第129話 G4
『ハロ~、マイチャイルド!』
レンの視界に、ビジネススーツ姿の"マーニャ"が現れた。
(マーニャさん)
レンは、正面に立っている"魔王"を見ながら内心でほっと安堵の息を吐いた。
『面白そうなことをやっているわね!』
2頭身の"マーニャ"が両手を腰に当てる。
(半分は成り行きです。ただ、イーズは放置すると厄介だということになって……)
やり方はともかく、イーズと関わるなら、立場をはっきりさせる必要があると、ケイン達と相談して対応を決めたのだ。
『マイチャイルドの意見は?』
(僕が、そうしたいと思いました)
これはキララも言っていたが、今のままイーズと付き合っても、イーズの商人だけが利を得ることになり、第九号島には何の恩恵も無い。
イーズ人が商人として第九号島を訪れるなら、第九号島にとって利となるものを提示するべきだろう。
『マイチャイルドが自分で考えたことなら問題無いわ!』
"マーニャ"が笑った。
(……この"魔王"は本物ですか?)
レンは、"魔王"の話を聞きながら"マーニャ"に訊ねた。
レンの質問に対して、"魔王"が答えている最中だった。
『う~ん……』
2頭身の"マーニャ"が小首を傾げた。
『本物の定義によるわね!』
(定義?)
『イミテーションではないわ! でも、完全な状態ではないの!』
(……えっと?)
『元々の思念の塊を10だとすれと、そこに来ている思念は、2……くらいね!』
(ああ……そういう感じですか)
『マイチャイルドに消滅させられることを想定しているのでしょう!』
腕組みをした"マーニャ"の頭上に吹き出しが浮かぶ。
("魔王"の方から呼び出しておいて……)
『彼の方も、マイチャイルドという存在に興味があったのでしょう。何て言うの? 怖い物見たさ? そういうやつよ!』
(……"彼"?)
レンの目の前に居る"魔王"は、若い女の姿をしているのだが……。
『本来、思念体に人間のような性別は無いわ。ただ、人形でも生身でも、実体を得る回数……時間数が増えることで、擬似的に雌雄の別が生じることがあるのよ。もちろん、リセットすることができるから、結局のところ性別は存在しないのだけど』
(それで……"彼"なんですか?)
『かなりの時間、雄型の個体を利用していたのでしょう。今は"彼"と呼んでも間違っていないわ!』
(でも、女の姿ですよ?)
まさか、女のように見えて、男の体なのだろうか?
レンは、注意深く"魔王"の容姿を観察した。
『マイチャイルドに会うために、いつも使っている雄型をやめて、雌型の個体を選んだのよ!』
"マーニャ"が笑みを浮かべた。
『女の姿なら、いきなり攻撃をしてこないだろうという計算ね! 対話の成功率を上げるための小細工よ!』
(……撃つつもりでしたけど?)
事実、相手が"魔王"だと名乗った時点で、引き金は半分近くまで絞っていた。
『若い女性や子供を問答無用で撃つと
(だって"魔王"ですよ?)
『本物かどうか確認できなかったでしょう?』
(まあ……はい)
『ところで、どうして"魔王"とお話をしているの?』
2頭身の"マーニャ"が首を傾げる。
(他の"魔王"の情報が知りたくて)
『素直に話すはずが無いでしょう?』
(はい)
『情報を提供したとしても内容が本当かどうかは判断できないわよ?』
(はい。でも、相手を観察する時間は稼げたと思います)
会話をしている間、補助脳による解析が進められている。"魔王"を観察する時間が欲しかったのだ。
『"魔王"も、君のことを分析しているわよ?』
(そうなんですか?)
『自分より強い相手を観察して、生き残る方法を考えているのね』
(……なるほど)
レンと"魔王"は、お互いに似たようなことをやっていたらしい。
レンの方は成り行きだったが、"魔王"の方は初めからそのつもりで姿を現したわけだ。
『ふふふ……マイチャイルドは、どこにでもいる普通の地球人よ! どこをどう調べても、それ以上の結果は得られないわ!』
"マーニャ"が両手を腰に当てて胸を張った。
(もしかして、それを報せるために?)
『そっちはついでよ!』
2頭身の"マーニャ"がレンを指差した。
『君が長話をしてくれたおかげで、"魔王"の所在を探知できたわ!』
(……そんなことができるんですか!?)
『それから、日本製の捕獲器を参考にした罠を設置しておいたわ! どんどん攻撃をして罠に追い込むのよ!』
(罠?)
『こっちの世界から地球側へ移動するルート上に仕掛けておいたわ! もちろん、ナンシーの許可を得ているわよ!』
(それって……ステーション?)
『"鏡"よ』
大氾濫のモンスターに影響を与えず、思念体のみを対象にした"罠"であれば……という条件で、設置することが許可されたらしい。
『苦心の作よ!』
どういった"罠"なのか、"マーニャ"は自信ありそうに笑みを浮かべている。
(捕獲器なんですか?)
『こういうやつよ!』
レンの視界中央に、折れ線と切れ込みの入った長方形の板が表示された。
(これって……)
レンが見守る中、長方形の板が折れ曲がり、切れ込み部分が噛み合わさって、小さい小屋のような形状になった。
『名付けて"ダルク・ホイホイ"ね!』
"マーニャ"が満足げに頷いている。
(掛かりますか?)
『掛かるわよ! 出口が決まっているのだから!』
自信ありげに"マーニャ"が断言する。
本場の製品なら、床面が強力な粘着シートになっているのだが、"ダルク・ホイホイ"はどうなっているのだろう?
(もう、設置を?)
『9分21秒前に完了したわ!』
(全ての"鏡"に?)
『もちろんよ! 自由に往来させるわけにはいかないでしょう?』
(はい。ただ……思念体が渡界する方法は"鏡"だけですか?)
『その程度の思念体に、オリジナルの
"マーニャ"が笑う。
『それに、もし別の手段を持っているのなら、使用させて確認するべきよ!』
(そうですね。潜伏場所が分かれば、もっと積極的に仕掛けられるのですが……残りの思念体は、3つですよね?)
『分裂して数を増やすことはできるのだけど、分裂を繰り返すことで力も目減りするのよ。頭数は増えても、力の総量は増えないわ!』
(成長するようなことは?)
『無いわ。前にも言ったと思うのだけど、あれは残り滓のようなものよ。時間と共に劣化し、滅んでゆく存在なの。マイチャイルドの時間感覚では永遠に等しい時間が必要になるけどね』
(10年や20年では無いんですね?)
『1000年や2000年では無いわ!』
(……斃すか、無力化します)
レンは小さく溜息を吐いた。
『少し前に、行動原理で類別したことを覚えている?』
(G1~G5ですよね?)
かなり前のことだった気がするが……。
『君は、G2とG3を消滅させたわ!』
(そうだったんですか。目の前のこれは?)
『G4……他の"魔王"が楽しそうにしている様子が気に入らない、というよりも、何が楽しいのかが分からないという類ね!』
(G4ですか)
補助脳が記録を表示する。
> G1:地球産のゲームを物質化し、地球人を招いて遊びたい。
> G2:地球人を招かず、閉じた世界として観賞物にしたい。
> G3:別世界の文明同士を戦わせたい。
> G4:他の思念体が楽しんでいることが気に入らない。
> G5:他の思念体の動向に興味が無い。
G2とG3を討伐したのなら、積極的に地球を攻撃しようとする存在はいないようだが……。
「どうかしら? 少しは満足してもらえた?」
不意に"魔王"の声が耳に入ってきて、レンは軽く眼を瞬いた。
『G4の本体位置はマーキングしたからね!』
視界中央で、2頭身の"マーニャ"がひらひらと手を振って消えていった。
「……色々、考えたけど」
レンは、どうしようか思案しつつ顔を俯けた。
補助脳が会話記録を表示する。
「"魔王"が言っていることが本当かどうか確かめようがない。ちょっと信用できないな」
ざっと会話記録を読んだところでは、他の魔王が過去に行ったことについての情報やイーズ人との関係などについて話していた。
「それはお互い様でしょう?」
女の姿をした"魔王"が薄らと笑みを浮かべてみせる。
(他の"魔王"とは協調していないけど……こっちの味方ってことではない。イーズ人に仕事を依頼するなら、"魔王"を排除してからにしないと駄目だ)
レンは"魔王"の顔を眺めた。
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"魔王"そっちのけで"マーニャ"と会話をした!
目の前の"魔王"は、種別:G4らしい!
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