を現しませんでした。


「もしかして、どこかでケガをして動けないんじゃ…」


少年は森の至る所を探し回ります。


けれど、どこにも見当たりません。


一緒に遊んだ森の広場も、冒険をした小川にも、どこにもいません。


少年は泥だらけになりながらも日が暮れるまで探しました。


声が枯れるまで青い鳥を呼びました。


何度も転んで手のひらも、膝も、体の至る所に傷ができました。


勉強も、習い事のことも忘れて、ひたすらに探し回りました。


青い鳥はおろか、青い羽の一枚とて見つける事はできませんでした。


…………。


辺りが暗くなり、少年はとぼとぼと屋敷へと帰りました。


屋敷では父親が少年の帰りを待っていました。


勉強も、習い事もサボって遅くまで帰らなかった少年のことを叱ります。


そして心配したのだと少年を抱きしめました。


少年は泣きました。


友達がいなくなってしまった不安、ケガをしていないかという恐怖、暗くなって独りぼっちの寂しさ。


叱られ、そして抱きしめられた事で、少年の心は一杯になってしまいました。


父親は少年が泣き止むまで待ち、なぜ帰りがこんなに遅くなったのか、そしてケガをしているのかを聞きました。


少年は、青い鳥の事は話しませんでした。


…………。


それからも時間の許す限り、少年は青い鳥を探しました。


しかし、青い鳥の影も形も見当たりません。


何日も、何日も、少年は青い鳥を探しました。


雨の日も、風の日も、季節が巡り、森の木々の様子が変わっても。


少年は笛を吹くことも忘れて、青い鳥を探しました。


家族と接する時間は短くなり、いつしか少年は誰とも話さなくなりました。


ただふらふらと森へと出かけては、当てもなくさまよい歩きます。


段々と記憶から青い鳥の姿が色褪せていきました。


なぜ毎日のように森を歩き回っているのか、その理由すらも朧げなものとなってきます。


青い鳥は、少年の友達は、本当にいたのでしょうか。


青い羽を取り出します。


これは本当に、青い鳥からもらったものだったのでしょうか。


勉強、習い事、怒ってばかりの父親、冷たい弟…


それらから逃げるために、青い鳥との出会いを妄想していただけなのではないか。


もう、少年は分からなくなってしまいました。


…………。


ある日、嵐がやってきて、そして過ぎ去っていきました。


少年は、もう森へと出かけるのをやめてしまいました。

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