魔石鍛冶屋さんの覗く記憶
あとうじ
1日の始まり
朝、カーテンから光が差し込み、街の協会の鐘の音が響き渡る。その音が目覚ましとなってもう3年。ネクスはベットから横たわっていた体を起こして身震いする。季節は冬、雪が降るほどではないがもう何か羽織らないと風邪を引いてしまう程の寒さだ。
ベットから出て、昨夜溜めておいた水で体を軽く洗って完全に目を覚ます。あまりの冷たさに「うひっ」と変な声が出てしまう。体が冷えてしまわないうちに着替えて下の階に降りる。
階段を降りると店になっていて、綺麗に並べられた棚には大剣から短剣まで幅広い種類の武器が並べられている。これは全部ネクスが作ったもので、商品である。その中でも一際目立つ1本。カウンターの奥に飾られた綺麗な剣。細かく装飾されていて、まるで貴族が持っていそうな剣である。剣の鍔には赤い宝石がはめ込まれていて、窓から射す光を反射させてキラキラと光っている。
「おはよう、今日も頑張るよ」
ネクスはその剣の鞘を触って剣に対して挨拶をした。剣に向けて微笑むネクスに対してまるで返事をしたかのように剣にはめ込まれている宝石が光を反射する。
一晩中冷やした1階は寒くてがらんとした様子が少し寂しさを感じさせる。ネクスは腕を組んで体を擦り温めるようにして、暖炉にしゃがむ。薪を入れて、簡易魔法"スパーク"で火をつけると、暖炉から光と熱が生まれる。少し暖まってから「よし」と腰を上げて入口のドアを開ける。
ドアを開けるとすぐに細い道が見える。まだ朝早いので人一人歩いておらず、辺りは静まり返っている。
少し前に出て、振り返る。そうしてネクスの住居兼お店が視界いっぱいに映る。
「今日もいい感じだな!」
3年経っても綺麗なお店の外観に満足して店に戻ろうとする。
「あれから、もう3年か。」
いつの間にか店を見上げていたネクスは下を見ていた。
瞼に焼き付いたあの光景を思い出す。
夜にも関わらず辺りを赤く照らして、空に黒煙をあげる村。
自分の腕の中にいた一人の愛する女性。
そして、首から上のない騎士に扮した魔物。
瞑った瞼を開いてドアにかけてある板を裏返す。"CLOSE"と書かれていた板は"OPEN"に切り替わり、開店したことを示す。
ネクスはドアを開けて店の中に入る。これが一日の始まり。1人の鍛冶屋とお客さんの物語の始まり。
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