第53話 第九号島



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 こんにちは!

 TLGナイトメア運営スタッフ、使徒ちゃんです!


 渡界者による浮遊島[第九号島]の所有が正式に承認されました。これにより、[第九号島]の全ての施設が利用可能になります。

 なお、島内施設を正常稼働させるため、各施設の運営スタッフを派遣することが決まりました。スタッフ到着まで、今しばらくお待ちください。


 事案発生場所 :廃棄された浮遊島 第九号


  討伐ポイント:0

  異能ポイント:500

  技能ポイント:500

  採取ポイント:0


 固定報酬   :魔導具使用権(第九号島内限定)


 特別称号   :トリックスター


 以上になります。


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 このカードが届いてから、5日が過ぎている。


「何も起きねぇな」


 ケインが寝不足の目を擦りながら呟いた。船渠ドックの事務所で、レンとケインが夜明けを待っていた。


 連日連夜、異変に備えて船の修理と改造を急ピッチで進めていたのだ。

 ミルゼッタ達が乗っていたファゼルダ製の三胴船に、デシルーダの白い船を載せて接合し、動力炉の位置や数を変更した。船渠に廃棄されていた資材を利用して、外装甲を補強し、上側を洋上迷彩、底部は灰色に塗装した。

 上空からは海原に紛れて発見されにくく、下方からは空に溶け込んで見えにくいらしい。

 色を変えたところで、魔力を探知されれば位置を特定されるから気休めだったが……。


「送られてくるスタッフってのは、ステーションにいるような連中かな?」


 ケインがレンを見る。 


「友好的なら良いですけど」


 レンは、補助脳の探知情報に目を通した。

 まだ、地下に生体反応は無い。


「う~ん、なんか……俺達が登場人物ってわけじゃなさそうだな」


 ケインが大きな欠伸をしながら頭を掻いた。


「どうしてですか?」


 レンは机上の魔導銃を弄りながらケインを見た。

 カードに記されていた内容は、まだ反映されていないらしく、船渠の魔導具は使用できないままだ。当然、魔導銃も発射できない。


「キララが言うように、俺達がゲームの登場人物ならGM……進行役と会話ができる環境があるはずだ」


「そうなんですか?」


「まあ、俺はそこまで詳しくねぇが……仮に、夜空に見えたのが"ダイス"だったとして、何を決めるために転がしたんだ? テーブルトップなら、俺達がやろうとしたことの可否や成果の程度を決めために"ダイス"を転がすんだぜ?」


「違うジャンルのゲームということでしょうか?」


 レンは、"使徒ちゃん"のメッセージカードを取り出した。


「ごちゃ混ぜなのは間違いないけど……」


 キララが洗面用具を手に近づいてきた。


「主要人物なんかは別にいて、私達は用意されたストーリーにイレギュラーな影響を与える遊びの要素……そんな感じかな? ガツンと濃いやつお願い」


「おう! マイマイは?」


 頷きながら、ケインがエスプレッソメーカーを取り出した。


「マイちゃんも起きたわ」


「珍しく早起きだな」


 ケインが事務所の窓へ目を向けた。

 まだ日の出前だった。


「マキシスやミルゼッタも起きてたわよ」


「……ふうん?」


 ケインがレンを見た。


「特に、変わった感じはしません」


 レンは首を振った。

 見張りの交替まで2時間残っていたが、マキシス達が起きたならユキも目を覚ましたかもしれない。


『直上に、指向性のエネルギー波です』


 視界に浮かぶ補助脳のメッセージと共に、レンは事務所から飛び出して上空を振り仰いだ。



 ギィィィィィ……



 何かが軋む音が響き渡った。


「イベントか?」


 ケインが64式小銃を手に追いついてくる。

 

 

 ギギィィィ……

 

 

 耳に障る異音がして、空が裂けた。

 そうとしか表現できない。

 レン達が見上げる先で、空の上に右から左へ一筋の線が走り、ゆっくりと上下に分断され始めた。


(あれも宇宙空間で起きているのか?)


『測距不能です』


 補助脳が答える。


(どういうこと?)


『あれは存在しません』


(……幻?)


 映像のようなものを見せられているのだろうか?


『エネルギー波は存在します』


(エネルギー……)


 レンは目を凝らした。


「なに、今の……?」


 大きめのTシャツに短パンという寝間着姿のマイマイが船から出てくる。


「マイちゃん、イベント! なにか起きるわ!」


 キララが興奮顔で声を上げた。

 次の瞬間、

 

「うっ……あっ!?」


 声を漏らしたのは、船から出てきたミルゼッタとマキシスだった。

 上下に裂けた空の隙間から、白く輝く光の奔流が溢れ出した。そう感じた直後、レン達の居る浮遊島が眩い閃光に包まれていた。


(……この光は!?)


『魔素子のエネルギー塊です。人体に害はありません』


 閃光で失われた視界が、即座に補正される。


(あっ……閉じてる!)


 今の一瞬で、空の裂け目が無くなっていた。


(……みんなは?)


 周囲を見回すと、レンを除く全員が視界を奪われて目を押さえている。


「レンさん」


 ユキがアイミッタを連れて船から出てきた。HK417を持ち、戦闘服の上から防弾チョッキを着て、八八式鉄帽を被っている。すぐに外には出ず、船内で閃光をやり過ごしたらしい。


『探知範囲内に、ナノマテリアル反応が多数出現しました』


 補助脳のメッセージが浮かんだ。同時に、地下街の地図が表示され、多数の緑点が点る。


(地下街に……モンスター? いや、これが派遣されたスタッフ?)


 緑点が点滅している位置は、無人の地下街にある店舗の中だ。


「地下に……何か動きがあった」


 レンは、HK417に初弾が装填されているのを確かめつつ、ケイン達に声を掛けて回った。


「大丈夫……まだ、チカチカするけど」


「すげぇ閃光だったな」


 ケインが顔をしかめながら言った。


「地下施設の調査に行きます。念のため、船に入って脱出の準備をしておいてください」


 地下に現れたのが手に負えない強さのモンスターだった場合、島を離れなければならなくなる。


(なんとなく、大丈夫そうだけど)


 ケイン達が船へ入るのを見届け、レンはユキと一緒に地下街へ降りる階段へ向かった。


 その時だった。

 いきなり、目の前に銀色の文字が浮かび上がった。咄嗟に姿勢を低くして銃を構えたレンとユキだったが……。


「これ、先に通知するべきだろ」


 レンは溜息を吐いた。隣でユキも小さく息を吐いている。




******



 こんにちは!

 TLGナイトメア運営スタッフ、使徒ちゃんです!


 お待たせしました!


 [第九号島]に、専属スタッフが派遣されましたぁ~!


 [第九号島]は、渡航禁止区域に指定されています!


 [第九号島]管制エリアが開放されます!


 [第九号島]ドックが自律稼働します!


 [第九号島]浄水循環器が稼働します!


 [第九号島]ターミナルが解放されます!



 シーカーズギルド・九号島支店がオープンしました!


 ゾーンダルク中央銀行・九号島支店がオープンしました!


 トリガーハッピー・九号島支店がオープンしました!


 治療クリニック・九号島支店がオープンしました!


 ホテル"九号島"がオープンしました!


 今後も、条件を満たすことで多数の店舗がオープンしますよぉ~!

 

 お楽しみに~!



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「第九号島……」


「他にも、一から八号まで島があるということですね」


 ユキが呟く。


「もっとあるかも」


 それこそ、千号島くらいまで浮かんでいても不思議ではない気がする。


「ああ……みんな出て来ちゃった」


 レンは船の方を見た。

 使徒ちゃんのメッセージを読んだケイン達が船から出てきた。後ろから、マキシスやミルゼッタ、アイミッタまでついてきている。


(探知範囲内に、ゴブリンの反応は?)


『過去に遭遇した敵性種に該当する反応は存在しません』


(姿を消した奴もいない? 連続して瞬間移動してるとか?)


『視聴覚阻害スクリーンの解析は終了しています。短距離転移の予兆も探知可能です』


 補助脳のメッセージが太字で強調表示された。






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白いカードは、"使徒ちゃん"からのメッセージだった!


天空からの閃光を浴びて、レン達の浮遊島が蘇った!

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