第34話 裁きの光
アルフレッド視点です。
あと数話で第一章が終わります。その後閑話で各婚約者たちのイチャコラを書いて第二章に突入します(第二章ではマリアを中心とした話になります)
資格が欲しくて簿記の勉強をし始めたので今までより更新が遅くなると思いますが、読んでもらえたら嬉しいです
一体これはどういう事なんだと、そう思わずにはいられない。
ノエルとの公務先の教会に到着してみれば、彼女の家の騎士と王宮の騎士が慌ただしくしていた。
何事かと確認すれば、突如現れた氷の壁に阻まれて、裏庭にいるノエルの下へ行けないのだという。何故常に一緒にいないのかと問えば、教会や裏庭に出入りする孤児たちを怖がらせないよう、普段から教会では入り口で待機しているのだと説明してくれた……が、そんなものが離れて良い理由にならない。
『……彼女は伯爵令嬢と地位は低いけど、次期王太子妃であり王妃なのは理解してる?』
怒りが沸いてくる。伯爵お抱えの騎士ならまだしも、王宮の騎士まで同じ事をするとは思いも寄らなかった。彼女の安全を第一にという命を受けている筈なのに、目を離した挙げ句守る事も出来ないとは情けない。職務怠慢も良いところだ。
『今氷の除去中で』
『――もういい』
壁の向こう側から吐きそうになる気配を感じる。今まで感じた事はなかったものだけど、これが悪いものなのは十分感じ取れる。そこにノエルがいるのなら、一刻も早く彼女を助けなきゃいけない……騎士の作業を待っている暇はない。
『離れろ』
氷に向かって掌を向ける。脳内で氷の壁を溶かす程の炎の渦を想像しながら、向けた掌に魔力を集めた。
徐々に集まる魔力を放ちながら、渦になるように螺旋状に力を動かす。すれば渦になった魔力から火が上がり、炎となって氷の壁を呑み込んだ。
『……あの王子が』
聞き捨てならない言葉が聞えたけど、言われても仕方ないので無視を決め込む。正直自分でもこんなに上手く行くとは思ってなかった。
緊急時につき、流石にウィリアムも何も言わない。魔法が学園入学まで禁止となっているのは、貴族ではこうしてその手の者の暗殺や襲撃に遭いやすいからだ。自己防衛や守るためなら認めれている。
氷の壁は僅か数秒で溶けきって、その向こう側の状況を露わにさせた。その瞬間、先程とは比べものにならない程の怒りが沸点を超えた。
壁の向こうにいたのは、アカリだ。こちらを背に立っているアカリの更に奥には、ノエルと……ゲームの初期設定ヒロイン・マリアの面影のある少女がいた。
俺たちに気付いていないアカリは氷の刃を作りだし、対してピンク色の髪の少女はノエルに覆い被さるように身を小さくさせている。どういう状況なのかは一目瞭然だった。
(やっぱり……前世でしっかり終わらせておくべきだったよ)
今度は手ではなく、脚を通って地面に向けて魔力を流す。流した魔力をアカリとノエルたちの間で地面から噴出させれば、燃えさかる火柱となった。
「……君、僕の婚約者とその友人に、一体なにしようとしてたんだい?」
聞かなくたってわかる。作った氷の刃で二人を殺そうとしていた。何も出来ず右往左往していた騎士も含め怒りでどうにかなりそうだった。
(いや……違うな。全部、俺のせいだ)
騎士たちが職務を全うしていなかったのは、俺が原因だ。綺麗事だけの口先だけな怠け者なアルフレッドに対して、忠誠心がない故に起きた事だ。責めるべきは、俺自身だ。
(だからこそ、ちゃんと終わらせよう)
大切な人を本当に守るために、ケジメをつけよう。同時に過去の因果も断ち切って、俺はアルフレッドとして俺の責務を全うする。今までの坊ちゃんだったアルフレッドと、前世のお人好しのショウともお別れだ。
「ウィル。ノエル嬢とご友人の保護に回れ」
「しかし……」
「行け」
有無を言わさず指示すれば、ウィリアムは渋々二人の下へ向かった。事の成行きを見守るようにこちらを見ていたピンク色の髪の少女と一瞬目が合う。彼女の瞳は、青々とした空のような瞳をしていた。その瞳に恐怖の色はない。あるのは彼女の真っ直ぐで強い意志だけだった。あの子が数年後に学園で男を侍らせてノエルたちを破滅に導くなど、ちょっと想像に難い。
「ショ……ショウさぁ~ん!!」
まるで被害者の如く振る舞いながら走ってくるアカリの足下に、瞬間的に炎を出現させて立ち止まらせた。
お前は被害者じゃないだろ。真正なる被害者は奥にいる少女二人だ。
「……質問に答えてくれないかな。の婚約者と友人に何をしようとした?」
再度問えば、アカリは目を輝かせて「そんなの決まってるじゃない!」と嬉々として答え始めた。
「わたしとショウさんの愛を邪魔する二人を掃除しようと思ったの! うふふ、わたし偉いでしょ?」
前世と変わらず、アカリは自分が正しいと疑いもしていなかった。ショウだった頃、何度も過ちに気付いて改心してほしいと思いながら話した事もあったが、本当に無駄だったんだなと思い知り……手を伸ばして再び近付いて来るアカリの手を火の粉で阻止した。
「……寝言は寝て言うものだ」
「あら、わたしは寝てないわ?」
「捕らえろ」
一部始終を見守っていた騎士たちが動き出す。小さくも罪人なため、アカリへの扱いは容赦ない。それに対してアカリが抗議の声を上げるも、これ以上失態を犯さないために、騎士も本気だった。
「離しなさいよ! ショウさん助けて!」
「罪人を助ける必要はない」
「なんで私が罪人なのよ!! 被害者はわたしよ!? 助けなさいよ!! 愛してる相手が不当に連行されそうになってるのよ!?」
「そのことだが……君にしっかり伝えておきたい」
アカリの前に立つ。何を勘違いしているのか、アカリが頬を染めて見つめてきた。対して俺はどんな顔をしているのか……口を開いて、言葉のナイフをアカリに突き刺した。
「俺が、君を愛する事はない」
アカリの笑みが凍りつく。前世でも言って、聞いてもらえなかった言葉がやっと届いた気がした。
「俺の愛する人を害そうとした君を、俺は決して許さない」
貴族令嬢のなりすましと王子の婚約者への殺人未遂で、きっと彼女は強制労働施設へ収容されるだろう。重くて死刑。どんなに軽くても修道院行きは確定だ。この先の人生で関わる可能性はなくなるだろう……最期の時だ。
「永遠に、さよならだ」
終わりだと騎士に伝え、連れて行くように指示を出す。
俺もノエルの下に向かおうとした瞬間、アカリが甲高い声で笑い始めた。
「あははははははは!! さようなら!? あなたを残して逝くわけないじゃない!!」
アカリの身体から、黒いモヤが溢れ出す。騎士には見えていないのか、壊れた少女に顔をしかめているだけだった。その間にも、悪臭を放つモヤはどんどん色を濃くして周囲を黒く染めていく……ヤバいと直感が知らせてくるが、モヤの中にいる不気味な生物と目が合い動けない。
「あなたはわたしのものよぉぉぉ!!」
黒いモヤとともに、赤い目の何かが飛んできた。
身を守るために炎を纏おうとしても、相手の方が早い。間に合わない。
「一緒に逝きましょぉぉぉ!!」
「駄目ぇっ!!」
身体を貫かれると身構えた瞬間、少女の悲鳴にも似た叫びとともに、眩い光が周囲を包み込んだ。
温度は感じない。けれど乱れた感情が落ち着いていくのを実感する。この光はみんなに見えているらしく、周囲も狼狽していた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
アカリの悲鳴が響く。まるで焼かれているように皮膚がボロボロになっていった。
目の前で起きている知っている現象に、俺は息を呑んだ。
(これは……“裁きの光”!?)
ノエルに寄り添う少女を見る。本人は何が起きたのかわからず、目の前の光景に動揺していた。
裁きの光――乙女ゲーム【学園グランディオーソの桜】で、ヒロインが悪魔を倒す際に発動させる聖女の力の一つだ。
(覚醒……した?)
ヒロインが聖女の力を覚醒させるのは学園に入ってからだ。それが今、まだ学園に入る前に覚醒してしまった。
俺に向かって飛んできたモノの姿は何処にもなく、光が消えたこの場所には、黒い灰だけが残った。
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