第7話

 隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。


 彼女は今、もやしの一生をテーマとした小説を書いている。

 なぜもやしなのか、理由を尋ねてみた。


「もやしをね、栽培してみたの」

「へぇ。自分で作れるんだね」

「普通、作物って太陽の光を受けて育つでしょう。もやしには、それがいらないの。それどころか、栽培している瓶をアルミホイルで覆って遮光するの。緑化しないように。それでも、たくさん栄養が含まれているのよ。あんなに繊細な外見なのにね。90%が水分だからとてもヘルシーで、ダイエットにも最適。いろいろな料理に合うし、スーパーで買ってもいつも安いから主婦の味方。それなのに、常にわき役のような扱い……」


 珍しく、深大寺さんが熱く語っている。

 もやしに対する思い入れは、相当強いようだ。


「私は、そんなもやしのポテンシャルを、もっと世の中に広めたいの」

「そっか。もやしに光を当てたいんだね」

「光を当てたら、もやしではなくなってしまうわ。緑が生い茂ってしまうから」

「そうなんだ」

「そうなの」

「じゃあ、日陰者のままの方が、いいんだね」

「そうね、日陰者じゃないと、もやしではないわね」


 やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。

 今日の弁当の中身は、『もやしナムル』と『もやしおやき』だった。

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