第120話 対話

 

「ユキ!」

 

 レンの声に応じて、高々と跳んだユキが巨大ハンマーを振り下ろす。

 閃光発音筒スタングレネードで目をやられた巨大なバーブが悲鳴をあげて身を折っている、その後頭部を総チタンの鎚頭が痛打した。

 

 直後、レンが前に出て、ハンマーを収納したユキが後方へ退避する。

 

 

 ゲアァァァァ!

 

 

 巨大バーブが叫び声と共に、全身から棘状の液体を放った。

 レンの"シザーズ"が飛来する"棘"を防ぎ止める。

 

『ナノマテリアル反応が下方から接近します』

 

 補助脳のメッセージを見るなり、レンは大きく後ろへ跳んでユキの傍らに着地した。

 間一髪、レンが立っていた床面から赤黒い炎の柱が噴き上がる。

 

「左に」

 

 ユキが巨大バーブを見つつ左回りに走る。

 レンは、右へ回りながら対物狙撃銃を構えて引き金を引いた。身体能力が上がり、小銃でも撃つかのように対物狙撃銃を扱うことができる。

 

 

 ダァン!

 

 

 銃声を合図に、ユキが巨大バーブの頭上へと跳んだ。

 ほぼ同時に、脳内を銃弾で抉られた巨大バーブが頭を抱えて苦鳴をあげる。

 その頭頂を、ユキの巨大ハンマーが打ち抜いた。

 

 

 ダダダダダダ……

 

 

 レンは、【アイテムボックス】から取り出した重機関銃を至近から浴びせた。

 

(……本当に硬いな)

 

 12.7×99mm 弾が皮膚で防がれて床に散っている。貫通弾は、10発に1発くらいだろうか。ほとんどの銃弾が弾かれている。

 わずかに開いた傷口からは、水で溶いた石膏のような液体が流れていた。

 

(コア……核の位置は?)

 

 頭を抱えて苦悶する巨大バーブに銃弾を浴びせ続けながら、レンは補助脳に問いかけた。

 

『"核"が再生します』

 

(またか……)

 

 先ほどから、"核"の狙撃には成功している。だが、撃ち抜いて破壊しても、"核"が再生してしまうのだ。

 

 

 ゲアァァァ!

 

 

 巨大バーブの絶叫と共に、体表から染み出た液体が硬い棘となって飛び散った。

 "シザーズ"で"棘"を弾きながら、レンは背後に控えたユキを振り返った。レンの視線に気付いてユキが身を寄せる。

 

『ナノマテリアル反応多数』

 

 補助脳のメッセージと共に、レンの視界に無数の"円"が表示された。

 幾度も繰り返された攻撃パターンだ。

 

(何か変化は?)

 

 "円"で囲まれた場所から火柱が上がる。

 レンはユキの背に手を回し、半ば抱えるようにしながら火柱の隙間を縫って走った。

 

「スタン投げます」

 

「よろしく」

 

 レンの腕から離れたユキが閃光発音筒を放る。それに合わせて、レンは巨大バーブの顔面を銃撃した。

 

 今度は、巨大バーブが背後へ回ったユキを追って体の向きを変えた。

 直後、直上に跳んでいたレンが巨大ハンマーを振り下ろした。

 無防備な脳天を鎚頭が直撃する。蹈鞴たたらを踏んで前屈みになった顔前で、ユキの閃光発音筒スタングレネードが炸裂した。

 

 

 キィィィアァァァァ…………

 

 

 巨大バーブの悲鳴が響き渡った。

 

 間髪を入れずにユキがハンマーを叩き込み、追撃でレンもハンマーを打ち下ろした。

 

『"核"が消失しました』

 

(えっ?)

 

 レンはハンマーを【アイテムボックス】に収納しながら、苦悶する巨大バーブから距離を取った。

 

「変化が?」

 

 ユキが追って来る。

 

「"核"が消えたみたい」

 

 レンは、銃座ごと重機関銃を取り出して床に置いた。

 

「すると……」

 

 同じように、銃座を据えながらユキが巨大バーブを注視する。

 視線の先を、床を抱くようにして巨大バーブが倒れ込んだ。そのまま動きを止めて静かになる。

 

「最後に何かあるかも」

 

 レンは、重機関銃の射撃レバーを押し込んだ。

 

「そうですね」

 

 ユキも射撃を開始する。

 

 

******

 

 冥妃 [ クィーン・バーブ ] を討伐しました!

 

******

 

 

(……斃したのか)

 

 レンは、射撃レバーから指を離した。

 

 

******

 

 討伐ポイント:100,000

 異能ポイント:500

 技能ポイント:500

 採取ポイント:500

 

******

 

 

[冥府の智珠 : 1]

 

[冥妃の呪眼 :99]

 

[ヒビーズ  : 3]

 

 

******

 

 

「かなり、弾が減りました」 

 

 重機関銃を収納しつつ、ユキが呟いた。

 相当数の銃弾や替えの銃、銃身などを用意していたのだが、ここまでの連戦で12.7×99mm 弾の半分以上を消費していた。

 

「割合、考え直さないと」

 

「これは、ほとんど通用しません」

 

 ユキがHK417を手に溜息を吐く。HK417に使用する 7.62×51mm 弾の方は8割以上残している。

 

「ゲームで言ったら、どのくらいの敵なんだろう?」

 

 今のバーブが序盤の弱い敵だというのなら、この先は苦しくなる一方だ。

 

「クィーンという名称でしたから、かなり強い敵だったと……思いたいですね」

 

「バーブのクィーンか」

 

 異様に大きな頭と幼児の体躯という姿も見慣れてきた。

 

『転移光です』

 

 視界に、補助脳のメッセージが浮かんだ。

 

「転移だ」

 

「またですか」

 

 2人して小さく息を吐いた。

 その時、周囲が光に包まれ、幾度となく味わってきた空間を超える感覚が襲ってくる。

 

『ナノマテリアル反応が2つあります』

 

「モンスターが2体」

 

 光の中でレンは囁いた。

 

「了解です」

 

 ユキが答えた時、転移が完了して周囲を包んでいた光が消え去った。

 

 素早く視線を巡らせて周囲を確認する。

 

(部屋……)

 

 広々とした建物の一室。足首まで沈みそうな絨毯が敷かれた先に、小さな段差があり、金色の細工物で飾られた大きな椅子が設えてあった。

 

「こいつらか」

 

 レンは、正面に見えるモンスターを見て眉根を寄せた。

 

 2体の内、片方は"死告騎士"のオリジン・ワンだった。

 もう片方は新顔だが……。

 

(……同類か)

 

 よく似た外見をした細身のモンスターだった。唯一異なるのは、人間の顔らしい容貌をしていることだ。

 新顔のモンスターが椅子に座り、"オリジン・ワン"が少し前に立ってこちらに正対している。

 

(椅子の奴は、人形じゃない? 人間?)

 

『作り物です』

 

 補助脳が断定する。

 

(……そうなのか?)

 

『クィーン・バーブと同じ素材から生成されています』

 

(ふうん……)

 

 生身だろうと作り物だろうと、

 

(戦いになるんだろうな)

 

 レンは、"シザーズ"を両手に装着した。

 特殊スキルによる狙撃までは、2分ほど待たなければいけない。"クィーン・バーブ"戦で補助脳の演算能力がオーバーヒートぎりぎりになっている。

 

「正面のモンスターは、オリジン・ワンのようです」

 

「椅子に座っている奴を警戒しつつ、先にオリジン・ワンを仕留めよう」

 

「了解です」

 

 レンとユキは、左右の壁や天井を確認してから頷き合った。

 感知できる範囲に、他のモンスターはいない。

 

 2人で呼吸を合わせて、一気呵成に"オリジン・ワン"を攻撃する。そのためには、もう少し近づく必要があった。

 

『エネルギー波の照射を確認しました』

 

「えっ!?」

 

 レンは、咄嗟にユキの手を引きながら姿勢を低くした。

 

「攻撃ですか?」

 

 ユキが周囲を警戒しながら囁く。

 

「……何かのエネルギーを、こっちに向けて放ったらしい」

 

 レンは、大きな椅子に座る新顔の方を見つめた。

 

『信号です』

 

「信号?」

 

『変換表示します』

 

「何か……話しているのか?」

 

 レンは、補助脳が表示するメッセージを待つことにした。

 

「レンさん?」

 

「たぶん、あの椅子の奴が話しかけてきてる」

 

 レンは、補助脳が信号を拾って意訳をしていることを伝えた。

 

「モンスターと会話が成り立つのですか?」

 

「……たぶん」

 

 レンは、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

 

======

 

冥妃 [ クィーン・バーブ ] を討伐した!

 

玉座に座ったお人形が現れた!

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